株式会社デンソー

新技術の活動で乗車体験はどう変わる?

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 自動車業界の技術者
  • ITエンジニア
  • ソフトウェア開発者
  • AI研究者
  • 自動車に興味がある一般読者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、デンソーの新技術により自動車の乗車体験がどのように変わるかについて説明されています。デンソーは、車載ソフトウェア開発において、画像処理、AI、クラウド技術を駆使しており、2021年からSoftware Defined Vehicle(SDV)の開発を進めています。これにより、発売後のソフトウェア更新が容易になり、特にDockerを活用した開発プラットフォーム「Quad」が紹介されています。Quadではパソコン上の開発環境が簡単に提供され、実際の車にコンテナがインストールされて実行されることが可能です。さらに、シミュレーションやデータ解析も効果的に行える仕組みが整っています。

デジタルツインを活用し、リアルな車両データとクラウド上のデータが同期される仕組みも搭載されています。SDVでは、IT系技術者が重要な役割を担っており、生成AIによる未来の乗車体験のデモも紹介されています。生成AIは、運転状況や所要時間に応じて自動で予定を調整するなどの機能を備えており、ドライバーの疲労を感知して休憩を促す機能も含まれます。

また、デジタルツイン技術を活用し、クラウドとリアルのデータが連携して、セキュリティを確保しながら新しい乗車体験を実現しようとする姿勢が強調されています。加えて、この新しい技術の実装には、自動車業界の枠を超えた様々な分野の人々が参画することが求められています。

Text AI要約の元文章

2025.1.23

ビジョン・アイデア

新技術の活動で乗車体験はどう変わる?

生成AI活用の事例を紹介

  • 株式会社デンソー 統合システム開発部 課長近藤 真之

デンソーでは、ソフトウェアエンジニアが画像処理、AI、クラウドなどのIT技術を駆使し、クルマづくりに取り組んでいます。デンソーの取り組みや技術活用の舞台裏を語る【DENSO Tech Night】第一回は、車載ソフトウェアにおける取り組み、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の実現、生成AI活用の事例などを語りました。

デンソーでは現在、車載ソフトウェアに従事しており、2021年からSoftware Defined Vehicle開発を担当しています。近藤は社内のスペシャリストSOMRIE™に認定されている他、未踏ソフト創造事業スーパークリエーター/天才プログラマーでもあり、藤守はプレゼンター交代の際に「若手のホープです」と紹介しました。

近藤はまず、車載ソフトウェアの開発環境を大きく3つに分けて紹介しました。1つ目はミラーなどを動かすソフトウェアであり、OSはありません。アセンブラやCといった言語で書かれています。

2つ目は、C言語を使いリアルタイムOSで動かすソフトウェアです。エンジンやネットワーク制御といった機能で使われています。3つ目はカーナビやメーター表示を実現する、CやC++言語で書かれたソフトウェアであり、こちらはLinuxで制御しています。

しかし、「それぞれのソフトウェア開発領域において課題があります」と、近藤は語ります。中でもSDVの定義である、発売後にソフトウェアを更新することについて「非常に難しかったです」といいます。そこで、簡便にソフトウェアを更新できる環境の構築を目指しました。Dockerを活用した、車載ソフトウェア開発プラットフォーム「Quad」です。

近藤はイメージ図も紹介しました。パソコン上で開発した車載アプリケーションは、OTA(Over The Air)を介してDockerコンテナの車載アプリとしてインストールされ、そのまま実行されます。

パソコン上の開発環境もDockerですべて提供されており、ワンコマンドでインストールできることを示しました。また、Webインターフェースであることを、実際の画面とともに紹介しました。

シミュレーションを行う様子も紹介しました。画面内に描かれたバーチャルの車を利用することで、ドアの開閉の動作チェックなどが、実車を使うよりも遥かに簡便に行えることが分かります。また動画ファイルをアップロードすることで、カメラのシミュレーションも行えます。

ローカルPCで開発したDockerコンテナは、OTA経由で車にインストールされますが、その動作もドラッグアンドドロップだけです。しかも100台同時に、一度の操作でインストールすることも可能です。

車からアップロードされたデータはAWSのS3に保存、Snowflakeのデータウェアハウスに追加される構成となっており、Webシステム上でいつでも確認でき、データの抽出が行えます。例えば、スピードが100km以上で走る車のデータをSQLで簡単に抽出できます。

QuadプラットフォームにはJupyter Notebookも内蔵されているため、コードの可視化や公開されたAPIを使い、独自のスマホアプリを作ることも可能です。そして既に、同環境は公開され、利用されています。

Quadのプラットフォームで重要なのがデジタルツインの考えであり、こちらもRustを使ってDUOというアーキテクチャを車載機とクラウド上に構築しました。まさにデジタルツインらしく、DUOの内容が車両・開発側と同期しており、データの確認や書き換えが可能となっています。

車両データの取得に関しては、コネクティッドカーの技術や標準開発などを目指す国際的な枠組みであるCOVESA(コネクテッド・ビークル・システムズ・アライアンス)を基準としています。同組織が定義し、公開しているVSS(Vehicle Signal Specification)に則り、RESTを使って取得しています。

近藤はデジタルツインの例も示しました。リアルな車のドアを開けると、モニターしているスマホ内のバーチャルカーのドアも同期し、開いていることが分かります。

また、紹介したような技術を使うことで、開けっ放しにされた窓を、スマホを使って遠隔操作で閉めることも、RESTを使ってちょっとしたコードを書くだけでできるようになります。

一方で、車に悪影響を及ぼすような同期がなされないように、サンドボックスやファイアウォールを使って、常に車の安全性が保たれるような配慮もしています。近藤は改めて、ここまでの内容を次のようにまとめました。

「これまでの車業界は組み込み技術のみで、職人の世界でした。しかし今は、クラウドネイティブな技術で車がつくれる時代が来たと思っています。実際、私のまわりにもIT系から移ってきた人が増えています」(近藤)

ここからは生成AIに関する取り組みについて紹介しました。まずは、生成AIが作り出す未来の姿をデモ動画で紹介しました。1つ目の例は、ディナーの予約をしていたユーザーと生成AIとのやり取りです。

ユーザーのスマホにはQuad AIという生成AIアプリがインストールされており、突然の渋滞により、このままでは予約した時間にお店に行くことが難しいことを察知したQuad AIは、ユーザーにプッシュ通知で伝えます。

ユーザーが「出発を早くして」と返答すると、Quad AIはGoogleカレンダーのイベントを編集して、出発時間を早めます。また時間を早める以外にも、タクシーやバスなどを使い、どうにか当初の時刻に間に合わせるような検索も生成AIはしてくれるようになるといいます。

「今後のさらなる発展が進み、非常に便利な世界になると思います」(近藤)

続いては、高速道路を運転中のドライバーの疲労を感知し、休憩場所を提案する事例です。活用する機械類の構成はスライドのとおり。カーナビ、車内カメラの他、トランク内にQuadを内蔵した車載器を搭載しています。

カメラによりドライバーがあくびをしたことを感知したAIは、「お疲れのようですね。サービスエリアで休憩しませんか?」と提案します。ドライバーが「頼みます」と返事をすると、ナビゲーションシステムと連動し、最寄りのサービスエリアを設定。車間距離を最大に設定する提案も行います。

近藤は紹介したAIサービスの構成図、まずはバックエンド側を紹介しました。まさにデジタルツインです。DUOを噛ませることで、クラウド上に車内と同じシステムを構築していることが分かります。

対してフロント、自動車サイドではリアルなカメラが得た画像データを、画像の解説をするLLMを経て、デジタルツインに登録します。

このデジタルツインに登録されたカメラ画像の説明を、先ほど紹介した見守りアプリは取得します。具体的にはあくびの他、車速、座標といったデータです。

見守りアプリには、Alexaのようなユーザーの声とやり取りできるAIモデルが実装されており、DUOの画像からユーザーが疲れていると判断したら、休憩を提案します。

ただし、休憩場所の選定においては「ChatGPTなどに聞くと、結構嘘をついてきます」と近藤は解説します。

そこで、休憩場所の選定に関してはナレッジベースをあらかじめ用意しておき、確実な場所を伝える構成としました。

車間距離(ACC/アダプティブ・クルーズ・コントロール)においてもDUOを設定することで、リアルな自動車に反映される仕組みとなっています。近藤は最後に次のようなメッセージを送り、登壇セッションを締めました。

「本日お話しした内容のように、これからのソフトウェア・デファインド・ビークルで活躍するのは組み込み系のソフトウェア技術だけでなく、IT系の技術者です。我々と一緒に、未来の車を創りましょう」(近藤)

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

本イベントにはオンライン枠だけで、1000名を超える申し込みがありました。セッション終了後は、参加者から寄せられた質問に、登壇者が回答する時間が設けられました。抜粋して紹介します。

Q.これからの自動車ソフトウェアの開発人材に求められる要件とは?

林田:近藤が最後に説明したように、AIやITといったこれまでの組み込みエンジニアやデンソーの常識とは異なる、文化や考え方を持つ方々が刺激になると考えています。

Q.車載ソフトウェアの開発主体はこれから誰になるのか?

林田:「みなさん」というのが答えだと思っています。というのも、我々は命に関わる重要な部分は担保しますが、アプリケーション自体はさまざまな業界の方々に作ってもらいたい、と考えているからです。このような考えで、基盤ソフトやアーキテクチャを設計しています。

Q.サイバーセキュリティに関する取り組みとは?

藤守:万が一セキュリティが破られても、次のファイアウォールを何段階も用意する。このような多層防衛の考えならびに仕組みを用意しており、車の心臓部にはダメージがないよう努めています。

一方で、このような取り組みだけでは不十分だとも考えていて、エッジ側とクラウド側をセットで、攻撃をすぐに察知して対策する見守りサービス的なことも考えています。

Q.ソフトウェアももちろん大事だが、ハードウェアも大事なのではないか?

藤守:おっしゃるとおりです。特に2つあります。安全を守ること。新しい体験において、ハード・ソフトウェアの両立が必要だと考えています。ただ両立をしながらも、両者にはしっかりと境界線を設ける。変えなければいけないこと、逆に、変えてはいけないことの両立も意識しています。

Q.Kubernetesも使っているのか?

近藤:以前は使っていましたが、移動体での利用は品質面などに課題があったため、オーケストレーターに当たる部分はデンソー内で完全内製化しました。

Q.SDVが進むと安価なハードの台頭などにより価格競争に陥るのではないか?

林田:そのような世界は来ないと考えています。というのも車の安全担保は手間がかかるからです。実際、これまでも半導体ベンダーなどが参画してきましたが、長続きしていませんし、ハードとソフト分離の動きは15年ほど前からありますが、参入してきて成功した企業はいないからです。

Q.車内カメラのデータをクラウドにアップすると、プライバシーの問題が発生するのではないか?

近藤:今回紹介したデモンストレーションでは、車内でビジョンLLMを動かしているため、画像そのものはクラウドにアップされていません。クラウドに上がるのは結果や休憩場所を探すといった内容のみです。個人情報に該当するデータはアップロードしないことが一番重要だと考えており、ハードウェアを持つ我々が活かせる領域でもあると考えています。

  • Vol. 1:ソフトウェアエンジニアがクルマのコアを語る
  • Vol. 2:SDV実現のカギはソフトウェアエンジニアが握っている

※役職などは2024/9/13講演当時のものです

ビジョン・アイデア

TECH PLAY

COMMENT

あなたが実現したいこと、学びたいこと、可能性を広げたいことに、この記事は役に立ちましたか?
ぜひ感じたことを編集部とシェアしてください。

お問い合わせはこちら

RELATED

  • キャリア・生き方2024.7.4 ソフトウェアエンジニアが躍動する世界を。 デンソーをけん引するSOMRIEの願い
  • ビジョン・アイデア2025.1.23 ソフトウェアエンジニアがクルマのコアを語る モビリティの価値を最大化する車載ソフトウェア開発の最前線
  • ビジョン・アイデア2025.1.23 SDV実現のカギはソフトウェアエンジニアが握っている

「できてない」 を 「できる」に。
知と人が集まる場所。

デンソーのオウンドメディアDRIVENBASEについて トップページを見る

Pick Up人気の記事