もしあなたがリーダーなら、チームの仕事が滞ってしまったとき、どのような行動をとりますか?
溜まった業務をメンバーに分配したり、「足りない分は自分がカバーすればいい」とひとりで踏ん張ったり……。つい「業務をさばくこと」に目がいきがちなのではないでしょうか。
しかし、會澤高圧コンクリート株式会社の畑野奈美さん曰く、「チーム全体の肯定感が高まれば、自然と業務はすすむ」のだそう。
どうすれば、チームの仕事が自然とすすむ仕組みをつくれるのか? リーダーに求められる本当の役割とは? 畑野さんの「チームづくり」から紐解いていきます。
家庭崩壊の危機。崖っぷちで社長に頼みこんだ「在宅勤務」
わたしはサイボウズに入社して4年目なんですが、まだリーダーとしてチームをまとめた経験がありません。
でも周りを見ていると、メンバーへの仕事の振り分けがむずかしく、自分で抱え込んでしまうリーダーが多そうだと感じて……。
いつか自分がリーダーになったら、どうやって周りを巻き込めばいいのだろう? と思ったのが、今回の取材のきっかけです。
畑野奈美(はたの・なみ)。1982年北海道帯広市生まれ。北海道苫小牧市に本社を置くコンクリートの総合メーカー・會澤高圧コンクリート株式会社で、常務取締役、未来開発本部 本部長を務める。2012年よりkintoneを活用した業務改善に取り組み、社内の作業効率アップに寄与
畑野さんにも、ひとりで抱え込んでしまった時期があったんですか?
がんばりすぎて、何度かプツンと糸が切れそうになりましたね。そのひとつが、2013年に結婚したときです。
当時は、毎日夜中まで働いて、一回家に帰ってごはんを食べて、また職場に戻る日々でした。
そんなわたしを見て、主人に「仕事を辞めてほしい」って言われてしまったんです。
最初のうちは、主人も応援してくれていました。でも、ずっとわたしの体調は悪いし、機嫌も悪い。新婚旅行にいく余裕もない。そりゃ、辞めてほしいと思いますよね。
じゃあどうする? ってなったとき、社長に「家庭崩壊の危機なので、在宅勤務させてほしいです。それが無理だったら、これ以上働けないかもしれません」と相談しました。
ちなみに当時、社内には在宅勤務の制度はあったんですか?
本当に崖っぷちだったので、だめもとで頼むしかないと腹をくくりました。
すると社長が「いいよ。パソコンがあればどこからでも働けるもんね」とまさかのOK。「え、いいの?」って拍子抜けしました。
パソコンと持てるだけの荷物を持って、その日から在宅勤務をスタートしました。
自分と家族のために必死だっただけなんですけどね(笑)
そこから少しずつ、在宅勤務という選択肢が社内に広がり始めて。
子育てや親の介護など、いろんな境遇を抱えながらも、仕事を続けられるメンバーが増えたことはすごく嬉しかったです。
子育てしながら働いて、初めて感じた「職場への怒り」
子育てや親の介護をしながら働くメンバーは、少なからず「申し訳なさ」を抱えています。
「みんなに迷惑をかけて申し訳ない」という罪悪感で潰されそうになりながらも、一生懸命チームのために働いてくれます。
家庭の事情で在宅勤務をしているメンバーは、どうしても働いている様子が見えづらい。
そうすると、ほかのチームリーダーから「おたくのチームって、全然仕事していませんよね」って言われてしまったんです。
その状況に、ものすごく腹が立って。
一生懸命働いているメンバーのがんばりに気づいてもらえなかったんですね。
「メンバーが悪いんじゃなくて、メンバーのがんばりに目を向けていないリーダーの責任でしょ?」って、悔しくて。
いろんな境遇を抱えながら一生懸命に働くメンバーのがんばりを、もっと周囲のチームに知ってもらいたい。
それと同時に、わたし自身もリーダーとして、メンバーの働きを正しく評価したいと思いました。
手伝ってほしい業務はあるけど、メンバーに割り振る余裕がない
ただ、いろんな境遇のメンバーが増えるにつれて、だんだん余裕がなくなってしまったんです。
お願いしたい仕事があっても、タスクを分解して振り分けると、かなり工数がかかってしまう。
「じゃあ、メンバーに自分からタスクを選んでもらおう!」ということで、「お仕事ビュッフェ」を始めました。
部署やチームとして「やるべき仕事」を一覧にして、その中からメンバーに「できる・やりたいタスク」を進めてもらう仕組みです。
自分のキャパシティや関心にあわせて仕事を選び取れるので「お仕事ビュッフェ」と名付けました。
できること・やりたいことベースで進められるのは、ワクワクしますね!
「お仕事ビュッフェ」を始めて、畑野さんのチームの仕事はどうなりましたか?
みんなの協力のおかげで、業務が効率化しました。
それと同時に、メンバーの肯定感も高まったように感じます。
会社から求められる仕事と、自分のできること・やりたいことがマッチすると、メンバーは「自分はちゃんと会社の役に立っている」と実感できますよね。
チームの仕事をすすめるには、まずこの肯定感をつくることが大事だと思います。
メンバーの肯定感のおかげで、チームの仕事が前に進むんですね。
子育てや介護をしながら働くメンバーは「肯定感」を求めている
一方で、「お仕事ビュッフェ」はメンバーの主体性に委ねる面もあると思います。
「自分の仕事を増やしたくないから、タスクをとらない」という人はいましたか?
ほかに抱えているタスク量や自分のコンディションによって、「ビュッフェ」の量を調整する人はいたと思います。
でも、ほとんどの人が「自分にできることがあればやりたい」と言ってくれました。
きっと、誰もが少なからず「自分は会社に必要とされている」という実感が欲しいと思うんです。
特に、子育てや介護をしながら働くメンバーは「肯定感」を求めていると思います。
わたしにも4歳の娘がいるんですが、急に「お子さんが発熱したので迎えに来てください」と、幼稚園から呼び出されたことが何度もありました。
もうね、みんなの苦しさがすごくわかるんですよ。
ただひたすら、周囲への申し訳なさが募っていくんです。
「自分はいないほうがいいんじゃないか」「役に立っていないんじゃないか」
そんな葛藤を抱えながら、みんな一生懸命働いてくれます。
子育てや介護に限らず、急な体調不良などで、従来の働き方やパフォーマンスが出せなくなる可能性は、誰もが持っていますよね。
「お仕事ビュッフェ」のように、チームの仕事をみんなで協力できる仕組みがあれば、自分もメンバーも安心だなって思うんです。
「評価されづらい仕事」をがんばるメンバーの存在を肯定する
「お仕事ビュッフェ」を始めてほかのチームからの反応はどうでしたか?
「畑野さんのチーム、みんな意識が高いですね」って言ってもらえる機会が増えました。
「そうなんですよ! うちのチーム、みんな本当にがんばってくれるんです!」って、もう嬉しくてたまりませんでした。
「やっと周囲に伝わった!」っていう達成感もありそうですね。
会社って、評価されづらい仕事もあるじゃないですか。
どんなにがんばっても「それがお前の仕事だろ」って言われてしまったり、「こなしてあたりまえ」のルーティンだと思われてしまったり。
誰からも「ありがとう」って言われなくても、チームのためにがんばってくれる人たちが、会社にはたくさんいると思うんです。
家庭の事情で、100%仕事にフルコミットできない人もいますよね。
「あの人って早退ばかりで、全然仕事やらないよね」ってレッテルを貼られてしまう。でも、ちがう、そうじゃないんです。
選択肢を与えて、やるべきことと、そのやり方をちゃんと伝えれば、みんなチームのためにがんばってくれます。
「お仕事ビュッフェ」は、単純にチームの仕事を可視化するだけじゃなく、評価されづらい仕事をがんばるメンバーの存在も肯定してくれる仕組みなんですね。
メンバーの「やりたいこと」を叶える環境づくりは、リーダーにしかできない
最後に、畑野さんにとって「リーダーにしかできない使命」はなんだと思いますか?
メンバーが力を発揮し、やりたいことを実現できる環境をつくること。これに尽きるなと、本当に思っています。
メンバーができること・やりたいことを最大限発揮できれば、いいチームになると。
自分のチームだけでできることには限界がありますよね。ほかのチームと連携すれば、できることは格段に広がります。
とはいえ、現場の人間がほかの部署・チームに協力を仰ぐのって、なかなかハードルが高いと思いませんか?
もともと繋がりが少ないチームだと、とくに頼みづらいですよね。
「あの部署の◯◯チームといっしょにやりたいんだ」となったら、まず自分の上長に相談して、上長から本部長にお伺いを立てて、人選してもらって……。
現場の人間が到底できることじゃないですよね(笑)
でも、メンバーの「やりたいこと」を叶える環境づくりは、リーダーにしかできない。だから、そういう「繋ぎ」の役目は、リーダーが引き受ける。
メンバーには「やりたい」をあきらめてほしくないので、そこの1点はがんばろうかなって思うんです。
「メンバーがやりたいことを実現するために、わたしは環境を整えるから!」ってリーダーが言ってくれると、メンバーとしてはすごく救われます。
わたしはそんなリーダーを目指していますが、なかには「24時間365日働けます」っていうリーダーもいます。
そういう人も、会社としては尊い存在で、否定されるものではありません。
「売り上げをあげている営業が一番偉い」という声も聞きますが、わたしはそうじゃないと思います。
売り上げを支えるために、図面を書いてくれる人や、泥まみれになって製品を作ってくれる工場の人がいる。
その仕事一つひとつが会社というチームを支えているからこそ、メンバーそれぞれが肯定感をもって働くことはすごく大事だと思うんです。
だからわたしも、自分ができることをやろうと思います。
執筆:深水麻初(サイボウズ)/撮影:田口裕貴
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