サイボウズ株式会社

小さな変化を積み重ねた先に、大きな変革が生まれる。 社内が「腹落ち」する意思決定のあり方 ──アルペン 二十軒翔×サイボウズ 栗山圭太

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業の経営陣
  • 組織のマネージャー職
  • ビジネスコンサルタント
  • HR担当者
  • 企業変革に関心があるビジネスパーソン
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読んで得られる知識は、アルペンとサイボウズという異なる業界の二つの企業がどのようにして社内の納得感を得ながら組織の変革を進めるかという考え方や手法についてです。記事では、特にアルペンがリアル店舗を活用しながら成長するために、「Alpen TOKYO」という大型店舗を新宿に出店する経緯が詳しく紹介されています。この決定は大規模なビジョンから始まり、内部での理解と納得感を得るためのプロセスが徹底されていたことが伺えます。

また、組織内の意思決定をスムーズに行うためのヒントとして、アルペンが実施している役員合宿や、社内のさまざまな人材への評価制度の重要性についても言及されています。社員が新しい挑戦を可能にするような環境を提供し続け、変化を促進する施策が小さな変化を積み重ねて大きな変革につながることが示されています。

さらに、アルペンが多様な人材を採用し、組織にフィットするように管理チームを構築する方法や、人事制度の改革に取り組んだ経験も共有されています。このアプローチは、組織の中で変化を受け入れられる文化を醸成し、継続的に成長を促進するための手段として重要な役割を果たしています。

Text AI要約の元文章
カイシャ・組織

小さな変化を積み重ねた先に、大きな変革が生まれる。 社内が「腹落ち」する意思決定のあり方 ──アルペン 二十軒翔×サイボウズ 栗山圭太

大規模な組織では、現場の納得感を得ながら変革を進める難しさに直面することがあります。

社員数1000人を超えるサイボウズも例外ではなく、経営層の考え方と現場のニーズとのギャップに悩んでいます。

そこで、サイボウズのマーケティング本部長である栗山圭太は、スポーツ用品専門店を全国に約400店舗展開する株式会社アルペンに注目。

意思決定の過程や現場から納得感を得るための工夫について、同社専務執行役員COO の二十軒 翔さんに迫りました。

EC全盛時代に、リアル店舗の旗艦店『Alpen TOKYO』を出店したワケ

栗山
いま、小売業界はECが主流ですよね。実店舗から撤退する企業も多いのに、アルペンは大都市圏にも店舗をどんどん展開しているのがすごいなと思っていて。

新宿の『Alpen TOKYO』は、誰が最初に出店を提案したんですか?
二十軒
完全に、わたしです。実は、アルペンに入社したときからずっと、「都内に大きな店舗をつくりたい」という夢を持っていたんです。

前職のときは東京に住んでいて、そのころのアルペンのイメージといえば、やっぱりスキーとかウィンター系だったんですよね。

でも、実際のアルペンって、それ以外でもおもしろい取り組みを行っています。そのことをもっと多くの人に知ってもらいたいという想いを形にしたのが『Alpen TOKYO』です。

二十軒 翔(にじっけん・しょう)。東京大学法学部を卒業後、外資系戦略コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーに入社。コンサルタントとしてキャリアを積む。2014年、より明確な方向性を求めてアルペンに転職。事業部長からスタートし、2年後には、経営戦略を担当する役員に就任。その後、人事制度の改革、物流やシステムの見直し、店舗開発、EC立ち上げなどの取り組みを通じて、企業の成長に寄与

栗山
そういう想いがあったんですね。出店は、いつごろから検討し始めたんですか?
二十軒
約6年前、わたしが店舗開発の担当役員を務めていた時期ですね。

「出店するなら、多くの人が集まる新宿駅周辺がいいだろう」と考えて、新宿の街を1人で歩き回ったり、店舗開発チームといっしょに情報収集をスタートしたりしたのが始まりです。
栗山
プロジェクトが進むと関係者も増えていきますよね。社内で反対意見とかはなかったんですか?
二十軒
実は、あまり大きな反対意見はなくて。前々から「既存店舗の発展のためには何が必要か」というのは考えていて、もちろんECを強化するという要素もありました。

ただ、それだけでは目指すべき姿にはなれません。もっと違う取り組みもしなければいけないと考えた結果、関東圏でシェアを拡大することにしたんです。
栗山
なるほど、それで関東圏に。
二十軒
「関東圏」と聞くと、狭い範囲に聞こえるかもしれませんが、マーケットとしてはすごく大きいんです。でも、我々はそのシェアを十分に取れていない状況で。

われわれの取引先には海外の取引先もありますが、彼らが見ている日本市場というのは東京の市場が中心です。そこでのプレゼンスが全然足りていないと感じていました。
栗山
そんな課題感をお持ちだったんですか。
二十軒
だから、「これから、関東でどうシェアを上げていくか」という話から『Alpen TOKYO』の話が立ち上がっています。

いきなり出店の話から始まったわけじゃなくて、大きなビジョンから出店の話がスタートしているので、みんなのなかで腹落ちしていたのかなと。
栗山
そういうことなら、反対意見がほぼなかったのも納得です。

栗山 圭太(くりやま・けいた)。執行役員事業戦略室長 兼 マーケティング本部長。2003年、新卒で入った証券会社を辞め、第二新卒としてサイボウズに入社。公共営業、大阪営業所の立ち上げなどを経て、「サイボウズ Office」「kintone」のプロダクトマネージャーを経験。その後自身の強い希望で営業に戻り、ここ数年はアジアの拡販にも注力。アジア10カ国を訪問し、パートナー企業とのリレーションシップを図っている

「議論の末、たどり着いた」という納得感が「現場の腹落ち」につながる

二十軒
『Alpen TOKYO』の具体的な検討にいたるまでに、個々のメンバーのなかにはいろいろな意見や思いがあったと思うんですけど、構想が熟成されてきたことで、社内でもスムーズに理解してもらえたのではないかと思います。
栗山
経営の基本に忠実ですね……。おっしゃるとおり、施策を進めるためには、ビジョンの共有や目線合わせが基本ですよね。

ただ、基本から外れちゃうときもあるじゃないですか。わたしもサイボウズの経営に携わる立場なので、その難しさも感じているところで……。

アルペンでは、どんな工夫をされているんですか?
二十軒
年一回、本社に全役員と部長のみなさんを集めて、1日かけて行う「合宿」ですかね。
栗山
なるほど、合宿……!
二十軒
この合宿は2017年から始めました。みんなで現場を離れて、大きなテーマについてディスカッションだけする時間です。
二十軒
初回は「世界の成長企業について考える」というテーマを出したんですよ。
栗山
普段は意識しないテーマと向き合うんですね。合宿って、業績とか数字の話をついついしちゃいますもんね。
二十軒
そうなんです。

「世界にはどんな会社があって、どう活躍しているんだろう?」「なぜ、成長が実現できているのだろう?」こういうことを考えることで、自社とのギャップや新たな視点に気づけます。

おかげで、「アルペンが大きく変わるためには、国内の競合店だけを見るんじゃなくて、もっと広い視点が必要だ」ということの理解が深まったようです。
栗山
よいテーマですね。
二十軒
いつもとは違う視点で議論を重ねたからこそ、「みんなで考えて、このビジョンにたどり着いた」という納得感を生むことができたんじゃないかと思っています。
栗山
まさに「理想への共感」ですね。
二十軒
何か新しいことをやろうと思うときに、普段の仕事と関係のないことを考えるのは、絶対必要ですよね。
栗山
思考をストレッチするためのテーマ、いいですね。サイボウズでも、さっそく取り入れてみたくなりました。
二十軒
はじめは1日のみの実施でしたが、いまでは事前課題の準備期間も含めて、チームごとに約1か月かけて取り組んでもらっています。

「毎年大変なんだよ(笑)」と言いながらも、楽しみにしてくれているメンバーがすごく多いんです。

合宿でいっしょにビジョンをつくり上げて、『Alpen TOKYO』の出店にも納得感を得られたことは、スムーズな開店準備にもつながって。

出店決定からオープンまで半年間しかなく、負荷のかかる業務でしたが、多くの社員が積極的に動いてくれました。
栗山
『Alpen TOKYO』のような大規模店舗にかかわれる機会は、人生で1回あるかどうかですよね。かと思ったら、名古屋や福岡でも出店が続き、社員のみなさんも「まだ続くの?」と驚いたかもしれませんね。
二十軒
まさにみんな、驚いていたみたいで(笑)。ポジティブな反応も多いんです。

「次は何をやるんですか?」「おもしろい企画を持っているんじゃないですか?」とわたしに聞くメンバーも増えてきました。

変化への抵抗感じゃなくて、「次はどんな変化があるんだろう?」とワクワクしてもらえる環境になってきたなあと実感しています。
栗山
そのほうが会社の成長スピードは確実に上がっていきますよね。

小さく変化し続けることが、大きな変化を生み出す

栗山
わたしの悩み、ちょっと言っていいですか。

いまのサイボウズは売り上げが順調に伸びて安定した収益を得られているおかげか、社内には落ち着いた雰囲気が漂っているんですよね。

この雰囲気のなかで、社内に変化を促そうとしても、「うまくいっているから、このままでいいじゃないか」という意見もあるんです。

社員の意識や組織のベクトルを変えていくコツがあれば、ぜひ教えていただきたいなと。
二十軒
そんな偉そうに何かを教えられる立場ではないんですよ。おなじく、アルペンも日々模索しながらやっていますし。

ただ、わたしの仕事は変化の種を見つけて、促すことだと思うんです。

われわれのビジネスは多領域に広がっていて、部署も多いので、「どこだったら変えられそうか?」を日々探しています。
栗山
具体的には、どうしているんですか?
二十軒
市場の動きと社内の状況をうまく組み合わせて、「ここなら面白くできそうだな」と感じるチャンスを探しにいく感じです。

組織全体を見渡してみると、大きく伸びそうな部分もあれば、ちょっと我慢しなきゃいけない部分もあって。でも、伸びると思う部分にアクセルを踏まないと、結局ちょっとの成長で終わっちゃうんですよね。
栗山
そうそう、そうなんです。
二十軒
だからこそ、アクセルを踏むためには人事異動もいとわないですし、組織の形自体を変えていくこともありだと思います。
栗山
うんうん。
二十軒
それに、成長しそうな領域にかかわっていて、「新しいことができそうだな」とか「役割を変えてあげたいな」と思う部署には、新しい役割をどんどん与えて変化を促すこともあります。

それを繰り返していくと、「社内のどこかは常に変化している」という状態がつくられてくるんですよね。
栗山
なるほど。
二十軒
アルペンでは、この状態を数年間つくり続けています。すると、社員は周りの変化を常に目にすることになるので、「いま、自分たちは安定しているけど、どこかで変わる必要があるのかもしれない」という意識が芽生えてくるんだと思います

われわれとしても、すべてを一気に変えることは難しいので、少しずつ変えていけたほうがいいですよね。それが成功の確率を上げているのかなと思っています。
栗山
たしかに毎年どこかが変化することで、全社的に「変化が当たり前」という雰囲気が醸成されますよね。
二十軒
ええ。毎年、いくつか変革できそうなネタを仕込んで、少しずつ実行しているところです。

もちろん、すべての変革が成功するわけではないんですけど、成功事例を全社に共有していくことで、ほかの部署やプロジェクトにいい影響を与えることもあります。そうやって小さな変革を積み重ねた結果、数年後には大きな変化を遂げられると考えているんです。

変化を引き起こすには「納得感のある評価基準」も必要

二十軒
あと、もうひとつ大事なのは、やっぱり人の評価の話なんじゃないかなと思うんですね。社員に「なんでこんな評価なんだ」って思われちゃったら、変わろうっていうムードは盛り上がらないはずです。

組織のいろいろな場所で、変化した人たちや、変化をリードした人たちを評価していく。その人たちが昇進していく。その様子を、みんなやっぱり見ているんですよね。
栗山
評価に納得できると、やる気も出ますよね。
二十軒
そのためにも、「会社は社員のみんなをちゃんと見て、正しい評価をしているんだ」と納得してもらえる評価制度を取り入れることが大切です。

そういった評価と、周りが変化し続ける環境の組み合わせで、「あ、自分も変わっていったらこうなれるのかな」っていう人たちが出てくると、会社が変化してくんじゃないかなと。
栗山
評価制度の設計は難しいですよね。サイボウズでは「100人100通り」の評価制度は実現できたんですけど、規模が拡大するにつれて、これまでの評価制度や人事制度を見直さなきゃいけないと感じているところです。
2024年10月29日サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦
二十軒
約7年前に、アルペンも人事制度と評価制度を見直して、いわゆる年功序列的な要素をなくしました。評価制度をなるべくシンプルにして、どの部署の、どの役割の、どの役職の人でも同じような評価基準で評価を統一しています。

その基準には「どれだけ新しいことに挑戦し、変化をもたらしたか」「変化に対してリーダーシップをどれだけ発揮したか」といった挑戦的な要素も加味して、アルペンのビジョンと評価基準を一致させたんです。
栗山
そういう仕組みにしたんですね。
二十軒
ただ、評価は仕組みよりも、その運用方法のほうが大事だと思っていて。人によって評価基準がバラバラだと、上司によって評価が大きく異なることもありますよね。

そこで、評価基準を統一する場を設けました。社員の評価を決めるとき、上司同士が集まって自分の部下の評価を持ち寄って、ほかの社員と評価について意見交換をしています。
栗山
それを、どれくらいのペースでやっているんですか?
二十軒
半年に1回ですね。次第に評価基準がそろってきて、誰が評価しても似たような結果になってきました。評価の公平性を高めることで、評価される側の納得感も得られるようになってきています。

評価に対する期待が生まれて、個人の変化が促されることで、会社自体も変わっていくことができるのだと思います。

「アルペンのDNA」を守りながら、3000人のマネージメントに挑む

栗山
人材登用についても、おうかがいしたいと思います。現在、アルペンの従業員数は約3000人とのことですが、この規模をお一人でマネジメントするのは難しいと思うんです。

そこで、約3000人を管理するためのマネジメントチームをお持ちだと思うんですけれども、これはどうやって構築されているのでしょうか?
二十軒
現在は各部門ごとに担当役員がいて、それぞれの部署を管理しています。役員の下には部長、さらにその下には課長クラスのマネージャーがいるという階層構造です。

ここ10年間で、組織の体制を少しずつ整理し、いまの形になりました。
栗山
どうして少しずつ整理したんですか?
二十軒
組織を構築するだけでは意味がなくて、その役割を果たす能力のある人がいなければ機能しないからです。

とはいえ、最初は「誰に任せたらいいのか」を考えるのは、正直すごく難しくて……。

適任者が社内にみつからなければ、社外に目を向けて人を探してくる必要もあります。ずっと、誰がいいんだろう? というのを考え続けています。
栗山
トップマネジメントクラスの人材を、社外から見つけてくるのはかなり難しい話ですよね。
二十軒
そうなんです。だから、社内外でさまざまな人と会って話していくなかで、「こんな人がいるんだ」とか「この人に、この役職をお願いしたらおもしろいかもしれない」と探して、少しずつ組織に当てはめていきました。

ただ、その人がアルペンで即座に能力を発揮できるとは限りません。だからといって、簡単に外してしまうわけにもいかないのが、組織の難しいところです。
栗山
おっしゃるとおりです。
二十軒
だから、実務でおたがいの意見をぶつけたり、意識を合わせたりする時間を確保して、一人ひとりに適切な役割を割り当てていきました。

結果として、現在の役員や部長は10年前とは大きく入れ替わっています。変化を受け入れ、新しい挑戦を推進できる人を高い役職に配置できているので、わたしが指示しなくても自発的に行動する組織に成長してきたかなと思います。
栗山
わたしが知っている方もアルペンの役員をしているのですが、組織にフィットして楽しく働いているようです。
二十軒
彼はこれまでのアルペンには存在しなかったタイプで、わたしとも違う考えを持っています(笑)。

でも、そういう自分とは異なる考え方や強みを持った人を増やしていきたいです。そうした人たちを組織に迎え入れることで、会社の成長につながると信じています。
二十軒
ときには、「これ、違うんじゃないか?」と思うこともありますけど、そこは任せてみるようにしています。結果がうまくいかなかったら修正しないといけませんが、頭ごなしに否定するのはよくないと思っていて。
栗山
いわゆる、多様性ですね。
二十軒
ええ。こんなふうに冒険しながら人を選ぶことができたのは、創業者である会長や社長が、創業当初からずっと関わってきたことで、アルペンのDNAがしっかり受け継がれてきたからだと思いますね。
栗山
ちょうど、そこもお聞きしたいところだったんです。

「変化に強いメンバー」が理想ではありますけど、やっぱり組織として変えてはいけない価値観もありますよね。そのバランスをどう考えていらっしゃるのでしょうか?
二十軒
そういう意味では、絶対にひとりでは決めないようにしています。「わたし個人が気に入った」という理由だけで人事や物事を決めてしまうのは、組織として極めて不健全です。

とくに人事については、社員の士気や組織文化に大きく影響するので、慎重な判断が必要です。周りの意見を必ず聞いて、「候補者が企業の文化や価値観と合致しているか」「チームに溶け込めそうか」などを確認した上で、人を採用しています
栗山
なるほど。知りたいことをいろいろとおうかがいできました。

最後に、「意思決定と組織の納得感」でいちばん大事にしていることを、改めて教えていただけますか。
二十軒
変化し続けるために、やり続けること、もがき続けることが大切だと思います。

組織を変えるにしても、納得してもらうにしても、一度やったからといって、うまくいくわけではありません。だからこそ、あきらめずにやり続けることが、いちばん大事なのだと考えています。

企画:神保麻希 執筆:流石香織 編集:モリヤワオン(ノオト)

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執筆

ライター

流石 香織

1987年生まれ、東京都在住。2014年からフリーライターとして活動。ビジネスやコミュニケーション、美容などのあらゆるテーマで、Web記事や書籍の執筆に携わる。

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編集

ライター

モリヤ ワオン

コンテンツメーカー・有限会社ノオト所属のライター、編集者。よく担当するジャンルは、ライフスタイルや健康にまつわるもの。

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