株式会社デンソー

「モビリティの電動化」を担う次世代の技術者を育てる

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 大学生や専門学生で技術者を目指す人
  • 自動車業界やモビリティの電動化に関心を持つ人
  • 次世代の技術開発に興味のある人
  • 環境問題に関心を持つ人
  • 教育や産学連携に興味のある教育関係者
Point この記事を読んで得られる知識

世界中でモビリティの電動化が進む中、環境問題解決のために技術者の育成が重要な課題となっていることがこの記事を通じて理解できます。デンソーは学生フォーミュラのEVクラス支援を通じて、若い技術者の育成を行っています。この大会は2003年から続いており、学生たちは自らフォーミュラスタイルのレーシングカーを設計・製作し競い合います。デンソーは仁野新一を中心に、大学生にモーターやインバーターなどを提供し、技術指導を行っています。特に、技術が進展する中、実際のものづくりの体験が減ってきていることの問題が指摘されています。シミュレーション技術の発展により、実物に触れたり、試作を行ったりする機会が減少し、実際の製品開発において重要な感覚を得ることが難しくなっている点が強調されています。また、学生フォーミュラにおいて、デンソーは学生が自主的に学び、体験を通じて知識を深めることの重要性に貢献しています。EVクラスにシフトするための支援が行われ、特に東京大学のチームなどが好成績を収め、実践を通じて技術を継承し向上させています。こうした取り組みが、カーボンニュートラルな未来を実現し、モビリティの電動化を支える次世代技術者の育成に繋がっていることが伺えます。

Text AI要約の元文章

2024.12.25

キャリア・生き方

「モビリティの電動化」を担う次世代の技術者を育てる

若手技術者の登竜門「学生フォーミュラ」におけるEVシフトの支援

気候変動などの問題に直面するなか、いまカーボンニュートラルの実現に向けてクルマを筆頭としたモビリティの電動化が世界中で進んでいます。

モビリティ業界全体が大きく変わっていくためには、その変化を支える技術者の育成が欠かせません。地球環境の未来に向けて、電動化を担う技術者をいかにして増やすかは業界全体にとって喫緊の課題です。

デンソーも、業界の未来を担う人材を育成するために様々な活動を行っています。今回は、大学生や専門学生がレーシングカーをイチからつくる大会「学生フォーミュラ」におけるEVクラス支援を通じた、次世代の技術者育成への取り組みをご紹介します。

この記事の目次

    自動車業界でのモノづくりを目指す若手技術者の登竜門

    大学生や専門学生が、フォーミュラスタイルのレーシングカーをイチからつくり、その走行性能や車両コンセプト、設計、コストなどを競う──。そんな、自動車業界でのモノづくりを目指す若手技術者の登竜門のようなイベントが、公益財団法人自動車技術会が主催する「学生フォーミュラ」です。

    2003年から始まった同大会では、学生がフォーミュラスタイルのレーシングカーをつくり、機械・電気に限らず幅広い実践的な知識を習得するとともに、性能向上・原価低減・商品性向上などに挑戦してきました。学生チームは約1年間をかけて設計・製作・走行テストを経て、大会当日を迎えます。

    2024年の大会は、9月9日から14日にかけてAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催され、75チームが参加。デンソーは、2024年の大会には18名の社員が実行委員として参加し、大会の運営や審査に関わりました。なかでも特徴的なのが、大会期間中のみならず、学生への支援を継続的に行っている点です。

    その支援を行うキーパーソンのひとりが、仁野新一です。仁野は、車載半導体開発を加速するためにトヨタとデンソーが合弁で2019年に設立した株式会社ミライズ テクノロジーズへデンソーから出向。その傍ら、自身のXやYouTube、ブログでも「電動化の原理」に関する発信を続けており、業務の傍らで技術の発信や指導に取り組んできました。

    技術発展の裏で起こる、「モノに触れる機会」の減少

    そんな仁野が主に担っているのが、学生フォーミュラにおけるEV(電気自動車)クラスへの支援です。学生フォーミュラでは世界的なEVシフトを背景に、2012年にEVクラスのプレ大会が開催され、今大会では全75チーム中21チームがEVクラスを選択するようになりました。

    EVクラスに挑戦するチームを応援するために、デンソーでは仁野を筆頭とした社員による大学生への技術指導のほか、EV用のモーター、インバーター(※)を計9大学に無償提供しています(2024年11月時点)。学生への指導の重要性について、仁野は次のように語ります。

    ※EVがバッテリーに蓄えた電気を効率的に活用し、優れた機動性を発揮するために欠かせない製品。バッテリーから供給される直流電流を交流電流に変換するほか、交流の電圧や周波数を制御することで、モーターの回転数やトルクを調整する役割を担う。

    「デンソーから学生チームに提供しているインバーターやモーターをうまく使いこなせば、競技には参加できるものの、上位を狙うためにはそれらの製品の性能をさらに向上する必要があるんです。しかし、実際に製品を目の前にしたときに何から取り組めばいいのかわからない学生さんも多くいます。そういった学生さんたちを指導するために、大学に直接出向くようになりました」(仁野)

    仁野はデンソーが支援する東京大学や上智大学など10校に出向き指導するなかで、「知識は習うけれども、実際にモノをつくって組み立てる機会が減っている」という現状に気づきました。そのような状況について、仁野は次のように分析します。

    「我々が提供する製品についての仕組みや作動原理を理解した上でモノづくりをする学生さんは減っているように感じます。それは直接モノに触れる機会が減少していることに起因しているのではないでしょうか。

    それらの背景には、シミュレーション技術の発展があります。従来のモノづくりでは、製品の性能や安全性を検証するために部品単位での変更が必要でしたが、いまはそれがシミュレーター上の変数を操作するだけで実行できてしまいます。お金もかからず、危険性もないし、物事がはやく進む。

    しかし、シミュレーションだけでは検証できないこともあります。例えば、計算上は問題なくても、実際のモノで検証してみると想定外の負荷によって壊れてしまうこともある。この感覚はシミュレーションだけでは学びにくいと思っています。シミュレーションも重要ですが、細かな計算では得られない『感覚』の部分も含めて伝えることで、モノづくりの醍醐味を理解してもらっています」(仁野)

    手を動かしながら原理を学ぶきっかけを提供

    大会中は様々な大学の学生が、デンソーが運営するブースに足を運んでくれました。ブース内では、FIA世界耐久選手権(WEC)でレーシングカーに搭載される電動化製品やEVシステムのデモ機やADAS(先進運転システム)とそれを支えるソフトウェア、そして生成AIロボットなど、様々な技術や機器を展示し、モノづくりの未来や変化を体験してもらうことを目指しました。

    当日は、仁野が電動化技術の原理モックを用い、ブースを訪れた学生に向けて熱心に説明する様子も見受けられました。

    「クルマのハイブリッドのモーターを動かすためには、大きなバッテリーが必要で、高電圧をかけて大電流を流さなければならないと思っている方も実際は多いと思います。しかし、乾電池1本でハイブリッドのモーターは動かせるんです。

    そんな原理を伝えるために自分がつくったのが『手回し式3相インバーター』です。これは、電子回路もなく、簡単なスイッチを組み合わせたもので、こうしたデモを通じて多くの学生さんにインバーターの原理について説明しているんです」(仁野)

    ブースに足を運んでくれた大学生は「以前から3相インバーターに興味があり、実際に動かせることで感動しました」「モビリティの電動化や全自動化などは難しいからこそ、自分たち若い世代が担っていかなければいけないと思いました」と感想を残してくれました。また、ブースを訪ねてくれた別の大学の学生は次のようにも話してくれました。

    「ものすごくスピードが出るEVを間近で見て、EVクラスもいいなと思いつつ、そんなに簡単には変えられないとも思ってしまいました。しかし、デンソーブースでEVの原理を学ぶことができ、自分も挑戦できるのではないか、挑戦してみたいと感じることができました」

    限られた時間で結果を出す難しさ。学生たちのEVシフトへの挑戦を支える

    仁野は、技術指導の一環として、前述の東京大学や上智大学などのチームがEVクラスにシフトするための支援を続けてきました。

    前述のように、2024年の大会では、全75チーム中21チームがEVクラスを選択していますが、これまで開発に取り組んできた従来のICV(ガソリンエンジン車)からEVクラスへのシフトは容易ではありません。

    まず、学生フォーミュラは毎年開催されるため、もしEVクラスにシフトしようとすると、1年間で何もない状態からEVのマシンを完成させる必要があります。大会が公式で「EVパーツ情報支援」のページをつくり、各社がパーツの提供を行っているものの、学生たちだけで進めていくにはまだまだ難しさがあります。なぜなら、従来のICVと比較してEVならではの点──EVの機器レイアウト、コントロールユニットの制御方法、部品選定、バッテリー製作など──において、技術やノウハウの継承がなく、イチから取り組む必要があるからです。

    また、チームのキャプテンが「EVクラスに変えたことで自分の代はランクが落ちてしまった」という結果を避けようとすることも、EVクラスへシフトする妨げになっています。

    そこで、積極的に企業の技術者が関わり、EVシフトをサポートするようになったのがここ1〜2年の動きだと仁野は言います。

    デンソーの支援先のひとつが、「東京大学フォーミュラファクトリー(以下、東大チーム)」です。同団体は、EV部門での優勝を目指し、2023年にEVクラスに転向。2023年の大会では、EVシフト1年目で見事完走し、ICVも含む総合順位25位、EVクラスで3位の成績を残しました。

    そして今年(2024年)の大会では総合順位15位、EVクラスでは3位の成績となり、着実に進化を続けています。前述のようにEVシフトが容易ではないなか、東大チームが1年目から優れた成績をあげることができた背景には、部員数の多さだけではなく、学生の積極的に学ぶ姿勢があったと、仁野は分析します。では、そんな東大チームはどのような取り組みを続けてきたのでしょうか。チームを率いる本澤さんは次のように語ります。

    「もともと東大にはICVとEVの2チームありました。ICVチームには自分たちが使っていたエンジンが生産中止になってしまい、現在使用しているものが壊れると走れなくなってしまうという問題がありました。また、EVチームはクルマよりもその電気の技術に興味がある学生が多く、クルマ全体をつくり上げていく点に難しさがあったんです。同じタイミングで、学生フォーミュラの運営もEV化を進め始めており、よい機会だと考えて合併してEVクラスに一本化したんです」(本澤)

    技術指導も含めた関わり方について、本澤さんは次のように振り返ります。

    「以前ご提供いただいたものからインバーターの仕様が変わったため、わからないところを適宜私たちから質問し、その都度回答していただけたのが助かりました。仁野さんが大学に来てくれて『インバーター教室』というのを開いてくれたんです。そこでインバーターの構造や内部の回路などを説明いただき、初歩的な質問でも本当に深いところまで丁寧に教えてくれて大変助かりました」(本澤)

    2024年は東大チームがEVクラスにシフトしてから2年目にして着実にランクを上げているなか、この1年間での技術や経験の変化にはどのようなものがあったのでしょうか。

    「1年目の2023年は経験のなさから出る問題が多く、マシンをつくり上げるまでに時間がかかりました。ただ、慎重にマシンづくりを進めたことが功を奏して、誤作動なく完走することができました。今年は基板自体の小型化や配線をまとめるディスプレイ設置など細かな変更を加えています。やはり1年目に得た経験は大きく、みんなパッと手が動くようになりましたね」(本澤)

    そして、仁野が言及した「モノづくりの機会の減少」について聞いてもみると、次のように答えてくれました。

    「東大の場合は1~2年生は教養課程のため、座学が多いんです。なので、学生フォーミュラのように手を動かしながら学べることは、その後の専門課程への進学でも非常に強みになります。

    また、機械工学科は手を動かすことが多いと思うのですが、自分が所属する航空宇宙工学科はシミュレーションが多く、手を動かす機会が少ないのが現状です。

    もちろん、社会はデジタルにシフトしていると思うのですが、技能なくして社会は決して成り立ちません。いまのような社会だからこそ、手を動かして学ぶことの意義があると思います」(本澤)

    技術もひとも、次の世代へとつないでいくために

    手を動かして学ぶことと、シミュレーションを活用すること。デンソーは掲げている理念(デンソースピリット)のなかで前者を「現地現物」、後者を「先取」と表現しており、これからの社会に貢献するための重要な要素と位置づけています。

    だからこそ、「学生の自主的なモノづくりの総合力を育成する」ことを目指した学生フォーミュラの支援を続けていきたいと考えています。学生フォーミュラにおける支援校の好成績獲得やEVクラスチーム増加のために、引き続きサポートを続けていく予定です。

    デンソーにとって次世代の技術者育成は、カーボンニュートラルな未来に向けて必要不可欠な要素です。仁野を筆頭とした熟練の技術者たちが、学生に向けた実践の場をつくり、技術の未来をかたちづくるその姿勢こそが、モビリティの電動化の未来につながっていくはずです。

    キャリア・生き方

    執筆:inquire 撮影: スタジオワーク

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    https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/career-life/student_formula/

    ・カーボンニュートラルの実現に向けて、クルマを筆頭としたモビリティの電動化が世界中で進むなか、その電動化を担う技術者不足が指摘されている

    ・学生がフォーミュラスタイルのレーシングカーをつくる大会「学生フォーミュラ」では、EVクラス、ICVクラスが存在し、デンソーは主にEVクラス向けの部品提供や技術指導などを実施している

    ・2024年の大会ではデンソーはEVクラス約10大学を支援し、今後も支援校の好成績獲得や、EVクラスチーム増に向け、引き続きサポートを続けていく

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