サイボウズ株式会社

サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • ビジネスマネージャー
  • 企業の人事担当者
  • 経営者
  • 企業文化に興味のある人
  • サイボウズのファン
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者はサイボウズが組織の成長と社員の幸福の両立を目指す中で直面した課題と、それに対する対応策を知ることができます。サイボウズは社員の多様な働き方を尊重する『100人100通りの働き方』というスローガンを掲げていたが、社員数が1000人を超える中でその表現が誤解を生むようになったため、より実際の運用に即した『100人100通りのマッチング』に改めることを決定しました。これにより、個別の希望が必ずしも全て叶うわけではないという現実を伝える狙いがあります。また、企業の成長に伴う課題として、社歴の違いや文化の定着方法に関する認識の齟齬が挙げられており、組織としての一体感を維持するためにコミュニケーションやマネジメント方法を見直しする必要があると説明されます。特に新たに入社する社員に対し、企業理念や目的の理解を深めるための具体的な活動やリーダーシップの視点が求められています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

サイボウズは「100人100通りの働き方」をやめます。社員数1000人を超えても、成長と幸福を両立させるための挑戦

社員数が1000人を超えてから、組織的にはいろいろと「よろしくない面」が出てきました──。サイボウズ代表の青野慶久はそう打ち明けます。

かつてのサイボウズでは考えられなかった出来事が起きたり、社歴の差による考え方の違いが出てきたり。2024年には、これまで胸を張って掲げてきた、働き方に関する表現を見直す決断もしました。

このままサイボウズは、よくある大企業の1社になってしまうのか。サイボウズが変えるべきもの、守り続けるべきものとは。

他社でも同じような悩みを抱えるケースは少なくないはずです。組織が拡大するなかで、企業としての成長と、社員一人ひとりの幸福を両立し続けていくためには何が必要なのでしょうか。

サイボウズの社内大学「CAAL(カール)」卒業生の2人が青野を囲み、本音を語り合いました。

「100人100通りの“働き方”をやめる」と決めた背景

荻野
社員数が1000人を超えたいま、青野さんが組織運営において課題視していることはなんですか?
青野
人数が増え続けるなかで、組織的には「よろしくない面」も出てきたと感じています。

青野慶久 (あおの・よしひさ)。サイボウズ代表取締役社長。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年サイボウズを設立。2005年現職に就任。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など

青野
たとえば今年、人事メンバーから「これまで使ってきた『100人100通りの働き方』という表現をやめたい」という相談がありました。これに対しては会社として意志決定し、「100人100通りの働き方という表現は今後使わない」正式にアナウンスしています。
荻野
サイボウズの代名詞のように使われていた表現を廃止しましたね。
青野
背景には、新しく入社したメンバーや採用候補者から「サイボウズなら働き方を何でも自由に選べる」と、極端な解釈をされるようになってきたことがあります。

社内でも、個人的な希望を実現できることが前提のようにとらえられ、マネジャーがメンバーとのコミュニケーションに苦慮する場面が出てきました。

「わたしはこの時間、この場所で働きたい」と強く主張されても、業務内容やタイミングによってはかなえられないことがありますからね。

そこで「100人100通りのマッチング」という表現に変えたんです。

個々人に「どんな働き方をしたいのか」「それによってどんなアウトプットを出せるのか」を考えてもらい、チームから求められる役割と合致した場合にマッチングが成立します。
荻野
「マッチング」であれば、必ずしも希望がかなうわけではないという前提になると。
青野
はい。いままでもすべての希望を受け入れてきたわけではなく、本質的には何も変わっていないのですが、極端な解釈を生まない表現にするべきだと考えました。

サイボウズは普通の大企業になってしまった?

青野
最近では、「なんだか普通の大企業っぽくなってしまったなぁ」と感じる出来事も起きています。
荻野
普通の大企業……。そう感じる事例があったんですか?

荻野 亜由子(おぎの・あゆこ)サイボウズ株式会社 組織戦略室・全社戦略室 所属(兼務)。法務、人事、チームワーク総研を経て現職。サイボウズの社内大学「CAAL」の事務局として、立ち上げに奔走。卒業生が次世代リーダーとして社内を横断しながら活躍できるよう、仕組みづくりを画策中。サイボウズは不動産会社、コーチングファームを経て3社目。2児の母

青野
サイボウズではいろいろな社内イベントが動いていて、チームビルディングにつながるものであれば、会社から費用を支援しています。

ところが、「前泊を伴う」「飲食代がやたら高額」など、チームビルディング目的にしてはお金をかけすぎてしまう例も出てきました。

そんな情報も社内グループウェアで全員に共有されるため、「無駄づかいではないか」と憤りを感じている人もいます。
荻野
なぜ、そうした認識の齟齬(そご)が生まれるのでしょうか?
青野
社歴の違いによるものかもしれません。

昔からサイボウズに在籍している人は、社内制度や働き方に関する合意事項がつくられてきた交渉プロセスを見ています。だから「会社の理想を実現するため、チームの生産性に貢献するためのワガママなら通る」と体感的に理解しています。

でも、近年サイボウズに入社した人は、そうした体感を得る機会がありませんでした。
荻野
たしかにそうかもしれません。わたしは2015年入社で、当時のサイボウズ社内では、理想への共感やチームワークのあり方について盛んに議論されていました。

だけど最近はそうした機会が減りましたよね。
青野
パーパスやカルチャーが生まれていく過程を見ていた人と、それらがすでに額縁に掲げられた状態で見ている人の認識の差は大きいと思います。

額縁に飾られた言葉を見て、なんとなく受け入れている人が多い。これも普通の大企業っぽいなぁと感じます。

僕からあえて「この言葉を変えなくてもいいんですか?」とみんなに問いかけ、揺さぶりをかける必要があるのかもしれません。

企業理念さえも、必要であれば変えるべき

藤村
サイボウズは、これから変わるべきだと思いますか?
青野
僕はむしろ「“変えなくてもいいこと”はない」と考えています。社内ではよく「企業理念を石碑に刻むな」と話しています。

究極を言えば、「チームワークあふれる社会を創る」という、僕たちがずっと大切にしてきたパーパスさえも、必要であれば変えるべき。聖域はありません。
藤村
そういえば、過去のサイボウズの株主総会では、企業理念に「2020〜」といった形で年数をつけて発表していましたよね。

社員だけでなくステークホルダーに向けても、企業理念は変わるものという前提で伝えているんだと感じました。

社内のボトムアップで「変える」ことを提案するためには、何が必要なんでしょうか?

藤村 能光(ふじむら・よしみつ)。マーケティング本部 人材・組織支援部 部長。サイボウズの社内大学「CAAL」に1期生として参加し、課題やイシューワークにひーひー言いながらも、無事CAALを卒業した。その時のご縁で、全社戦略室のプロジェクトも兼務中。実はサイボウズ式の前編集長であり、サイボウズ式に出られる日が来たと思うと、感慨深い

青野
マネジメントの観点では、現場にどんどん権限を委譲していく必要がありますよね。

そのため機能ごとに「本部」を設け、本部長にさまざまな権限を委譲してきました。経営会議に僕がいない状態でも、会社としての意志決定ができるようにしたいんです。

役員や管理職のラインだけではありません。現場で一人ひとりが意思決定できる状態が理想だと思っています。
藤村
一般的には、社員数が増えると「個別のニーズを聞いていると大変だから、ルールを定めて画一的にマネジメントしよう」と考える企業が多いと思います。

サイボウズも状況としては近いですが、青野さんが画一的なマネジメントを選ばないのはなぜですか?
青野
「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスに近づけるなら、僕も画一的なマネジメントを選びますよ。だけど、それでは一人ひとりが意思決定できるようになる気がしないんです。
藤村
画一的なマネジメントではチームワークが広がらないと。
青野
はい。

僕たちが競争している相手は、Microsoft社をはじめとした、世界時価総額ランキングでトップを狙う位置にいる企業です。売上規模でいえばサイボウズの1000倍以上にもなる企業群に、世界中から超優秀な人たちが集まって、必死にビジネスを動かしています。

そんな相手に勝つにはどうすればいいのか。ほかの会社がやっていることを踏襲して、うまくいくはずがありません。

サイボウズが「その他大勢のなかの1社」になってしまったら、超優秀な人材からは一生選ばれない
でしょう。

パーパス実現への熱量を感じる、サイボウズの新たな取り組み

藤村
青野さんはこれから、サイボウズをどんな企業にしていきたいですか?
青野
聖域のない変化を求める上ではどこかのタイミングで見直すかもしれませんが、チームワークあふれる社会を創るという根本的なパーパスは、やっぱり大切にしたいですね。

チームでオープンに情報共有され、活発に議論して物事を決める。そこに貢献するツールを僕たちは提供する。世界中に普及させ、みんながチームワークを高められれば、世界そのものがよくなる。

僕自身は、この理想をこれからも追いかけたいです。
荻野
普通の大企業なら、そうしたパーパスへの思いが額縁に入れられ、ただの飾りになってしまうのかもしれません。

でも、いまのサイボウズは、人が増え、組織が大きくなってきたからこそ、「チームワークあふれる社会を創る」ことへの熱量がますます高まっているように思うんです。

わたしや藤村さんもサイボウズの社内大学「CAAL(カール)(※)」をはじめ、みんなの熱量を経営へ反映させていくための取り組みに参加しています。

※CAAL:Cybozu Academy for Ambitious Leadershipの略。サイボウズの社内大学。

荻野
CAALに参加したメンバーが、その学びをきっかけにリーダーシップを発揮するなど、課題を自分ごととしてとらえ、自発的に行動する動きが実際に生まれています。
藤村
青野さんと本部長の間だけでなく、青野さんと現場メンバーとの接点も増えていますよね。
青野
はい。
藤村
僕も、こうした場に関わるなかで、パーパスの実現に向けた熱量の高まりを強く感じています。

パーパスは上から与えられるものではなく、自分自身で実現していくもの。そんな熱量を持つ人が増えていけば、サイボウズはこれから先も少しずつ変わっていくはずです。

だから、「いまのサイボウズ」に入社した人もぜひ、こうした場を活用してほしいですね。

3000人規模になっても、会社の成長とみんなの幸福を両立できる

藤村
多様な個性を生かしていくサイボウズの姿勢は、今後も変わらないのだとわかりました。

組織規模が大きくなっても、「企業の成長」と「社員の幸福」を両立することはできるんでしょうか?
青野
理想を掲げ、多様な人たちがその実現に向けて関わり、オープンに情報共有しながら自主的に動く。こうしたカルチャーがなければ厳しいと思います。
荻野
わたしはCAALに参加して、大きなヒントをもらったように感じています。

CAALでは「強い主体性と高い視点を持つ人材を育成し、自律分散的に組織が発展していくこと」を目指しています。

そんな組織のリーダーに求められるのは、自身が「野心」を持ってメンバーに働きかける「アンビシャス・リーダーシップ」。理想への共感を生むためには、わたし自身の野心が必要なのだと学びました。
藤村
僕もCAALに参加して、最初の講座では「あなたの野心は何か」「その野心を強く持ち続けるにはどうすべきか」を問われました。これまで自分自身の野心なんて考えたこともなく、なかなか答えが出てきませんでした。

でも「野心は自分1人ではなくチームで掲げてもいい」、もっと言えば「自分以外の誰かの野心に共感してもいい」のだと学び、よい意味で肩の力が抜けたのを覚えています。

リーダーシップって、特定の「強い誰か」だけのものではないんですよね。そう理解してからは、メンバーの野心も知りたいと思うようになりました。
青野
リーダーがメンバーの野心に興味を持ち、それを引き出したり、共感したりできるようになれば、みんなの幸福度が高まっていくはず。そして会社の成長にもつながるはずです。

サイボウズにはまだまだ課題がたくさんあるものの、僕は変化の手応えも感じていますよ。少なくとも3000人くらいの規模までは、会社の成長とみんなの幸福を両立できるイメージが湧いています。

過去には、ある大企業トップから「サイボウズのカルチャーや働き方は数百人規模だから成り立つのでは?」と言われ、カチンときたこともあるんです(笑)。

そのときに抱いた反骨心は忘れていません。もっともっと規模が大きくなっても、このカルチャーと働き方を実現できるのだと証明したい。3000人になっても時代に合わせて変化し、結果を出し続けるサイボウズは、日本に前例のない大企業となっているはずです。

企画・編集:深水麻初、竹内義晴/執筆:多田慎介/撮影:加藤甫

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執筆

ライター

多田 慎介

1983年、石川県金沢市生まれ。求人広告代理店、編集プロダクションを経て2015年よりフリーランス。個人の働き方やキャリア形成、教育、企業の採用コンテンツなど、いろいろなテーマで執筆中。

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撮影・イラスト

写真家

加藤 甫

独立前より日本各地のプロジェクトの撮影を住み込みで行う。現在は様々な媒体での撮影の他、アートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスなど中長期的なプロジェクトに企画段階から伴走する撮影を数多く担当している。

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編集

編集部

深水麻初

2021年にサイボウズへ新卒入社。マーケティング本部ブランディング部所属。大学では社会学を専攻。女性向けコンテンツを中心に、サイボウズ式の企画・編集を担当。趣味はサウナ。

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