本田技研工業株式会社

異なる視点と偶発的な巡り合わせ。可能性の掛け算で生み出すHondaらしい事業のタネ

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業の新規事業開発に興味があるビジネスマン
  • Hondaの事業戦略に関心がある人
  • キャリアアップを目指すビジネスパーソン
  • 異業種からのアイデアや経験を活かしたいと考えている人
Point この記事を読んで得られる知識

このインタビュー記事では、Hondaの新事業開発部で活躍する工藤芳子が、組織づくりや事業創出の方法について語っています。工藤は、個々のメンバーの可能性や相互作用を重視し、組織横断的な関係性を育むことで新しいビジネスを構想しています。特に新規事業の企画や初期段階での仮説検証に力を入れ、社会課題とHondaの技術やノウハウを組み合わせた事業を生み出すことを目指しています。記事は、彼女のキャリアの背景や、Hondaでのプロジェクトの事例を通じて、多様なバックグラウンドを持つメンバーと共に新しい価値を創出する重要性を強調しています。また、偶発的なアイデアの大切さや個人の視点を生かす組織作りの意義についても述べられています。

Text AI要約の元文章

新事業開発部で「事業のタネを育てる」ための組織づくりを担う工藤 芳子。海外営業やグループ会社への出向で得た知見を活かしてチームをリードしています。「一人ひとりの可能性を掛け算しながら新しい価値を生み出したい」と話す工藤が感じるチームの魅力、Hondaで事業開発に取り組む醍醐味とは。

工藤 芳子Yoshiko Kudo

コーポレート戦略本部 コーポレート事業開発統括部 新事業開発部 先行企画ドメイン

電機メーカーで海外営業を経験した後、2008年Hondaにキャリア入社。海外法人の四輪販売支援や事業戦略立案などを担当。その後、自動運転プロジェクトへの参加をきっかけに、2020年ホンダモビリティソリューションズの設立に参画。事業管理部長としてマネジメントの仕組みづくりを行う。2024年4月からドメインリードとしてHondaで新規事業創出と新事業を生み出す組織・プロセスづくりの両面を統括。  

一人ひとりの可能性を掛け合わせながら、社会を前進させる事業のタネを生み出す

夢の力で人や社会を前進させる原動力であり続ける──そのために、社会課題とHondaが持つ技術やノウハウを掛け合わせた新たな事業を生み出す役割を担うのが、コーポレート事業開発統括部にある新事業開発部です。

新事業開発部は、組織を超えてプロジェクトごとの人材兼務を認める「ドメイン制」を導入。組織単位として、先行企画とソリューションデザインに2つ、計3つのドメインがあります。工藤が率いる先行企画ドメインは「新領域とビジネスのタネを生み、育てる」チームです。

工藤「私たちが担うのは、事業創出のための探索フェーズ。先進領域の技術研究を行う本田技術研究所が持つシーズテーマや事業部が持つテーマを探索しながら新たな事業を企画し、初期仮説の検証を行う、いわゆるゼロからイチを生むフェーズです」

先行企画ドメインには現在、30名ほどのメンバーが所属。工藤はそのなかの1つのチームのグループリーダーを兼任しながら、ドメイン全体のマネジメントも担当しています。

工藤「新事業の企画や提案をしながら、組織やメンバーのマネジメントも行います。もちろん組織における上下関係は存在しますが、常に横や斜めの関係を見るようにしています。

なぜなら、新たなビジネスを生むためには、ありとあらゆる可能性を探る必要があるからです。その時に、上司と部下という関係があると、どうしても『指示』になってしまう。メンバーの思考を制限しないよう、縦ではない関係性を意識して接するようにしています」

また、「新事業を生み出せる組織」を作るため、それぞれの個性や視点を大切にしながら、チーム全体で相乗効果を生むことをめざしていると続けます。

工藤「一人ひとりの可能性を掛け算していくことを重視しています。メンバー同士の相互作用が新たなアイデアを生み出すと思うのです。

そのため、私も一人ひとりと個人として向き合うコミュニケーションを大切にしています。たとえば、同じ業務を頼んだとしても、人によって対応が違いますよね。その違いにとても興味があるんです。何を考え、どういう視点で物事を見ているのか。フィードバックする際も、そういったそれぞれの特性に合わせながら、具体的に話すようにしています」

挫折も味わいながら、海外での市場開拓や事業創出を軸にキャリアを歩む

工藤のキャリアは、半導体の部品を扱う電機メーカーでの海外営業職からスタートしました。8年半ほどの在籍期間中、6年半を海外駐在で過ごしたと言います。

工藤「『修行に出なさい』と、入社2年目から上海オフィスへの異動が命じられたのです。

その頃の中国市場はまだ黎明期。現地に入ってわかったことは、アジア市場を攻略する上でカギを握るのはIT産業の中心地である台湾だということ。しかし、台湾には拠点がなかったため、駐在2年目からは香港オフィスに籍を置きながら、月の半分は台湾へ出張して市場開拓を行っていました。

その後、市場成長の波に乗って売上が拡大。一定の事業規模を見込める目途が立ってきたため、台湾に事務所を開設して異動しました」

市場開拓という仕事に大いなる手ごたえを感じながらも、欧州・アジアの競合勢との価格競争の厳しさを目の当たりにした工藤。日本に帰国後、新たなキャリアを模索した結果、「次はBtoCの仕事に挑戦したい」と、2008年にHondaへキャリア入社しました。

Honda入社後は海外営業部門に配属され、インドでの四輪販売戦略に携わることに。インドに駐在もしましたが、この経験は工藤にとって大きな挫折だったと振り返ります。

工藤「事業環境・労働環境・生活環境の厳しさから、十分なパフォーマンスを発揮することができませんでした。その結果、3年の予定だった駐在を半年で切り上げて帰国することになったのです」

その後は、オーストラリアや台湾、韓国など、主に東アジア地域での四輪事業展開に従事。同時に、インドで味わった挫折を機に「より広い視野を持ちたい」と、仕事と並行してビジネススクールへ通い始めます。

工藤「事業戦略や人事、マーケティングなど、ビジネス全般を学びました。スクールにはいろいろな業界の人がいて、圧倒的な知力・気力・体力をもつ仲間とたくさん出会ったことも刺激になりました」

その学びを活かし、2016年に四輪の商品企画を行う部署に異動。全世界に展開する小型車やSUVの初期企画、事業性検討などを担当した後、自動運転プロジェクトに参画。外部企業との提携など、新規ビジネスの開発にも携わるようになります。

2020年には、新設されたホンダモビリティソリューションズに出向。モビリティサービスという新たな領域での事業創出にチャレンジすることになりました。

工藤「4年間の出向期間でとくに大きな変化となったのは、事業管理部門で人事に携わる経験をしたことです。これまで営業でキャリアを積んできて、事業や市場を理解している私が人事や採用を担った方が良いだろうという会社の判断でした。

この仕事を通して、あらためて『人はそれぞれ違う』ということを学びました。ホンダモビリティソリューションズには、私のようにHondaから出向している人もいれば、まったく異なる業界から転職してきた人もいる。見てきた景色が違うので、仕事の捉え方も全然違うのです。私は海外駐在の経験があるので、文化や価値観の違いはある程度経験してきましたが、『同じ日本の企業でもこんなに違うのか』と驚きました」

日常体験から先進技術研究まで、Hondaならではの幅広さとメンバーの多様性が強み

2024年4月にHondaへ戻ってからは、現在の仕事へ。さまざまプロジェクトのタネが生まれてきたなかでも、とくにHondaらしさを感じたプロジェクトがあると言います。

工藤「メンバーが企画した原付バイクのタウンライドプロジェクトです。原付バイクに乗ったことのない方向けに、乗り方の講習をした上で、街の中でバイクに乗る体験をしていただく企画です。どうマネタイズするかという壁はあったものの、販売店からの評価は上々で、現在も継続されています。

この企画が生まれたのは、メンバー自身がバイクに乗っておもしろさを感じたことがきっかけでした。自分の体験をもとに、日常的なアイテムを使った事業が生まれる良い例だと思います。

一方で、電動垂直離着陸機『eVTOL(イーブイトール)』や、カーボンニュートラルに向けた再生可能資源として藻を活用する『Honda DREAMO』など、夢のある未来的な事業まで取り組める。その幅広さがHondaらしいですよね」

Hondaらしい事業を生み出すにあたり工藤が大切にしているのは、「すぐに否定しない」という姿勢です。

工藤「事業のタネはボトムアップで生まれるものなので、上がってきたものは『まずやってみよう』というスタンスです。

カーボンニュートラルのように、会社としての大きな方針に基づいて本田技術研究所が研究しているシーズもあれば、原付バイクのように身近なシーズもある。出自の異なるシーズがたくさんあることがHondaの魅力。狙って事業を企画するものもあれば、遠回りするなかで偶発的な巡り合わせで生まれるものもある。どちらであっても大真面目にひたむきに取り組んでいくことがHondaらしさだと感じています」

偶発的なアイデアを生み出すためにも、さまざまな知見を持つメンバーが在籍していることが強みの一つ。多様な価値観を持つメンバーをマネジメントする立場である工藤は、これまでの経験が今に活きていると話します。

工藤「このチームにも研究一筋で歩んできた人、食品業界や航空業界から転職した人、スタートアップ出身の人など、多様なバックグラウンドを持ったメンバーがいます。お互いの見えている部分、見えていない部分を受け入れ、補い合いながら、新たな価値を作り出していくことが重要です」

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「Hondaだからできた」と言われる価値を創造したい。可能性を広げる組織づくり

事業のタネは偶発的な巡り合わせで生まれることがある──それは、自身のキャリアに重なると工藤は笑います。

工藤「振り返ってみると、市場を開拓したり事業を作ったりといった仕事が軸にありつつも、おもしろそうだと感じた流れに身を任せて進んできたキャリアです。流れに乗り、これまでの経験を掛け算しながら、自分なりに道を作ってきました」

時に異なる発想や予想外のアイデアをヒントにしつつ、あらゆる可能性を探っていく。正解がないからこそ、「すぐに否定しない」ことに加えて重要視していることがあります。

工藤「企画の中身だけではなく、提案者の姿勢にも注目しています。上司の顔色をうかがいながら作られた企画はおもしろくありません。自分なりの軸を持っていることが大切です。事業を作り出す過程では、当初の原形から大きく形が変わっていくこともあるからこそ、軸がぶれないことが大事。

物事を俯瞰して見ることが得意な人は、全体の流れをつかんだ上で、自分の得意分野を活かした提案ができると感じています。そういった目線を持ちながらチャレンジできる人たちと一緒に、新しい価値を創造していきたいと考えています」

そのために自身が力を注いでいくべきは、「掛け算を生み出す組織づくり」だと話します。

工藤「もっと一人ひとりの可能性を掛け算していきたい。その土台づくりが私の課題です。そして、『傾聴』も私自身もっと取り組める部分だと考えています。その上で、多くのブロジェクトを生み出していく際に継続の可否を判断するための軸を育てていきたいと思っています。

そして、カーボンニュートラルや再生可能エネルギー領域など、会社として注力している目標に一石を投じるような価値ある事業を生み出していきたい。『Hondaだからできた』と言っていただけるようなものを作っていきたいですね」

流れに身を任せてきたと言いながらも、新しいことに挑戦する環境を楽しみ、自分の経験を掛け算していくという軸を持ちながらキャリアを歩んできた工藤。これからは、メンバーの、そしてHondaの可能性を広げる掛け算に挑戦します。

※記載内容は2024年12月時点のものです

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