世界初の産出に成功したメタンハイドレート──そのチームとコラボ術
-
-
- 科学技術に関心のある一般読者
- エネルギー資源開発に興味を持つ研究者
- 日本の経済とエネルギー政策に関心のある政策立案者
- 技術系ニュースの愛好者
-
-
この記事を通じて得られる知識は、日本がメタンハイドレートの海洋産出試験に成功したことを中心とし、このプロジェクトがどのように進行しているかに関する詳細な情報です。メタンハイドレートとは、「温度が低く圧力が高い」環境で、メタンと水が結びついてできる固体物質で、海底深くや永久凍土の下に存在することが判明しています。特に、この記事では、日本の近海で、メタンハイドレートがどのくらい存在しているのか、またそれがどのようにしてガスとして取り出されるのかについて焦点があてられています。コンソーシアムは、政府の政策に基づき、多数の機関が連携してメタンハイドレートの開発計画を推進しており、その活動の様子が詳しく紹介されています。このプロジェクトはまだ開発段階であり、実用化されるまでには時間がかかりますが、今回は大きな技術的進歩を遂げたことが強調されています。また、メタンハイドレートを資源として利用することが日本の経済と環境に与える影響についての考察もなされています。
-
-
あのチームのコラボ術
世界初の産出に成功したメタンハイドレート──そのチームとコラボ術
世の中で話題になっているトピックとその“チーム”にフォーカスする本コーナー。「世界初」のメタンハイドレートの海洋産出に成功したメタンハイドレート資源開発コンソーシアムに話を聞きました。メタンハイドレートの研究は1990年代に始まり、官民学共同の機関として2001年にコンソーシアムが組織されました。18年に及ぶメタンハイドレートの開発計画は3段階に分かれており、現在はフェーズ2です。
コンソーシアムの推進グループのリーダー磯部人志氏と環境チームのリーダー中塚善博氏に、"日本での資源開発"という高い目標の実現に向けて、日々誰がどんな活動をしているのかを聞きました。
これが実際の「メタンハイドレート」。この砂層の隙間にメタンハイドレートが詰まっています。 (出典:メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム)
日本がリードしているメタンハイドレート開発
現在はメタンハイドレートの開発計画における「フェーズ2」ということですが、ここではどんな成果が出れば成功なのですか?
(※取材は2月。現在は生産試験は終了し成功しました)椋田
今回の海洋産出試験が、海で行う初めての試験になります。「本当にガスが出ますよね?」という確認と、今後の研究につなげるためのデータの採取がメインの目的です。それが安全に確実にできれば、第1ステップはクリアかなと。
フェーズ2の中ではもう一度、海洋産出試験を予定しているので、そこでは第一回目より長く試験を実施したいという流れでやっています。ただし、1回目の試験の結果次第なのですが。海での試験が初めてということですが、メタンハイドレートはもともと海にあるものではないのですか?
椋田
メタンハイドレート自体は「温度が低いところ・圧力が高いところ」ならば、存在する可能性があります。そこにはメタンガスと水があるということが必然なんですけど。そうすると、その条件を満たしている場所が、海だと深度が500mよりも深いところになります。またそれ以外だと、陸上の永久凍土があります。そういうところであれば「温度が低く圧力が高い」という環境ができるので、メタンハイドレートが存在する可能性があるんです。フェーズ1の中では、カナダ北部の永久凍土があるところで陸上産出実験を2度やっています。最初は今の「減圧法」ではなくて、熱を加えて分解してみました。そのときは一応出てきたのですが、すごく少ない量しか採れなくて…。
幕張にある(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構にてインタビューに答えてくれた磯部氏(右)と中塚氏(左)。取材は2月でメンバー全員が海洋産出を見守っていた時期でした
メタンハイドレートからガスを採取したのは、それが初めてでした。メタンハイドレートのサンプル採取を目的とした調査は、以前からやっていました。ただ、それだけでは資源になりません。ガス化して地下から出した方がいいとなり、陸上産出試験をやりました。メタンハイドレートを分解するには、「温度を上げるか、圧力を下げるか」をすればいいことはわかっていましたから、「お湯を入れれば温度が上がって、メタンハイドレートが溶けてガスが出るよね」ということで加熱法をやってみたんですね。でも少ししか採れなかった。そこで2回目は、圧力を下げる減圧法で試してみたんです。
メタンハイドレートは日本の近海にどれくらいあるのでしょうか。
椋田
全部調べきれていないのですが、我々が調査した東部南海トラフでは、2011年度のLNG(天然ガス)の輸入量の11年分くらいと予測しています。ただし、これは埋蔵量ではありません。原始資源量と言って、その場所に存在するメタンハイドレートの中に存在するメタンの量になります。
メタンハイドレートって、岩のように塊であるものではないんですか?
椋田
そういうものもあります。ただ、その塊をどうやってガスにすればいいのかはわかっていません。それよりは、地層の中の砂粒と砂粒の隙間に入っているメタンハイドレートからメタンガスを取り出す方が簡単なんですね。
その方が余計に取り出すのが難しそうなのですが…。
椋田
石油とか天然ガスって、そういう砂の中に入っているんですよ。
ええ!? そうなんですか?!
椋田
地下に石油や天然ガスのプールがあるわけじゃないんです(笑。)もっと簡単なイメージで言えば、スポンジに水を吸わせたようなものと思ってもらえるとわかりやすいかな。
この図の通りに地下に資源が存在するものだと思っていました。(こういう図を学校で習ったような…)
石油や天然ガスと大きく違うのは、石油や天然ガスは自噴と言って井戸を掘ると自然に噴出してくれるのに対し、メタンハイドレートの場合、人工的に熱を加えるか圧力を下げてやらないと、ただ掘っただけでは何もなりません。
昔はメタンハイドレートは、天然ガスの輸送パイプラインを詰まらせてしまう"邪魔者"でしかなかったんです。それが資源になってくれるのであれば、とてもありがたいことですよね。
メタンハイドレートの採掘が温暖化にもつながるんですか?
椋田
メタンガス自体は温室効果ガスなので、大気中に解放されれば当然地球温暖化につながりますが、メタンハイドレートがあるのは海底より下の比較的温度も圧力も安定した環境です。海へ出て掘ったからすぐに生産できるものではないんです。石油や天然ガスのように液体や気体だったらまだしも、メタンハイドレートは固体ですしね。温暖化につながる可能性は低いと考えます。
メタンハイドレートを鉱物としてそのまま地上へ持って上がってくるわけではないんですよね?
椋田
メタンハイドレートの塊をそのまま持ってくると気化して、温暖化になってしまいます。とはいえ、そのまま持って上がる技術もまだ分かっていないのですがね…。地下でガスと水に分解できれば、天然ガスと同じ設備が使えるようになるので、扱いやすくなって、早く実用化できると考えています。
コンソーシアムの活動
メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムの成り立ちについて教えてください。
椋田
我々の仕事は、経済産業省で平成13年に発表されている「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」に基づいて、国から委託を受けて動いています。今は私たちJOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と産総研(独立行政法人 産業技術総合研究所)が共同でコンソーシアムを構成しています。
メタンハイドレートの研究はいつから行われていたのでしょうか?
椋田
JOGMECの前身である石油公団と民間10社が協力して、1995年からメタンハイドレートの研究をしてきました。
それとは別に行われていた基礎試錐(国が行う石油・天然ガス資源探鉱促進のための基礎調査)でメタンハイドレートのサンプルが採れました。そういう2つの背景があったので、2002年3月の終わりに石油公団と産総研とエンジニアリング振興協会でコンソーシアムを組むことになりました。
コンソーシアムの体制図(出典:メタンハイドレート資源開発 研究コンソーシアム)
コンソーシアムの人数は?
椋田
コンソーシアムだけで大雑把に言うと約70名くらいですかね。ただ、携わっているという意味では、委託先などもいますので、ものすごく多いです。
コンソーシアムの組織体制について教えていただけますか?
椋田
コンソーシアムの中には4つのグループがあって、JOGMECでやっているのは、「フィールド開発技術」「資源量評価」「推進」の3グループとなります。今ニュースで話題になっている、海に出て仕事をする海洋産出試験は「フィールド開発技術グループ」がしています。
資源量評価グループは、メタンハイドレートが近海にどれくらいあるのかを、データを使いながら調べていくところです。
推進グループは全体の統括的な役割といったところで、広報もそうですし、それ以外の運営全般に携わっています。推進グループの下には、私がチームリーダーをやらせていただいている「環境チーム」があり、全体を横断的に見ながら、環境への影響や懸念材料を拾ってきてモニタリングするといったことをやっています。
産総研が担当している「生産手法開発グループ」は、メタンハイドレートの生産手法としてどういったものがいいのか、実験やコアの分析をやりながら、基礎的な部分を固めています今話したのは各グループがメインで進める作業で、ほかにも調査・研究をしています。生産試験現場と、その情報共有の仕方
海で生産試験を実施している「フィールド開発グループ」はどんな方々の集まりなんですか?
椋田
資源開発や地質学、物理学などを専門として、石油や天然ガスの開発をやっている人たちです。
現場ではどれくらいの人が働いているんですか?
椋田
コンソーシアムの人間だけではなくて、船員さん、研究員、技術スタッフなどもいますので、190人くらいが働いています。そのうち半分くらいは外国人じゃないですかね。日本では石油が採れないので、コントラクターと呼ばれる作業請負業者が少ないんですよ。なので外国の石油開発会社のコントラクターの方や関係者の方が多く乗って共同作業をしています。
海洋生産試験の様子。国内外問わず専門家がチームを組んで試験に挑んでいます。 (出典:JOGMEC)
海上にいるメンバーとの情報共有はどうされているのですか?
椋田
毎日時間を決めて電話会議をしています。
コンソーシアム内の各グループ間ではどのように情報を共有しているんですか?
椋田
基本的には会議ですね。各グループで少なくとも月1回開きます。四半期に一度は各グループ持ち回りで技術連絡会というのをやっています。
各グループが「今どんな研究をやっていますよ」「こんな成果が出てきましたよ」といったことを報告する場所を用意しています。必要に応じて個別の会議を頻繁にしていますし、現場の方を除いた人数は70名ほどなので風通しも良く、各グループ間を行き来しながら、情報交換をしていますね。
デスクネッツというグループウェアを使って、各組織間での情報の共有を可能にしています。
海洋産出試験のために使われた世界最高の掘削能力を持つ探査船「ちきゅう」(JAMSTEC所有)(出典:JOGMEC)
今後の活動
実用化まではまだ時間がかかりますか?
椋田
まだまだ先ですね。
2018年までに「技術基盤の整備」をしてその後、民間企業が本当に経済性があるかを検討します。何本か掘ってみていけそうだと思ったら施設を作るので、ここからまだ随分かかるはずです。
資源国になるかもしれないのですね。メタンハイドレートの研究には相応の価値がありそうです。
椋田
何よりも日本の経済水域内にある。それが一番大きいですよね。