株式会社デンソー

社会のデジタル化を支える「QRコード」。発明者のDNAを引き継いだ次の30年に向けた挑戦

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 技術開発者
  • QRコードに興味のあるビジネスパーソン
  • デジタル決済業界の専門家
  • 製造業や小売業に従事する人々
  • デジタル化に関心のある一般読者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、QRコードの誕生から30年にわたる技術進化とその社会的貢献について詳述されています。QRコードは、非接触での情報共有を可能にし、社会のデジタル化に重要な役割を果たしています。1994年に開発されたQRコードは、バーコードの約200倍の情報を収納でき、多様な記号を使用可能であることから、多くの分野で急速に普及しました。この技術は、携帯電話のカメラ機能の普及とSNSの誕生を背景に、生活に広く浸透しました。

QRコードの開発に携わるデンソーの技術者たちは、特許を無償化し、世界規模で利用されることを促進しました。また、現場主義を徹底し、ユーザーのニーズに応えるための技術革新を続けています。特に、鉄道の安全性向上を目的とするtQRや、狭いスペースに対応するrMQRコードの開発においても、現場での実証実験を重ねて機能性を高めた背景があります。

QRコードは今後も技術的進化を続け、さらなる利便性を提供していく可能性があります。開発に関わる技術者たちは、QRコードの技術を活用した新しいソリューションを生み出し、次の30年に向けて社会的課題の解決に貢献しようとしています。

Text AI要約の元文章

2024.12.26

キャリア・生き方

社会のデジタル化を支える「QRコード」。発明者のDNAを引き継いだ次の30年に向けた挑戦

「現場主義」の徹底により実現してきた、QRコードの進化

スマートフォンを利用したキャッシュレス決済や、レストランにおける卓上オーダーシステムなど、私たちの生活を便利にしてくれる仕組みを支えるのが「QRコード」です。

2021年2月に実施された調査によれば、QRコードは世界中で普及しています。イギリスで90%、次いで中国が88%、フランスやドイツも7割を超える人々がQRコードの使用歴があり、世界中に広がっている二次元コードです。

そんなQRコードが生まれたのは、1994年。生誕30周年を迎えたQRコードは、これまでどのように進化し、次の30年でどのような社会課題の解決に貢献しうるのでしょうか。

意外と知られていないその技術進化の歴史と、これからの展望について、技術開発やソリューション提案に関わる若手メンバーとともに考えていきます。

この記事の目次

    社会のデジタル化を支えるQRコードの技術進化

    2020年、新型コロナウイルス感染症の流行により、社会のデジタル化が強く求められるようになりました。そんな中、非接触での情報のやり取りに際し、QRコードが活用され、それ以降もQRコードはより社会に定着していきました。

    このようにデジタル化が進む社会にとって欠かせない技術となったQRコードですが、その誕生までにどのような歴史があるのでしょうか。

    日本が高度経済成長期を迎える中、小売業や製造業を中心に、バーコードなどを利用した自動認識技術を用いた効率化の動きが活発化していきました。

    デンソーは1974年、トヨタ生産方式の「かんばん」にバーコードを導入し円滑な生産管理を図るとともに、バーコードを読み取る装置の製品化と事業化、製造や技術開発に励んでいました。そうした中で、1980年代には、製造業や小売業、物流業界など幅広い現場にバーコードが利用されるようになっていきます。

    1992年、デンソーはインターネット時代の到来と、自動認識技術を活用した各種産業の発展を見据え、新たな二次元コードの開発を行うことを決断します。

    当時バーコードは英数字で20文字ほどの容量しか格納できず、広く使われるに連れて、より多くの情報を格納できるコード、より多くの文字種を表現できるコード、より小さなスペースで表現できるコードなど、市場からさまざまなニーズが生まれたのです。

    そこで、大容量ながら高速で読み取れ、漢字・カナ・ひらがな等にも対応するコードとして1994年に誕生したのが「QRコード」でした。バーコードの約200倍の情報を収納でき、高速で、一部のデータが欠けたり汚れたりしても読み取れる、いわば2次元コードの特徴を網羅したQRコードは、製造現場のみならず瞬く間にさまざまな現場で利用されるようになっていきます。

    デンソーでは幅広い利用とQRコードのインフラ整備を念頭に、すぐにQRコードの特許を無償開放したことで世界中に利用が拡大。2000年代前半にはカメラ機能を搭載した携帯電話の普及、SNSの誕生も相まって、QRコードは人々の生活の中に一気に浸透していきました。

    デンソーはその後も技術開発を積み重ね、実はQRコードの技術やソリューションはさまざまに進化していきました。

    「QRコードの生みの親」と二人三脚で、開発に従事

    こうした新しいQRコード開発の背景には、QRコード開発チームの原の意思を引き継ぎながら、ともにQRコードの開発に関わり技術革新を進めたメンバーがいます。

    そのひとりが、デンソーウェーブエッジプロダクト事業部技術2部の神戸陽介です。神戸は大学時代に画像処理を専攻し、「学んだ技術を活かす製品開発に携わりたい」と考え、デンソーウェーブに入社しました。入社当初は読み取りソフトウェアではない部署に配属されたものの、3年目に現在の部署に異動。QRコード開発チームのひとり、原のスピリットを引き継ぐ開発者としてQRコード開発の最前線に関わっています。

    これまで神戸が開発に関わってきたのは、大手小売店のセルフレジなどで使われるハンディースキャナー「AT30Q」や、入場ゲートや宅配ロッカーで使われる読み取りスキャナー「QK30」など、私たちの身近な場所で利用されるバーコードの読み取り技術のソフトウェアでした。

    さらに読み取り機のQRコードを照らす照明やセンサーの制御も含めて、ハードウェア設計者と連携しながら読み取り性能に関わる部分全般にも携わってきました。また、神戸は駅のホームドアシステム用の「tQR」や改札用のQRコードリーダー、長方形型の「rMQRコード」といった新しいQRコードの開発にも取り組んできたというバックグラウンドを持ちます。

    2016年に東京都交通局から依頼があり、開発が始まった「tQR」について神戸は次のように話します。

    「電車のホームでは視覚障害者や一般の方が線路内に転落する危険性があり、多くの事故が発生しています。国としても安全性確保のため1日10万人以上の利用者がいる駅に対してホームドアの設置を推進してきました。電車の到着にあわせて自動でホームドアの開閉を行う制御法について、従来は通信機器を車両に装着させていましたが、全車両への設置には多額の費用がかかることが大きな課題でした。そこで、別の解決策としてQRコードが候補に上がったんです」(神戸)

    デンソーの開発チームは、当初は通常のQRコードでの対応を検討しました。しかし、鉄道駅ホームという環境、日照の大きな変化の中では確実な読み取りの面で課題がありました。そこで、専用のQRコードを開発することを決断します。神戸は原の助言も得て、通常のQRコードは30%までの欠損や汚れがあっても読み取れるのに対し、tQRではその数値を50%にまで高め、外光の反射や雨粒による読みづらさに対応するコードの開発に成功します。

    また、開発チームは、複数箇所のドアにQRコードを貼り付けて検知することで、万が一QRコードの剥がれや個別のドアの異常などが発生した場合においても信頼性を確保するなど、電車ならではの課題にも対処する仕様に仕上げていきました。

    開発にあたり、原の徹底した現場主義の哲学は神戸も含めた開発メンバーにも引き継がれているといいます。開発者として、現場検証があればいつどんな時でも駆けつける原の姿から学ぶ点は多かった、と神戸は当時を振り返ります。

    「ホームドアの初期の実証実験では、昼間の運行に差し障りがあるため深夜に実際に電車を走らせて実証をしていました。原さんは夜遅い時間帯でも毎回現場に駆けつけて立ち会われており、その現場第一の姿は、いまでもよく覚えています」(神戸)

    神戸がもうひとつ関わってきたのが「rMQRコード」の開発でした。前述のように「rMQRコード」は読み取りやすさと多くのデータ容量を持ちながら、細長く狭いスペースへの印字を実現するQRコード。これまでQRコードで対応できていなかった利用用途での活用が予想されており、最終的にコードの種類を32種類用意するかたちとなりました。また、「rMQRコード」も特許を無償化、かつ、ISOによる国際規格化を狙い開発を進めてきたという特徴があります。

    すでに数多くの用途で普及しているQRコードの利用シーンをさらに拡大するコードかつ、最初から世界規模を見据えた開発に、インパクトの大きな仕事ができることへのやりがいを感じた一方、開発にあたって苦労も多かったと神戸は振り返ります。

    「さまざまな用途での活用を見据えた汎用的なコードであり、tQRコードのようなハードウェアの制約もなかったため、規格設計の自由度が高く、最終的なコード仕様の仕上げ方に悩んでしまった部分もありました。その際、QRコードの名前の由来である“クイックレスポンス”という原点に立ち返り、開発の方向性を定めることで完成までたどり着けたんです」(神戸)

    神戸のように技術開発に取り組んできたメンバーだけではなく、社会の課題に応じたソリューション開発や事業化という観点からQRコードのこれからをつくろうとしているメンバーもいます。

    後編の記事では、長崎ソリューション開発センターを拠点として農業や水産業、医療や介護分野などでのQRコードを用いた新しいソリューションを生み出そうとしているソリューション開発部イノベーション開発室・企画室に所属する井上昂大の取り組みや、神戸、井上が描く、QRコードの次の30年に向けたビジョンについてご紹介していきます。

    ※QRコード、tQR、rMQRコードは、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

    • 後編:「現場主義」で、QRコードを活用した新たなソリューションを社会実装する
    キャリア・生き方

    執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN

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