サイボウズ株式会社

ボブスレーから航空産業──大田区全体を巻き込んだ下町ボブスレープロジェクト

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 地方の中小企業経営者
  • ボブスレーやスポーツプロジェクトに関心のある人
  • 地域活性化を目指すビジネスマン
  • 日本の製造業に興味がある学生
  • 航空業界参入を検討している企業
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者は下町ボブスレープロジェクトがどのように地域の中小企業を巻き込みながら進められているのかを理解できる。プロジェクトのリーダーである細貝淳一氏は、各参加企業のトップを平等に扱いながら、プロジェクトを統率するためにどのようなリーダーシップを取っているかについて説明している。また、プロジェクトの進行に伴い、メンバー間の結束力がどのように高まってきたか、具体的なメディア露出や取材を通じて認知度が上昇している状況も詳述されている。さらに、プロジェクトがボブスレーのオリンピック出場を目指す過程で直面する課題、例えば競技人口の少なさや資金調達の困難さについても触れられており、それに対する具体的な対応策も紹介されている。また、最終的には下町ボブスレーの技術を活かして航空機産業への参入を目指しているという目標も示されている。このプロジェクトが地域全体に与える影響や、日本の町工場が世界市場に対して持つ可能性についての洞察が得られる。

Text AI要約の元文章

あのチームのコラボ術

ボブスレーから航空産業──大田区全体を巻き込んだ下町ボブスレープロジェクト

世の中で話題のトピックと、その中心にいる“チーム”に焦点を当てる「あのチームのコラボ術」。前回に引き続き、2014年ロシア・ソチ五輪に熱い思いをかける「下町ボブスレーネットワークプロジェクト(以下、下町ボブスレー)」を取材。

下町ボブスレーが開発したマシンが国際大会で走行し、オリンピック出場に向け大きく前進しました。後編は、プロジェクトが進むなかでメンバーにどんな変化が起きたか、また地域を巻き込むパワーの源を探ります。

チーム発足人 株式会社マテリアルの細貝淳一社長と株式会社ソフトウェアクレイドルの吉川淳一郎課長に聞きます。

社長が集まったプロジェクト 上下関係はつけず「平たく」

下町ボブスレーがメディアで紹介される機会が増えていると思うのですが、プロジェクト開始時に比べ、メンバーの意識に何か変化は現れていますか?

椋田

良い形で現れています。今は、月に20件ほど取材を受けているので、露出する機会がうんと増えました。確実に「下町ボブスレー」の認知度が上がってきています。このプロジェクトには色々な会社がかかわっていますが、メディアでの紹介ごとに、「僕たちのボブスレー」とチームの結束力が高まっていることを感じますし、雰囲気も良くなっています。世界を水準にする姿勢が、「自分たちは国内のパイオニアである」と強く意識させ、良い雰囲気を作っているのかもしれないですね。このプロジェクトは日本語の図面もないところからのスタートですから、成功させるためにはチーム力が絶対不可欠です。もちろん課題もたくさんありますが、今のところ7割はうまくいっていると思います。

細貝さんはリーダーとして、どんな風にチームをまとめているんでしょう?

椋田

難しいのが、1つではなく色々な会社がかかわっていること、つまり他社の社長や役員をチームの一員としてまとめなくてはいけないことなんです。日頃は会社のトップに立っている人が、プロジェクトに参加すれば、必然的に「一番上」ではなくなります。私は、社長も役員も社員も関係なく「みんな、縁の下の力持ちなんだよ」と、同じメンバーとして「平たく」扱うことを心がけています。トップダウンでやったところで、いい結果は生まれるはずがありません。特に経営者はそれぞれ「こうしたらこうなるんだ」という原理原則を持っていますからね。これをまとめるのは大変ですよ。

確かに、皆さんこれまでの経営人生の中で導きだした持論があるでしょうから、それを1つにまとめるのは大変そうですね…。どのように解消されているんですか?

椋田

まずは私がしっかりリーダーシップを発揮することです。こういう新規プロジェクトは、創世記が一番大変です。任務を遂行する力と、外部からのプレッシャーに耐える力が必要だからです。自分の会社経営がある中で、そこを担える人はなかなかいないですよね。だから私が率先して、このポジションに立っているんです。まずリーダーとしてのポジションを確立し、かかわっている全員を対等に扱い、適正を見極めて役割分担していきます。

適正を見極める方法とは?

椋田

グループディスカッションを数ヶ月繰り返していくと、メンバーの得意、不得意が見えてきます。発言回数が多く実行力のある人は、プロジェクトを引っ張って行く力があるでしょうから、そういう人を各セクションの委員長に任命します。こういうプロジェクトは下の世代に盛り上げてもらう必要があるので、委員長には社長クラスの方だけじゃなく、いろいろな世代の人がなれるようにしています。私自身のポジションも、無事ソチ五輪出場を果たしたら、別の方にバトンタッチする予定です。

各町工場の社長が集まるミーティングの様子。

マシン製造だけではない 大田区全体の取り組みへ

五輪出場の可能性はどれくらいでしょうか?

椋田

正直に言うと、今のままではやや微妙なところではあります……。

え、それはどうしてですか?

椋田

日本代表チームの公式マシンとしてオリンピックに出るためには、マシンそのものがマテリアルチェックというテストをクリアすることと、日本代表チームが出場することの2つの問題をクリアしなければいけません。日本代表チームがオリンピック出場権を得るためには、国際大会で走りポイントを稼ぐ必要があります。しかし、莫大な遠征費がかかるわけです。ボブスレー協会自体が資金的に苦しいこともあり、遠征の数をこなすためには寄付金を集めなくてはいけないんです。

ボブスレーをアメリカに持って行くだけでも、往復で130万円かかりますからね。

そんなにかかるんですか…!!

椋田

はい、ですから下町ボブスレーでは、寄付金を集める活動もしています。仮に作ったマシンがマテリアルチェックをクリアしても、日本代表チームが必ず使ってくれる保証はありません。資金面も含めた支援をし、ともにオリンピック出場を目指すことで、使ってもらう機会を広げる必要があります。民間企業だからこその「横のつながり」を駆使し、寄付金集めをがんばっているところです。

日本のボブスレー界が抱えている課題はほかにもありますか?

椋田

競技人口が圧倒的に少ないことですね。競技人口が少ないということは、有力な選手が生まれにくく、世界で戦うための体力に欠けるということです。ボブスレーの知名度をあげ、選手集めをしなくてはいけません。そこで私たちは、潜在的な力を持った選手を発掘するため、大田区の都立高校でトライアルをしました。違うスポーツをしている選手にも呼びかけたところ、アメフトや陸上の現役選手も参加してくれて。トライアウトに合格した選手は強化合宿へと進むんですが、この合宿も大田区で行います。

大田区全体を巻き込んだ地域プロジェクトへと、進化を遂げているわけですね!

椋田

はい、マスコミも多く取材にきてくれたので、より一層下町ボブスレーの活動に注目が集まったのではないかと思います。

ボブスレーから航空産業へ 「世界の大田区」を目指す

当面の目標は日本代表チームの公式マシンとなり、ソチ五輪に出場することだと思いますが、最終的な目標はどうなんでしょう?

椋田

まずはソチ五輪に出場し、優勝すること。これは絶対やり遂げないといけないですね。最終的には、大田区の町工場がこんな技術力を持っているので、航空機産業に参入できますということをアピールしたいと考えています。

やはり、航空機産業への参入も目指していかれるんですね。

椋田

ええ、航空機の市場はとても大きいですし、大田区には世界に部品提供できる会社が4000社もあります。それに、大田区から羽田は近いですしね。地域を巻き込んだプロジェクトとして取り組んで行く予定です。

もう準備はされているんですか?

椋田

はい、しています。航空機を作るためには、「JISQ9100」という品質マネジメントの認証を取得する必要があるため、まずこのライセンスを取りました。これがあると、航空・宇宙・防衛産業界における、品質マネジメントシステムの国際的な認証を得たものとして取り扱われることになります。

ボブスレーは浮かせる技術が必要なので、航空機関連の企業が参入しやすいんです。NASAが手がけているボブスレーがあるのがいい例ですね。私たちもボブスレーで培った技術は、航空機産業に参入したときに必ず生かせるはずだと思っています。

航空機を作りたいという目標からスタートした、下町ボブスレー。まずはソチ五輪出場を果たすためチーム一丸となっていますが、その先には念願の航空機産業への参入という次なる目標があり、そこに向けた準備も着々と進んでいます。地域発世界を目指す一大プロジェクトが、どんな成長を遂げるのか。そして、大田区が世界で通用する「モノづくりのシリコンバレー」となる日はくるのか。同じ日本人として、経過を応援したいと思います! (写真撮影:橋本 直己

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撮影・イラスト

写真家

橋本 直己

フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。

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