それぞれの個性を生かし合いながら働ける職場づくりに必要なものとは?
-
-
- ビジネスマネージャー
- 人事担当者
- 福祉政策に関心のある人
- 障がい者雇用を推進する企業関係者
- 職場の多様性を促進したい企業の役員
-
-
この記事を読むことで、特に久遠チョコレートとデンソーが行っている障がい者雇用の実践から、職場づくりにおける個々の特性を生かすことの重要性について学ぶことができます。久遠チョコレートは、多様なバックグラウンドを持つ人々がそれぞれの個性を生かしつつ働けるよう、仕事を人に合わせることを重視しています。一方、デンソーは長年にわたり障がい者雇用に取り組み、特に特例子会社の設立を通して幅広い障がい者雇用の枠を設けています。
これらの事例から、効率や生産性だけでなく、働きやすい環境をつくることで個々の力を引き出し、組織の価値を高めることが重要であると示されています。さらに、障がい者と健常者という区別を超えて人と人として向き合う姿勢や、特別視せずどんな人も自然体で働ける職場をつくる努力が必要であると強調されています。これらの取り組みを通じて、職場でどのように多様性を尊重し、活用するかに関する洞察を得ることができるでしょう。
-
-
2024.12.2
ビジョン・アイデアそれぞれの個性を生かし合いながら働ける職場づくりに必要なものとは?
久遠チョコレートとデンソーの障がい者雇用の実践から考える
-
夏目浩次(なつめ ひろつぐ)
久遠チョコレート代表。1977年、愛知県豊橋市生まれ。大学・大学院でバリアフリー都市計画を学ぶ。2003年、豊橋市において、障がい者雇用と低賃金からの脱却を目指すパン工房「花園パン工房ラ・バルカ」を開業。1000万円の借金を抱えながらも、より多くの雇用を生み出すため、2014年、久遠チョコレートを立ち上げ、わずか10年で60拠点に拡大。「凸凹ある誰もが活躍し、稼げる社会」を目標に、障がい者をはじめ、生きづらさを抱える多くの人々の就労促進を図りながら、美味しいチョコレートづくりに奮闘する。その山あり谷ありの道のりが描かれたドキュメンタリー映画『チョコレートな人々』(東海テレビ)は、全国公開され話題を呼ぶ。第2回ジャパンSDG’sアワードにて、内閣官房長官賞を受賞。
-
デンソー人事部 採用室 人財活躍推進課 課長元木 篤(もとき あつし)
1998年にデンソーに入社。知的遅れを伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子が通う支援学校での取り組みや、一人ひとり特性が異なる社員に対して適したサポートを常に模索しながら真剣に取り組んでいるデンソーブラッサムの社員の姿に感銘を受け、2024年にメカトロニクスシステム開発部から人事部への異動を決意。現在は、障がい者雇用定着支援と外部人材管理を担当している。製品開発や設計といったエンジニアの分野から、一生涯を懸けて障がい者の活躍を支援する仕事にキャリアチェンジし、日々、新たな知識とスキルを学び挑戦し続けている。
-
デンソーブラッサム 管理部 担当係長二見友紀(ふたみ ゆき)
1989年にデンソーに入社し、2016年にブラッサム設立と同時に出向。現在は、特別支援学校の生徒や就労移行支援事業所からの実習生を受け入れ、採用後は作業や会社生活への定着をサポート。自閉症の息子を持つ母親として、障がいがあるすべての人が自立して生きていけるよう支援したいという思いから、障がい者支援の仕事に従事することを決意。学校や医師、障がい者本人と関わる中で得た知識と経験を生かし、精神障害を持つ方々の採用を進め、それぞれに適した仕事を提供し、安心して働ける職場環境の整備に尽力している。
「働く」を考えるときに、私たち一人ひとりは得意なことや苦手なことが当然のように異なります。そして、それぞれの個性を生かし合いながら、会社や組織は成り立っているはずですが、個々人の特性をうまく生かした組織をつくることは簡単ではありません。
これからの組織のあり方を考える上でヒントになる活動をされているのが、久遠チョコレートです。全国に41店舗を展開し、バレンタイン前にはアクセスが集中してウェブサイトがダウンするほどの人気を誇る久遠チョコレートでは、多様な人たちがそれぞれの個性や熱量を生かして働いています。
久遠チョコレートで働く従業員の776名のうち、443名が障がい者手帳を保有している方々。ほかにも子育て中で時間に制限のある母親・父親、悩みを抱える若者、LGBTQの方など、いまの社会の仕組みでは「働きにくい」という思いを抱えている方々も、働きやすい環境づくりに取り組まれています。
今回、多様な人々が働きやすい環境のつくり方についてヒントをもらうべく、久遠チョコレート代表の夏目浩次さんにデンソー本社にお越しいただきました。聞き手を務めたのは、デンソーにて障がい者採用を担当する人事部の元木篤と、障がい者雇用促進のためのデンソーの特例子会社であるデンソーブラッサムの二見友紀です。
3人の対話からは、これからの企業における職場のあり方や評価指標の考え方など、「働く」を考えるうえでのさまざまな視点が見えてきました。
この記事の目次
目指すのは「どんな凸凹があっても、いきいき稼げる職場」
元木:夏目さん、本日はどうぞよろしくお願いします。久遠チョコレートを取り上げた映画『チョコレートな人々』を興味深く見させてもらって、お話を伺えるのを楽しみにしていました。
夏目:嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
元木:私たちの職場が、もっと言えば社会全体が障がい者フレンドリーになっていくためには何が必要か……ということを、夏目さんの取り組みから学ばせてもらえたらと思っています。まず、夏目さんが立ち上げられた久遠チョコレートについて、少しご説明いただいてもよろしいでしょうか?
夏目:もちろんです。久遠チョコレートは2014年に立ち上げたチョコレートブランドです。「デイリー&カジュアル」をコンセプトに、高級ショコラトリーのクオリティに匹敵するようなチョコレートを、日常的に楽しめるような価格帯でお客様に提供しています。
1号店を京都にオープンしてからフランチャイズ方式で各地に店舗を増やしていき、2024年7月末時点で全国に41の店舗と、61の製造拠点を構えています。従業員の数は総勢776名で、うち443名が障がい者手帳を保有している方々です。
二見:事業の対象として「チョコレートづくり」を選ばれたところには、何か理由があったのでしょうか?
夏目:ここに至るまでに私は「凸凹(でこぼこ)やグラデーションのある人たちが、いきいきと働ける世界」を目指し、パン工房やNPO法人、社会福祉法人の立ち上げや運営を通して、「稼ぎたい」「働きたい」「けれども、そもそもの選択肢が少ない」という人たちの願いに寄り添う受け皿をつくってきました。
「仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせていく」ことを前提として、どんな障がいがあろうとも、その人に合った形で力を発揮してもらい、いきいきと働けてしっかり稼げるような事業を模索し続け、いろいろな失敗も重ねながらたどり着いたのが、チョコレートでした。チョコレートづくりは途中の工程で失敗しても、温め直せば何度だってやり直しが利くので「人に仕事を合わせる」というコンセプトにピッタリだったんです。
また、パンづくりではたくさんの種類をつくろうとすると、それぞれ工程が異なるので作業が複雑になりがちです。それに比べてチョコレートは、混ぜるものを変えて微調整をすれば、大きく工程を変えずにさまざまな種類の商品がつくれます。従業員の働き方においても、商品展開においても、多様性を尊重できる素地があったところに惹かれたんだろうなと思います。
元木:映画でも拝見したのですが、チョコレートに混ぜる材料を細かく砕くための作業所「パウダーラボ」では、主に重度の障がいのあるスタッフさんたちが働いているんですよね。
夏目:そうなんです。重度の障がい者は制度上で介護対象となっていて、働いて収入を得ることを前提としたサポート体制がないんです。そのため、彼らの平均月収は3,000〜4,000円程度ともいわれています。同じ人間なのに、障がいがあるというだけで、こんなにも差が出るのはおかしいと思うんですよね。
仕事を彼らに合わせていけば、できることはたくさんある――それは、パウダーラボでの実践が証明してくれています。年間2,000万円ほどで外注していた作業を、立派にこなしてくれているんです。現状で重度の障がいのあるスタッフに支払えている月給は平均で5万6,000円ほど。
「従来の20倍」と言えば聞こえはいいですが、パウダーラボが所在する愛知県で定められている最低賃金の約半分。彼らやほかのスタッフたちの頑張りに見合った稼ぎを渡せるよう、お客様に選ばれ続ける、「また食べたい!」と思ってもらえるチョコレートをつくって、さらに仕事の価値を高め、利益の向上を図りたいと考えています。
1970年代に始まった、デンソーの障がい者雇用に関する取り組み
夏目:デンソーさんは、障がい者雇用に関してどのように取り組まれていらっしゃるのでしょうか?
元木:私たちも試行錯誤の真っただ中ですが、デンソーの障がい者雇用の取り組みについて少しだけご紹介させてください。
デンソーの障がい者雇用の歴史は、1970年代までさかのぼります。そこから毎年障がいのある社員が増え、現在では約670名の障がい者がデンソー本体で働いています。身体障がい者の方々が約8割を占め、その中でも聴覚障がい者の方々が約6割になります。8割以上の方々が生産現場でものづくりの仕事に携わっています。
二見:私が勤務している「デンソーブラッサム(以下、ブラッサム)」は、デンソーがさらに障がい者雇用を推進するために2016年に設立した2社目となる特例子会社。1社目である「デンソー太陽」は身体障がい者を中心に雇用しているのに対して、ブラッサムは主に知的・精神障がい者を受け入れています。社員数は2024年10月時点で145名、うち障がい者は110名となっています。
業務としては、本社でのメール集配や清掃、書類の電子化やデータ入力などの軽作業が大きな割合を占めています。最近では生産補助業務やリサイクル支援業務、車載カメラの映像から情報を抽出するアノテーション業務なども担うようになり、仕事の幅は年々広がりつつあります。
夏目:ご説明ありがとうございます。かなり昔から障がい者採用に取り組まれていたのですね。
元木:そうなんです。私はデンソー本体の人事部としてデンソー本体の障がい者採用や雇用後の定着支援、ブラッサムやデンソー太陽に対するサポートに携わっています。二見はブラッサムの設立当初から現場でスタッフの支援や採用にあたっています。
私たち二人とも、それぞれ子どもが障がいを持っていることもあり、障がい者が生きやすい、働きやすい社会を目指すアプローチがしたいという思いから、自ら希望して現在の仕事に関わっています。
「障がい者/健常者」という壁をなくし、人と人として向き合う
元木:夏目さんは障がい者がいきいきと働ける職場環境を実現するために、具体的にどのようなことを実践されているのでしょうか?
夏目:実は、「障がい者が〜」という主語であまりものを考えたことがないんですよね。それを踏まえて言うと、大事にしているのはシンプルに「人と人として向き合うこと」です。
障がいの有無に関係なく、皆それぞれ得意なことや苦手なこと、できること、やりたいことって違いますよね。そこにひたすら向き合って、できる限りその人が気持ちよく、ワクワクしながら仕事ができるような環境なり関係をつくっていこうと、日々意識しています。だから、何か特別なノウハウがあるとか、そういうことは一切ないんですよ。
二見:障がいの有無に関係なく「人と人として向き合う」というスタンスは、ブラッサムでも常日頃から大事にしたいなと感じていることです。さまざまな障がいのある仲間と働いていると、たしかにコミュニケーションや互いの理解に時間がかかることは少なくありません。
ただ、働いているメンバーの多くは責任感がとても強くて、一度仕事を覚えたらすごく丁寧な仕事ぶりを発揮してくれるんですよね。そんな姿を見ていると、障がいに対する配慮は必要ではあるものの、過度に気を使ったり、特別視したりする必要はないんだよな、と感じます。
夏目:そうなんですよね。人を「障がい者/健常者」と区別したり、もっとひどい言葉で言うと「使える/使えない」といった表現で選別したりするのに慣れてしまうと、すごく窮屈で閉塞感のある社会になってしまう気がします。その二者の間にはもともと壁なんかなくて、社会や経済が進化していく過程で、効率や生産性などの尺度が重視された結果として、生まれたものなんだと思うんですよね。
元木:たしかに「障がい者」というくくり自体、昔はそこまで明確になかったはずですよね。
夏目:ただ、商売をする上で、効率や生産性はとても大事な要素ではあります。かくいう私たちも、企業としての最優先事項は「美味いものをつくって、お客様に届けること」です。それをちゃんと果たすには、一定量を納期を守ってつくる力が必要になります。
けれども、もう一方で忘れちゃいけないのは、私たちがしているのは「経済活動」であるということ。経済とは語源に立ち返れば「経世済民」で、その本質は人を救う行為なんです。経済の力で利便性を高めたり物事を合理的にしたりして稼ぐことと、下を向いている人たちが胸を張れる世の中にしていくことは、両立できるはずだと考えています。
記事後編では、仕事やビジネスの速度に人を合わせるのではなく、「人に仕事を合わせる」という久遠チョコレートの姿勢や、多様な人々が働く組織における評価の考え方、そして久遠チョコレートの今後の展望までをじっくりお伺いしていきます。
ビジョン・アイデア執筆:inquire 撮影:BLUE COLOR DESIGN, talentbook
COMMENT
あなたが実現したいこと、学びたいこと、可能性を広げたいことに、この記事は役に立ちましたか?
ぜひ感じたことを編集部とシェアしてください。お問い合わせはこちらRELATED
- ビジョン・アイデア2024.12.2 メンバーの「個性」と「熱量」を生かした組織をつくるには? 久遠チョコレートとデンソーの障がい者雇用の取り組みから考える
- ビジョン・アイデア2024.4.25 企業は、“社会貢献したい“気持ちをどう後押しできる? 会員数8000人、寄付総額4億円まで成長している「デンソーグループのはあとふる基金」とは
- キャリア・生き方2024.4.24 葛藤を乗り越えた先に、見たものは。 2人のバスケットボール選手が開いた新境地
「できてない」 を 「できる」に。
知と人が集まる場所。デンソーのオウンドメディアDRIVENBASEについて トップページを見る -