この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 人事担当者
  • 経営者
  • マネジメントに携わる人
  • 企業文化に興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事から得られる知識は、サイボウズが企業規模の拡大に伴う働き方の多様化とその課題について取り組む姿勢と、そのために導入された新たなチームの原理原則の重要性に関するものです。サイボウズは「100人100通りの働き方」を見直し、社員数1000人に対応した働き方を模索しています。その過程で、各個人の理想を実現することがチームの生産性と抵触することがあるという現実に直面し、それを解決するために「サイボウズ流 チームの原理原則」を策定しました。これによりメンバーとマネジャーの間でのコミュニケーションを円滑にし、互いの望む働き方を明確にしあえるよう働いています。この動きの意図は、社員一人ひとりが自分の理想と向き合い、それをチームと適切にマッチングさせることで、企業の成長と社員の幸福を両立させることです。また、この原理原則は社内外に今後共有し、他の企業とのディスカッションを通じて、さらに社会全体でのコモンセンスとして広めていくことを目指しています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

1000人1000通りで「個人とチームの理想を合わせる」なんて、ぶっちゃけ無理じゃないですか?

2024年10月、サイボウズ式では『サイボウズは「100人100通り」の働き方をやめます』と題した記事を公開しました。

従業員数が1000名を超え、大企業化しつつあったサイボウズ。新しく入社したメンバーや採用候補者から「サイボウズなら働き方を何でも自由に選べる」と極端な解釈をされてしまうことも。その結果、個人的な希望を実現できることが前提のようにとらえられ、マネジャーがメンバーとのコミュニケーションに苦慮する場面が出てきました。

そんな現実を踏まえてパーパスやカルチャーを問い直し、さらに会社規模が大きくなってもチームの生産性とメンバーの幸福を両立させるため、「100人100通りのマッチング」に取り組み始めたのです。

あれから1年。チームとメンバーの理想をすり合わせるマッチングは、すべてが順風満帆というわけではありません。メンバーとマネジャーの間には、互いの理想をリクエストし合うことへの認識のずれが生じることもあります。

そこでサイボウズでは、チームとメンバーのあり方や、100人100通りのマッチングにおける原理原則を定めた「サイボウズ流 チームの原理原則」を作成しました。

なぜ原理原則が必要なのか。原理原則によってメンバーとマネジャーの会話はどのように変わるのか。サイボウズ代表の青野慶久と、原理原則の作成に関わったメンバー2人が語りました。

久々の離職率アップは「意味のある変化」だった

前回の記事は、社外はもちろん、社内でも大きな反響を呼びましたね。
2024年10月29日サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦
社内では「チームと自分自身の理想について改めて考えるようになった」という声が多く寄せられました。
ひとつの明確な変化として、サイボウズでは久々に離職率が上がったんですよ。低いときは2%台だったのに、2024年度は6.9%になりました。でも僕は、この数字だけを見て良かった悪かったと評価するつもりはありません。

青野 慶久(あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年現職に就任。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など

100人100通りのマッチングをやり直す過程で、「サイボウズは自分の理想をかなえる場所ではない」と考えた人もいるのかもしれませんね。
そうですね。

ただ、一人ひとりが自分の理想と向き合い直した結果なのだとすれば、意味のある変化だったと思います。

理想を言えないメンバーの悩み、理想を引き出すマネジャーの苦労

わたしは、現在の「100人100通りのマッチング」が着実に進んでいると感じています。

荻野 亜由子(おぎの・あゆこ)サイボウズ株式会社 社長室・全社戦略本部 所属(兼務)。法務、人事、チームワーク総研を経て現職。サイボウズの社内大学「CAAL(Cybozu Academy for Ambitious Leadership、カール)」の事務局として、立ち上げから運営に携わり、現在は卒業生の次世代リーダーとしての活躍にむけた実践の場としてCAALアルムナイも運営中

メンバーは希望する働き方を手軽に伝えられますし、マネジャー側も「働く場所ポリシー」をチームごとに定め、「この業務は出社が必要なのか」「どれくらいの出社頻度を求めるか」などの要望を明確に出すようになりました。

サイボウズ式 編集チームの「働く場所ポリシー」

メンバーもマネジャーも、互いにしっかりリクエストしあう責任がある。そんな認識が広がってきましたよね。

ただ、若手メンバーなど自分の理想をまだ明確にできていない人は、うまくリクエストできずに悩んでいるかもしれません。
僕自身は過去数年のマネジャー経験から、メンバーの理想とチームの理想をマッチングさせることが難しいと感じたこともありました。

部長のような役割を担っている管理職の中には、数十人のメンバーと接している人もいます。「一人ひとりとのマッチングは大変そうだな」と感じますね。

藤村 能光(ふじむら・よしみつ)。マーケティング本部 人材・組織支援部長 兼 全社戦略本部 理念体系部長。サイボウズの社内大学「CAAL」に1期生として参加後、「サイボウズ流 チームの原理原則」の制定にかかわる。2025年10月からは理念体系全般の編集に挑戦中

そうですよね。メンバーとマネジャーの対話を支援できるよう、前提条件となる定義をそろえておきたい。それが「100人100通りのマッチング」の仕組みをつくっていくきっかけでした。

ずっと言葉にしてきた企業理念の「外側」を考えた

最初は青野さんが一人で「サイボウズのフィロソフィ(※)を作りたい」「思ったことがあれば書いてください」とグループウェア上で呼びかけていましたよね。
※フィロソフィとは一般的に、企業における行動原理や哲学、ものの考え方など。

青野による、フィロソフィ作成におけるグループウェア上での呼びかけ

その後、「フィロソフィ体系を作っていく」という試みが全社戦略室(現:全社戦略本部)で立ち上がり、僕は、サイボウズの社内大学「CAAL」の第一期生として参加したんです。
プロジェクト名も「フィロソフィ体系プロジェクト」と呼んでいました。
僕はそのプロジェクトの役割を、「フィロソフィを体系化する」という言葉のまま受け取っていました。フィロソフィとは「経営者の哲学」だと解釈していたので、青野さんの経営哲学を言語化する取り組みだと思っていたんですよ。
実は僕自身の中でも言語化できておらず、手探りだったんです。
プロジェクトの大転換期は、フィロソフィという言葉を手放したことでしょうね。

藤村さんが「フィロソフィという曖昧な概念ではなく、世の中に広く当てはまる『原理原則』が必要なんじゃないか」と指摘してくれたんです。
議論の中で「フィロソフィという言葉から一度離れてもいいですか?」と提案しました。

でも内心はドキドキしていたんですよ。それまでは青野さんの哲学を言葉にしなきゃいけないと思っていたので。
なぜ、フィロソフィという形では伝わらないと思ったんですか?
きっかけは社内からのフィードバックでした。

サイボウズでは重要なことを決定する際に、社員みんながオープンな場で議論ができるよう、「全本部会議」という経営会議に議案を持ち込みます。その中で、さまざまな社員から「フィロソフィって何?」「伝わりづらい」といったフィードバックが寄せられたんです。
大切だと思っていたのは、「サイボウズ内だけでしか通用しない独自ルールではダメだ」ということ

100人100通りのマッチングを、世の中一般に通用する「チームとメンバーのあり方」の原理原則にしていくためには、概念的にもっと広げて考える必要がある。これまで僕たちが言葉にしてきた「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念の外側を考えなければといけないと思っていました。
議論の過程で印象に残っているのは、「部活動」の例えです。

サイボウズを野球部だとすると、野球がとにかく大好きで、「甲子園に行くぞ!」という目標を持って入ってくる人もいます。

そこに、「自分はサッカーがしたいんです」と言って、野球部に入ろうとする人がいたらびっくりしますよね。「ここは野球部だよ。サッカーがやりたいならサッカー部へ行きなよ」ってなります。これではマッチングに苦労してしまいますよね。
はい。サイボウズ以外にも部活動はいろいろな種類があります。実は自分で部活を立ち上げるというオプションもあります。選択肢の中から条件に合わせて自分で選ぶのだという認識がないと、入部してから後悔することになるんです。

こうした前提が共有されていないと、メンバーとマネジャーのコミュニケーションはすれ違ったままになってしまいます
そうした議論を経て、青野さんの思いを藤村さんが分かりやすい言葉に編集していったことで、今回作成した「チームの原理原則」の土台ができあがりました。

他社に先駆けて失敗し、答えを見つけることが「チームワークあふれる社会」につながる

最終的には「サイボウズ流 チームの原理原則」としてまとまり、全社に共有しました。ver1.0の段階で21ページにおよぶ、かなり濃い内容となっています。

「サイボウズ流 チームの原理原則」 ver1.0のイメージ。理解しやすいよう、テキストと図でていねいに表現している。

大きく分けると、前半ではあまねく社会全体に適用できるチームの原理原則を、後半ではサイボウズでどのように原理原則を活用できるかの具体例を示しています。

この「サイボウズ流」とつけているところが大きなポイントですよね。
単に「チームの原理原則」としてもいいんですが、原理原則という言葉には「真理」とか、「ただ1つの解」といったイメージがありますよね。でも、今回言語化したのは唯一絶対の真理とまでは言えない。ほかの会社には、別の考え方もあるかもしれません。

また、今回言語化したのは「マッチング」に関するもので、チームの原理原則には他の項目もあるかもしれません。

だからいまは「サイボウズ流」としていますが、もちろん他社で活用してもらっても構わないと思っています。ゆくゆくはオープンソースのようにして、社会のコモンセンスにしていければ理想的です。

他社も含めてディスカッションが進んだときに、「サイボウズ流」が取れたものになるんでしょうね。
今回のver1.0を軸に、いろいろな人や企業に関わってもらい、バージョンアップしていくということですね。
その第一歩として、サイボウズではこの原理原則をメンバーとマネジャーがそれぞれ読み込みながら、定着させていってほしいと思っています。
社内の浸透はまだまだこれからですが、人事部門からは「原理原則があることで各種人事施策の上位概念を説明しやすくなった」という声も届いています。
当たり前のことを言語化し、それに沿ってやっていくことがいかに大切か、ということでしょう。

これはある意味、企業組織の憲法のようなものだと思います。
これまでを振り返ると、「100人100通りの働き方」という言葉が、「サイボウズは働き方が自由なんだ」というメッセージで伝わってしまった。その反動や反省が、今回の原理原則に生かされた面もありそうですよね。
たしかに反省すべきことはたくさんあると思います。

何事もそうですが、働き方改革でも僕たちは前例のないことにチャレンジしてきて、成功も失敗もたくさん経験しました。

コロナ禍以降は、全社的に完全リモートワークを実施したり、事業の成長に合わせてたくさん人を採用したりしたことによって、新たな課題も明確になりました。

この場面で僕たちはどう立ち向かうか。他社に先駆けて失敗し、先に答えを見つけることが、僕たちの目指す「チームワークあふれる社会」につながるのだと思っています。

今回もそうしたチャレンジのひとつ。うまくいくかはわかりませんが、もし失敗しても僕にとっては「おいしい」んですよ(笑)。失敗は新たな知見につながるものだから。

原理原則があるから、自由にリクエストできるし自由に断れる

チームの原理原則を運用していくにあたって、青野さんはマネジャーにどんなことを期待していますか?
100人100通りのマッチングを行うにあたり、マネジャーには、もっとメンバーにリクエストしてほしいと思っています。

100人100通りのマッチング イメージ図。ゼロから作り上げているため手作り感満載

マネジャーはいま、いろいろと遠慮してしまっているのかもしれません。「こんな働き方を要望していいんだろうか」とか、「こんな言い方をして大丈夫だろうか」とか。
たしかに、マネジャーとしてはリクエストすること自体に心理的負荷を感じるケースもあります。

メンバーの個別の状況を知れば知るほど、「これ以上頼むと過度に負担をかけてしまうかも」と気をつかってしまうんですよね。リクエストのさじ加減を100人100通りで見るのは、とても難しいことだと実感じています。
だからこそ、チームとメンバーとの望ましい関わり方を定義する原理原則が重要なんですよ。

原理原則に基づくことであれば、要望するのは自由。無理ならメンバーが引き受けなければいいだけなんです。
原理原則があるから、自由にリクエストできるし自由に断れる

そう思えば肩の荷が少し軽くなったように感じますね。これは原理原則の意義として強調していくべきだと思いました。
よいマッチングをたくさん増やそうと思うなら、表向きの理想の裏側にある、もっと深いところにある理想を共有しておくことも大切だと思います。

個人的には先日、ものすごくよいマッチングを経験したんですよ。

サイボウズは2025年に、愛媛オレンジバイキングスというバスケットボールチームの運営に参画することになりました。バスケチームを上位カテゴリーのリーグに上げるためには、必要な基準を満たすアリーナを作らなければいけません。

そんなプロジェクトに関心を持つ人が社内にいるだろうか……と探していたところ、「もとミュージシャンでエンタメ事業に詳しい」「スポーツが大好き」「サイボウズでは映像と音声配信の専門家として活躍している」という、これ以上の人はいないと思われる適任者が見つかって。
その人はグループウェア上の書き込みで「1か月間、ワールドカップ観戦に行ってきます!」と書いていたこともありましたね。
そうそう。僕も、青野さんとワールドカップの件でやり取りして盛り上がっているのを見ていました。
相手が本当に好きなこと、やりたいことを理解した上でリクエストできれば、マネジャーとしても最高ですよね。

普段から情報共有量が多いことが、おもしろいマッチングの素地になっているんです。雑談から相手の関心をつかむことが大切なんだと実感しています。

「ぬるま湯」でも「修羅場」でもない、一人ひとりに最適なマッチングがあるはず

世の中を見渡すと、最近は「言われたこと以外はやらない」といった話が話題に上ることがありますよね。

こうした現象は、チームとメンバーの理想がかみ合っていない状況で、上司との対話をあきらめているからこそ起きるのではないでしょうか。
わたしは社内で「現状に甘んじていていいのか?」という言葉を聞くこともあります。

サイボウズは働き方が柔軟で、みんなが優しい。でも、その居心地のよさに危機感を抱いている人もいるのかもしれません。

わたし自身は子育てと仕事を両立しやすいという理由と、新たなチャレンジをしたい気持ちでサイボウズへ転職しました。でも日々忙しくしていると、つい働きやすさに依存してしまう瞬間も正直あって。
「この環境がちょうどいい」と思っている人もいるでしょうし、「この環境で自分はどう貢献できるのか」と葛藤している人もいるんでしょうね。
だからこそ、チームの生産性とメンバーの幸福を両立させるためのマッチングが大切なんです。

片方に偏ると、職場はぬるま湯か修羅場のいずれかになってしまう。一人ひとりにとって最適なマッチングを、一人ひとりが見つけていかなければいけません。

チームの原理原則を共通言語として、メンバーもマネジャーも互いに関心を寄せ合い、よいマッチングがたくさんあふれる社会にしたいですね。

まずは僕たちがサイボウズ社内で実践し、時には失敗もしながら、世の中と意見交換していきたいと思っています。

企画・編集:竹内義晴(サイボウズ) 執筆:多田慎介 撮影:加藤甫

2024年10月29日サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦
2025年2月26日出社回帰かリモート継続か。どちらか選ばなければいけないんですか?——サイボウズ青野慶久×恩田志保

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執筆

ライター

多田 慎介

1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。

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撮影・イラスト

写真家

加藤 甫

独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。

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編集

編集部

竹内 義晴

サイボウズ式編集部員。マーケティング本部 ブランディング部/ソーシャルデザインラボ所属。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。

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