サイボウズ株式会社

みんな同じ気持ちで働いているわけじゃない。本を通して人を理解することが、楽しい仕事に繋がっていく――佐賀之書店・本間悠

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 働き方に悩んでいる人
  • 読書を通じて生き方を見直したい人
  • 書籍を活用して自己啓発をしたいビジネスパーソン
  • 仕事や職場の人間関係に課題を感じている人
  • 多様な働き方を模索している人
  • 書店や本に興味のある人
Point この記事を読んで得られる知識

このインタビューでは、佐賀之書店の店長である本間悠さんの視点から、本がどのように働き方や生き方のヒントを与えることができるのかに焦点を当てています。本を読むという行為が、現代の多様な働き方や生き方を再評価する手助けとなることが述べられています。本間さんが企画に参加し選んだ書籍リストは、働き方に関連する様々な観点や状況を考える上での指針となるものとされています。

また、本間さんは「働く+女性」というテーマで選書を行い、女性の働き方やその悩みに焦点を当てています。書籍の中には働くことの喜びと悩みが描かれており、それぞれの物語を通して働くことの意義を新たに問いかける内容になっています。その中で特に推薦された『わたし、定時で帰ります。』は、働くとは何か、自分の働き方を見つめ直すきっかけとなると紹介されています。

記事は、本が多様な人物や考え方を教えてくれることで、人間関係を見直したり自分の働き方を考え直すきっかけを与えてくれるメディアとしての可能性を説いています。特に、多様なキャラクターとの出会いやエピソードを通じて、他者との関係性やコミュニケーション、働くことへの捉え方を広げられることが可能である点が強調されています。

Text AI要約の元文章
働き方・生き方

本とはたらく

みんな同じ気持ちで働いているわけじゃない。本を通して人を理解することが、楽しい仕事に繋がっていく――佐賀之書店・本間悠

デジタル化が進む昨今、ネットやSNSを通じて、私たちは容易に他者とつながれるようになりました。

一方で、本を読むことはひとりになることです。 誰とも話さず、繋がらず。じっくりと読書しながら自分の内面と向き合う時間。

働き方の価値観が多様化し、どのように働き、どのように生きるのかが問われている時代に、「本」は働くことを自分で見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。

本が教えてくれる、これからの働き方のヒント。その可能性を掘り下げるべく、サイボウズ式の出版チームである「サイボウズ式ブックス」では、本のプロである書店員さんにお話を伺うことにしました。

今回お越しいただいたのは、佐賀にある書店「佐賀之書店」店長の本間悠さん。

「ほんま大賞」というオリジナル文学賞を独自に展開するなど、本の目利き力が高いカリスマ書店員として知られています。出版社からの依頼で本に推薦文を寄せたり、メディア出演も多数。大注目されている書店員のおひとりです。

本間さんが選んだ「働くを考える本」の紹介も交えながら、「本」と「はたらく」について、たっぷりお話を伺いました。

働くことにネガティブになってる人に読んでほしい本とは?

本間さんには、「書店員さん選書リレー by サイボウズ式ブックス」という企画にご協力していただきました。

「佐賀之書店」のオーナーでもある直木賞作家の今村翔吾さんと、クリエイティブデザイナーの佐藤可士和さんがオープンしたシェア型書店「ほんまる神保町にサイボウズ式ブックスが棚を借りて、書店員さんに本を選んでもらう企画。

選書のテーマは「働く+○○」で、リレーのように選書する書店員さんが交代していきます。

第一回目として本間さんに選書を担当してもらいましたが、依頼を聞いたときはどう思われましたか?

森潤也(もり・じゅんや)。出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。主な編集担当作に、凪良ゆう『わたしの美しい庭』、ほしおさなえ『活版印刷三日月堂』、やなせたかし『わたしが正義について語るなら』など。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。

本間
「働く」って今までの依頼で意外となかった選書の切り口で、面白いなと思いました。たとえばサラリーマンや自営業、専業主婦だって労働なわけですし、幅広く人に焦点を当てられるテーマだなとあらためて感じました。

本間悠(ほんま・はるか)。佐賀県在住。直木賞作家・今村翔吾氏がオーナーを務める「佐賀之書店」の店長。一年間でいちばん面白かった本を表彰する独自の文学賞「ほんま大賞」を主催し、選ばれた本は本屋大賞受賞作より売れることも。文芸誌やwebでの連載、書籍の推薦コメント執筆やメディア出演も多数。

○○の部分は担当書店員さんがご自身でテーマを決めるわけですが、本間さんが選ばれたのは「女性」。その理由を教えてください。
本間
やっぱり私が女であることが一番ですね。

結婚して子供ができたら、家にいないといけないのは自分でしたし、夫の転勤による転居もあって、働きたいのに働けない時期もありました。働けるようになったあとも、周囲との期待値の差があって、女性が働くこと自体歓迎されていないのかな? と勘繰ってしまうときもありました。

もちろん男ならではの悩みもありますけど、私が寄り添えるのは女性の悩みですし、今の自分が向き合えるテーマはこれかなと思ったんです。

「書店員さん選書リレー」 本間さんの選書(2024年9月~10月)

選書テーマ:「働く+女性」
  • 『かごいっぱいに詰め込んで』真下みこと 講談社
  • 『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子 講談社
  • 『汝、星のごとく』 凪良ゆう 講談社
  • 『女の国会』新川帆立 幻冬舎
  • 『うたわない女はいない』働く三十六歌仙 中央公論新社
  • 『だから私はメイクする』シバタヒカリ 祥伝社
  • 『だから私はメイクする2』シバタヒカリ 祥伝社
  • 『わたし、定時で帰ります。』朱野帰子 新潮文庫
  • 『わたし、定時で帰ります。2 打倒!パワハラ企業編』朱野帰子 新潮文庫
  • 『わたし、定時で帰ります。3 仁義なき賃上げ闘争編』朱野帰子 新潮文庫
  • 『オオルリ流星群』伊与原新 角川文庫
  • 『働く女』群ようこ 集英社文庫
  • 『夜明けのすべて』瀬尾まいこ 文春文庫
  • 『自転しながら公転する』山本文緒 新潮文庫
  • 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』村田沙耶香 角川文庫
  • 『セゾン・サンカンシオン』前川ほまれ ポプラ文庫
選書リレーで選ばれた本、バラエティに富んでいて面白いですね。

「働く」に繋がる本を考えた時に、ビジネス書やお仕事小説などはイメージしやすいですが、『うたわない女はいない』のような歌集もあって驚きました。

どういう切り口で本を選んだんですか?
本間
強いて言うならジャンルを問わず「読み終えたときに、明日も仕事を頑張ろうと思える本」です。働くことに少し疑問を抱いていたり、このままでいいのかなと悩んでいたり。ちょっとネガティブになってる人に読んでもらいたくて選びました。

楽しみながら自分の働き方を見直せる本とは?

特におすすめの本はありますか?
本間
この中だと、朱野帰子さんの『わたし、定時で帰ります。』かな。

『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子/新潮文庫/新潮社)
絶対に定時で帰ると心に決めている会社員の東山結衣。非難されることもあるが、彼女にはどうしても残業したくない理由があった。仕事中毒の元婚約者、風邪をひいても休まない同僚、すぐに辞めると言い出す新人……。様々な社員と格闘しながら自分を貫く彼女だが、無茶な仕事を振って部下を潰すと噂のブラック上司が現れて!? 働き方に悩むすべての会社員必読必涙の、全く新しいお仕事小説!(新潮社ホームページより引用)

ドラマ化もされて話題になった小説ですね。働くことを考えさせながらシンプルな痛快エンタメに仕上がっていて、すごく楽しい本ですよね。

本間さんのおすすめポイントを伺いたいです。
本間
ある職場が舞台で、社畜みたいな人もいるし、空残業をしている人もいる。

働き方も考え方もバラバラな人たちをチームとしてまとめるのが主人公の結衣なんですけど、無能な上司に理不尽な仕事を押し付けられて、中間管理職の苦悩を味わうわけです。

いろんな人の仕事への向き合い方を追っていると「あなたにとって働くってどういうことなの?」と問いかけられるようで、自分の働き方を見直せる小説なのでおすすめしたいです。

職場あるあるが満載だしエンタメ性に富んでいて、物語が面白い。その副産物として働くことをたくさん考えられるのが素晴らしいんです。
本間さんも店長としてマネジメントをしつつ、本の発注や売り場のメンテナンスなど書店員の実務も行われてますよね。中間管理職の苦悩はありますか?
本間
すごくありますね。これまでは担当の売り場のことだけ考えていましたけど、今はお店全体を考えないといけません。

自分ができないことを人に頼むことも必要ですし、仕事の仕方のシフトチェンジに悩む日々です。
それでも働くことはお好きですか?
本間
すごく好きです。たとえ宝くじで大金が当たっても、絶対に働き続けますよ。

働くっていうのは、私にとっては人とつながる手段。そこがないと楽しくなくなるでしょうね。

本はいろいろな人のいろいろな考えを教えてくれる

今回紹介してくださった『わたし、定時で帰ります。』は小説ですが、様々なジャンルの本が働くことを考えるヒントをくれるんですね。
本間
そうなんですよ。本って、世の中にはいろいろな人がいて、いろいろな考えがあることを教えてくれると思っていて。

森さん、『このマンガがすごい!2025』のオトコ編第一位になった『君と宇宙を歩くために』という漫画、読まれました?
いえ、読んでないです。どんな話なんですか?

『君と宇宙を歩くために』(泥ノ田犬彦/講談社アフタヌーンKC/講談社)
勉強もバイトも続かないドロップアウトぎみなヤンキーの小林。ある日彼のクラスに変わり者の宇野が転校してくる。小林が先輩から怪しいバイトに誘われているところを宇野に助けられ、その出来事をきっかけに2人の距離は縮む。宇野のことを知れば知るほど彼の生き方に惹かれ、自分も変わろうと行動する小林だったが…。「普通」ができない正反対の2人がそれぞれ壁にぶつかりながらも楽しく生きるために奮闘する友情物語。(講談社ホームページより引用)

本間
すごくいい作品なので、ぜひ読んでください。大まかに言うと、ぜんぜんタイプの違う高校生男子二人が友達になる話なんです。

ヤンキーの小林はアルバイトをしているんですけど、見た目がチャラいし要領も悪いので、職場で陰口を叩かれたりしている。仕事がうまくできるようになりたいと心の内では思っているけど、どうせ自分はできないから……と壁を作って諦めてしまってもいます。

それが宇野というまっすぐな子と友達になったことで、少しずつ変わろうとするんですよ。自分から周りに歩み寄ろうとした結果、アルバイト先の人に少し認めてもらえる瞬間がある。

これがもう、ぐっときて。
もうその紹介だけで泣けます。
本間
読んでいて、作中で陰口をたたいていたアルバイト先の人と自分が重なったんです。実は胸に熱いものを秘めている人なのに、「教えてください」の一言が言えないだけで、私はその人を見放してたんじゃないかなって。

相手は100の力を出そうとしているのに、20の力しか出していないと勝手に決めつけていたのかもしれない。全力のレベルも人によって温度差があるし、自分の物差しで安易に測ってしまってはダメなんですよね。

この本を読み終えてから目を上げると、周りへの見方が変わっている。相手の気持ちを想像して、明日から職場の同僚に優しくなれるかもしれない。

これって本を読まないと起きなかった変化なんです。
僕も同じかもしれません……。自分とタイプが違う人のことを「あいつはああだし」と知らずのうちに決めつけてしまっていることがあります。

でも自分に見えていないだけで、それぞれの事情や悩みや想いがある。本を読んでいろいろな人を理解するのはすごく大切ですね。
本間
働くことのネガティブさって人間関係に起因することが多いじゃないですか。

本を読むことで、みんな同じ気持ちで働いているわけじゃないと知ること。それが楽しく働けるきっかけに繋がるんじゃないでしょうか。
本当におっしゃる通りですし、働くことだけでなく、日々の暮らしにおいても大切なことですね。
本間
生活が苦しくて余裕がなくなると、考えが内向きになって心の窓が閉じてしまいがちです。

でも、そういう時にこそ本が必要なんですよ。

世の中に向けている窓を広げることで、希望が見つかることもある。他人を理解することもそのひとつですし、知識を得ることだってそう。

本を読むことで自分の世界が広がって、生きる力を身に付けられるのが、本のいいところだと思いますね。

企画・編集:小野寺真央(サイボウズ) 執筆:森潤也 撮影:高橋団(サイボウズ)

サイボウズ式特集「本とはたらく」

働き方の価値観が多様化し、どのように働き、どのように生きるのかが問われている現代。そんな時代にあって、「本」というメディアは「働くこと」を自分で見つめ直すきっかけをくれるのではないでしょうか。「本を読むこと」を通じて、私たちと一緒に、仕事やチームワークに繋がる新たな発見を探しに行きませんか?

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執筆

ライター

森潤也

出版社勤務。宣伝プロモーションとデジタルマーケティングに携わりながら、編集者として書籍の編集も手掛ける。SNSで本についての発信を行っており、noteでは本づくりの裏側や、魅力的な書店の紹介記事を投稿している。

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撮影・イラスト

編集部

高橋団

2019年に新卒でサイボウズに入社。サイボウズ式初の新人編集部員。神奈川出身。大学では学生記者として活動。スポーツとチームワークに興味があります。複業でスポーツを中心に写真を撮っています。

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編集

編集部

小野寺 真央

サイボウズ式ブックス副編集長。メーカーの営業、出版社の営業・編集・新規事業開発を経て、2022年にサイボウズ入社。複業で小説の編集をしています。趣味は読書・演劇・VTuber・語学勉強・ラジオ・旅行。ラジオパーソナリティに憧れています。

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