WAFCAが車いすと共に運ぶ、子どもたちの「移動の自由」
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- 社会貢献活動に興味のある人々
- アジア地域の障がい児支援に関心がある人
- 企業のCSR活動に関心がある人
- 車いす支援に興味を持つ人
- 非営利活動に参加したいと考えている人
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この記事は、デンソーがサポートする認定NPO法人アジア車いす交流センター(WAFCA)の活動を紹介しています。WAFCAは、アジア諸国に住む障がい児の支援を目的として、車いすの提供を中核に包括的な自立支援を行っています。記事では、WAFCAが単に車いすを贈るだけでなく、障がい児の身体や環境に合わせた車いす選びと提供、フィッティング後のサポート、そして教育支援やバリアフリー化支援も含めた広範な活動を展開している様子が述べられています。
また、WAFCAの活動はデンソーの大きな支援を受けており、デンソー社員やOB・OGの寄付が活動資金の多くを占めています。現地の支援活動は、デンソーの協力を得て展開されており、地域特有のコミュニティと連携しながら持続可能な支援体制を構築しています。
さらに、WAFCAは「WAFCAthlete」というプロアスリートによるサポートチームを組織し、イベントやチャリティキャンペーンを通じて広報活動を活発に行っています。これにより、WAFCAの認知度が高まり、多くの人々が支援活動に参加するようになっています。
最終的に、この記事は障がい児の移動の自由と社会的自立を支援するWAFCAの活動の重要性やその体制を理解する手助けとなり、またその活動に参加することの意義を伝えています。
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2025.1.22
ビジョン・アイデアWAFCAが車いすと共に運ぶ、子どもたちの「移動の自由」
デンソー発の認定NPO法人「WAFCA」が取り組む、アジアの障がい児支援
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近藤 みなみ(こんどう みなみ)
認定NPO法人アジア車いす交流センター(WAFCA)事務局次長(広報・ファンドレイジング担当)准認定ファンドレイザー・車いす安全整備士
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伊集 南(いじゅ みなみ)
株式会社デンソー 総務部 スポーツプロモーション室所属。スポーツ選手が社会貢献できる場「WAFCAthlete(ワフカアスリート)」を立ち上げる。元デンソーアイリス バスケットボール選手で、現在3x3代表コーチおよびWリーグの理事を担当。
朝起きて学校や会社に向かう。休みの日にふらっと外に出かける。自分の行きたいところに、自分の意思で行く。
私たちが普段当たり前に享受している「移動の自由」は、外出の楽しさ、勉強できる喜び、働くことの生きがいなどを支える、大切な権利です。
しかし、世界には障がいがあるために「移動の自由」が制限されてしまっている人たちが、数多くいます。中でも、アジア諸国に住んでいる足の不自由な子どもたちは、とくに厳しい状況に置かれています。
家族に経済的な余裕がなく、車いすが買えない。福祉制度が整っていないから、行政からの障がい者への支援もほとんどない。仮にあったとしても、支給されるのは大人用の車いすのみで、子どもには使えない。障がい児に対する偏見のある地域では、親が子どもを外に出したがらない──そんな不遇が重なって、生涯寝たきりを余儀なくされる子どもたちも、少なくありません。
それでは、そうした子どもたちに「移動の自由」をどうすれば届けられるのでしょうか。
この記事の目次
車いすの寄贈を軸にした、本当に届く包括的な「自立支援」の形
デンソーは、創立50周年の節目の年である1999年に、認定NPO法人アジア車いす交流センター(WHEELCHAIRS AND FRIENDSHIP CENTER OF ASIA)、通称「WAFCA(ワフカ)」を立ち上げました。デンソーが初めて海外に生産拠点を開いたのはタイであり、海外事業展開の礎を築いたタイへの感謝の思いから、当時大きな社会課題であった障がい児の自立支援を目的とした活動をタイで開始しました。この活動は、「移動の自由」に関わる事業を行ってきたデンソーが、何か社会貢献につながる別のアプローチができないかというアイデアから生まれたものです。WAFCAは創立から現在に至るまで、車いすの提供を通じて障がい児の自立や生活の質の向上を目指し、タイ、インドネシア、中国などのアジア諸国で支援活動を展開しています。
WAFCAは「車いす支援」「教育支援」「バリアフリー化支援」という3つの要素を柱としています。これらを通して、障がいがある子どもたちが経済的・社会的に自立するまでの生活をサポートする、包括的な支援を行っています。
とくにWAFCAが注力しているのは、一人ひとりに寄り添った「車いす支援」です。世界保健機関(WHO)の「資源が少ない地域で手動車いすを提供するためのガイドライン」 で提唱されている8つのステップに則って、障がい児に対してのアセスメントや診断を行った上で一人ひとりの体や生活環境に合った車いすを調達し、届けています。また、届けてからも細かく座高を調整するなどのフィッティングを行ったり、障がい児と介護者に使用方法についてのトレーニングを実施したりと、フォローアップまで手厚くサポートしています。
立ち上げ当初は「寄付金で購入した車いすをそのまま現地に送る」という支援から始まったWAFCAが、車いすを送るだけでなく、なぜこのような寄り添った支援に力を入れるようになったのでしょうか。その背景について、WAFCA事務局の近藤みなみは次のように語ります。
「WAFCAでは、送った車いすの活用状況を把握するためのリサーチにも力を入れています。その現地調査のなかで、ある時スタッフが、送った車いすが倉庫に放置されている現実を目の当たりにしたんです。どうして使われていないのか現地の人たちに聞き取り調査をしてみると、『サイズが大きすぎて子どもの体に合わない』『介助者が使いこなせない』『そもそも車いすが使える環境でない』といった課題が見えてきました。
この一件から『障がい児一人ひとりの体と取り巻く環境に合わせて、確実に実用的なものを届けなければ支援にならない』という気づきを得た私たちは、提供までのフローを試行錯誤しながら少しずつ改善していきました」(近藤)
その後も車いすの寄贈を続けていくなかで、WAFCAのメンバーたちは「ものを提供するだけでは解決しきれない問題がある」ことに気づいていきます。そして、支援する子どもたちが学校に通い、社会に出ていくまでをサポートするために、徐々にその活動の幅を「教育支援」「バリアフリー化支援」にまで広げていきました。
「支援する子どもたちの本質的な自立を目指すには、教育の提供が不可欠です。しかし、家庭が教育を受けるために必要な寮費や通学費を捻出できなかったり、学校側に車いすの生徒を受け入れる設備が整っていなかったりすると、車いすを提供しても学校に通えるようにならないケースは少なくありません。
そんな課題を解消するべく、私たちは車いすの寄付と並行して、奨学金の支給による『教育支援』と、自宅や学校にスロープや手すりなどを設置する『バリアフリー化支援』を始めたんです」(近藤)
団体の発足から2024年3月までに各国に寄贈した車いすの総数は7,483台、奨学金の提供人数はのべ3,084名、手がけたバリアフリー工事は119件に上ります。WAFCAは現地の人々と綿密にコミュニケーションを取りながら、「子どもたちの経済的・社会的な自立のためには、何が必要なのか」を真摯に考えて、課題に対して適切なアプローチを展開しています。
デンソーの支えが基盤となり、長い目で見た現地での本質的な支援を形に
現地の活動拠点は、基本的にデンソーの現地法人があるエリアに設けられています。NPO法人として海外拠点をゼロからつくるのはハードルが高いこともあり、デンソーの協力を得ながら現地で活動の母体となる財団法人を立ち上げて、支援の幅を広げています。
現地で適切な支援をしていくためには「障がい児がどこに何人ほどいるか」といった状況の把握が重要になります。国によって障がい児支援の状況が変わるなかで、WAFCAではそれぞれの地域に合わせた現地コミュニティと連携を取っています。
「たとえばタイでは、政府主導で各県に障がい児の生活支援をリードする『特殊教育センター』という施設が設置されています。そこと連携を取りながら、車いすの割り当て台数を決めるための現地調査を行っています。
また、インドネシアではタイほど行政の障がい児支援が進んでいないため、リハビリセンターなどに通う障がい児の家族同士で形成する共助コミュニティと直接つながって、聞き取り調査などを実施しています」(近藤)
こうした各国の現地コミュニティとの連携を強めながら、持続可能な支援の体制をつくっていくために、原則として現地拠点のスタッフは現地で採用し、グループ全体で障がい事例の共有や検討会を実施することで車いすサービス提供の知見を得られるようにしています。駐在の日本人スタッフがいないことも、WAFCAの大きな特徴です。
直接の支援活動は現地スタッフに任せる一方で、日本の事務局メンバーはイベントや広報などを通して、活動に必要な資金を調達しています。
WAFCAの活動資金の収入源は、デンソーからの企業寄付が4割、会員からの寄付が4割、その他が2割となっています。会員の8割はデンソーグループの社員やOB・OGで構成されており、「デンソーのコミュニティからの大きな支えがあるからこそ、補助金などに頼りすぎずに、安定的な支援の提供ができている」と、WAFCA事務局の近藤は言います。
「デンソーの皆さんの協力があるおかげで、WAFCAは長期的な目線で本質的な支援に取り組むことができています。こうしたデンソーコミュニティの基盤を少しずつ広げていくために、全国各地の製作所に赴いたり、会議の場に出させてもらったりして、デンソーの社員の方々へのWAFCAの認知向上に努めています」(近藤)
大きな支援基盤であるデンソー社員やOB・OGを対象としたアプローチを中心にしつつ、WAFCA日本事務局がある愛知県をはじめとした地域とのつながりも形成しています。
「地域の皆さんにもWAFCAの活動を知ってもらうため、WAFCAの事業として15年前に始めたのが『車いす病院』です。主にデンソーのOBや現役社員、地域の大学生などで構成される、30名ほどの『車いすドクター』たちが、地域の住民から持ち込まれた故障した車いすを安価で丁寧に修理しています。また、不要になった中古車いすを整備し販売もしています。
地域社会の皆さんの役に立ちながら、私たちの活動の理念に触れてもらう機会として、『車いす病院』が果たす役割はとても大きいなと感じています。ここで得た対価はすべてWAFCAの運営資金に充てられており、今後とも広報的な意味合いを持たせながら、WAFCAの地域に根差したコミュニティの一つとして拡大したいと考えています」(近藤)
関わるアスリートの心にも火を灯す「WAFCAthlete」の活動
これまで地道に支援活動を続けてきたWAFCAですが、ここ数年で「もっと多くの人にアジアの子どもたちを取り巻く状況を知ってもらって、支援の輪を広げていこう」という動きが活発になりつつあります。そのアプローチのひとつとして2022年に生まれたのが、WAFCAを応援するプロのアスリートチーム「WAFCAthlete(ワフカアスリート)」です。
WAFCAthleteを立ち上げたのは、元デンソーアイリス所属のプロバスケットボール選手、伊集南です。4年前に現役を引退した後に、デンソー総務部のスポーツプロモーション室に嘱託社員として所属。以降、WAFCAのオフィシャルサポーターとしてプロモーション活動に携わり、その流れからWAFCAthleteを立ち上げました。
WAFCAthleteの主な活動内容はWAFCAの仲間集め。中でも「WAFCAチャリティラン&ウォーク」の参加者を募るための広報活動は、アスリートからの呼びかけで多くの共感を呼んでいます。参加者は参加費用を寄付として支払い、専用の歩数計測アプリをダウンロード。参加者全員の歩数が合計され、目標歩数(※2024年は6,000万歩)の達成度に応じて、協賛企業からも寄付が行われるという仕組みです。参加することと、日々の一歩一歩が寄付になるという「歩く」支援の形をとっています。
参加者が自分ひとりで歩く形だけでなく、WAFCAthleteとウォーキングができるリアルイベントも開催。ウェブサイトには、WAFCAthleteからの応援コメントも記載されています。2024年度は1,000人を超える総動員数となり、12月には「第15回日本ファンドレイジング大賞」※に、チャリティラン&ウォークが入賞。対外的にも評価される活動として成長してきています。
※「日本ファンドレイジング大賞」とは、人々に感動と笑顔を与えるファンドレイジングを行った団体を称え、その活動を広く紹介することを目的に、先駆的な取り組みを行ったNPOや企業などに贈られる賞
こうした取り組み以外にも、市区町村の自治体などと協働した「チャリティスポーツ体験会」など、WAFCAthleteを中心としたさまざまな取り組みが実施されてきた、と伊集は振り返ります。
「WAFCAthleteの各メンバーから企画を立案してもらうこともあります。たとえば、選手が使わなくなったシューズなどのアイテムにサインを入れて、チャリティキャンペーンを実施したことがあります。ファンの皆さんからも好評で、企画をしたメンバーたちも『WAFCAを通して貢献できた実感が大きく、とてもうれしい』と話していました」(伊集)
WAFCAthleteの活動の影響について、近藤さんは「本当に広報効果が大きく、助けてもらっている」と話します。
「元々、WAFCAに対して深い関わりを持つには『会員になる』しかなかったところ、WAFCAthleteの活動によって、『WAFCAのイベントに参加する』『チャリティグッズを買う』『募金箱にお金を入れる』などの小さな接点が増えたことで、WAFCAの認知度はこの2年で飛躍的に上がりました。
WAFCAthleteの活動をきっかけに、WAFCAに関する何かしらのアクションを自発的に行った人たちが、少なくとも1,000人以上います」(近藤)
WAFCAthleteの影響力が遺憾なく発揮されたのが、2024年7月に実施された、WAFCA初のクラウドファンディングです。公式のXアカウントでクラウドファンディングの宣伝ポストをした際の閲覧数は100回くらいだったところ、WAFCAthleteたちがそれをシェアした後には2万3000回に跳ね上がりました。こうした協力もあり、元々のゴールとして設定されていた200万円を超え、287万7,000円の支援が集まりました。
そして、WAFCAthleteの活動は「関わるアスリートたちにも、とてもいい影響を与えている」と、伊集は強調します。
「私もかつてそうでしたが、アスリートって表舞台では輝いて見えるものの、内心はすごく自分に自信が持てていない人が結構いるんです。『自分からスポーツを取ったら、価値がなくなってしまうかもしれない』と不安に感じている一方で、『自分にはスポーツしかできない』と自らの可能性を狭めてしまっていたりする──そういった思いを胸の内に秘めている選手は少なくありません。
選手がWAFCAthleteに参加することで、自分の培ってきた影響力、それをポジティブに広い社会の中で生かしていける可能性に気づいていきます。そんな時、選手たちは本当にいい顔を見せてくれるんです。WAFCAthleteの活動を通して、私はアスリート側も『なりたい自分』を見つけ、それに近づいていくようなポジティブな変化が、どんどん生まれていってほしいと願っています」(伊集)
アジアの子どもたちの尊厳、そして「移動の自由」を守るために
障がい児と共にある社会を切り拓くために、国内外でさまざまな形で活動を広げてきたWAFCA。これまで実施してきた支援はたゆみなく継続しつつ、新しいチャレンジにも積極的に取り組んでいます。
「25年間にわたって活動を継続し、そこで得た知見やネットワークを生かし、WAFCAをもっと身近に感じてもらえるように、地域のさまざまなコミュニティとつながれるような事業に取り組んでいきたいと考えています。」
と、近藤は意気込みます。
「私たちは『アジアの障がい児の尊厳と機会が損なわれないバリアフリー社会の実現』に向けて、これからもたゆまず地道な支援活動を続けていきます。子どもたちの「移動の自由」、明るい未来を守るため、皆さんの力をぜひお借りしたいと思っています。もしこの記事で興味を持っていただけたら、ぜひWAFCAの仲間になり活動の輪に加わっていただけたらうれしいです」(近藤)
あなたの一歩が、子どもたちの未来を変えます。
「WAFCAの仲間になる」には以下のリンクからWAFCAホームページをご覧ください。- WAFCA会員になる
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継続的に支える
まずは関わってみる
ビジョン・アイデア執筆:inquire 撮影: 株式会社スタジオ・ワーク
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