橋本 直己
フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。
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この記事を読むことで、ロフトワークが運営するFabCafeにおける運営方法やツールの活用法について理解することができる。FabCafeは、日本初のレーザーカッターを主役にしたものづくりカフェで、多くの一流クリエイターや企業とのコラボレーションを行っている。そこでは、経営層からアルバイトスタッフまで、情報を細かく共有し合い、一致団結している姿が見える。
具体的には、経営に関わるチームはGoogle ドキュメントやdoを利用し、イベント等の運営に使われている。アルバイトスタッフとのコミュニケーションには、Facebookグループを活用している。これにより、カジュアルなやり取りや「確認済み」の意思表示を効率的に行っている。
また、FabCafeでは製作物が30分程度で生まれるという短いサイクルの中で、迅速に新しいアイディアを試すことができる環境が整っている。これが建築業界から移ってきた岩岡氏の心を掴んだ理由だ。シフトはGoogle ドキュメントで管理しているほか、退勤管理にはclock spotというツールを使用している。
海外への展開も視野に入れており、特に台北への進出を目指している。モノづくりを通じたネットワーク形成やコミュニティの場としての機能を強化することが目標であり、これを達成するために、これまで以上にイベントの頻度を増やし、より多くの人々にFabCafeを訪れてもらうことを目指している。
あのチームのコラボ術
あのチームは、どんなツールを使って、どんな風に仕事をしているんだろう?」を探る本コーナー。今回は、最近気になっている"あの"会社の"あの"チームにお話を伺います! 今回は「クリエイティブの流通」をミッションに掲げる企業「ロフトワーク」が運営する「FabCafe」です。
今年3月のオープン以来、日本初のレーザーカッターが主役のものづくりカフェとして、モノづくりファンが集う場としての認知を一気に獲得しました。 多くの一流クリエイター、モノづくりに共感する企業とのコラボにより常に話題の絶えないFabCafeの裏には、デジタルツールを見事に使いこなし、経営層からアルバイトスタッフまで一致団結するチームの努力が。
FabCafe全体の運営責任者である川井敏昌さん(左)、カフェの運営担当の松田龍太さん(中)、そしてモノづくりの場であるFabの運営担当の岩岡孝太郎さん(右)。FabCafeを支える三連星の皆さんです。
全体を統括されている川井さんの業務は多岐に渡ると思うのですが、主にどのようなお仕事をされているんですか?
大槻
FabCafe事業の目標を設定し、その目標を達成すべくレーザーカッターをはじめ様々なデジタル工作機械を備えるFabとカフェの、現場スタッフを指揮しています。
FabCafeを立ち上げることになったきっかけは?
大槻
モノづくりの場であるFabを担当している岩岡が、市民制作工房であるFablabの活動に関わっていて、ロフトワークとコラボレーションイベントをしたことがきっかけでした。その後、ロフトワークへFabCafe構想の提案を行い、携わることになりました。
FabCafeは写真手前のレーザーカッターが置かれたモノづくりスペース"Fab"と写真奥のカフェスペースで構成されている
川井さん自身、FabCafeのコンセプトにすぐに"ビビっ"ときたんですね。
大槻
はい。ロフトワークに転職する前は、広告会社でクリエイターのハブになるような仕事をしていたんです。ただ、広告畑の中でもずっとデジタル領域の仕事をしていたのですが、"ユーザーはもっとリアルな体験を求めているんじゃないか?"ということを感じていました。
当時の仕事は"リアル"とは対極的なものだったと。
大槻
その反動ということもあるでしょうね。クリエイターをつなぐインフラに携わる仕事をしたいという想いも強くありました。
岩岡さん、松田さんはどのようなお仕事をされていますか?
大槻
FabCafeの中でもモノづくりを体験してもらうFabの方で、各種メディアやクリエイターなど外部のコラボレーターと一緒に、どんな体験を提供するかの企画・実行を担当しています。
私はFabCafeの中でもカフェの運営全般を担当しています。
先ほど川井さんからFabCafe立ち上げのきっかけに岩岡さんが関わられていると伺いましたが、岩岡さんはもともとモノづくりに携わられていたんですか?
大槻
大学卒業後に入った会社では住宅やビルの建築設計に携わる仕事をしていました。しかし建築の仕事だと、竣工までに早くても1年、長いと15年くらいかかるじゃないですか。ということは残りの人生で2~3回くらいしかモノづくりができない。FabCafeで仕事をしていると、"みんなで話し合ったものが形になって生まれていく"サイクルが30分単位くらいの、建築設計ではありえないような短い周期でやってくるんです。それが面白かったので、FabCafeに携わることに決めました。
モノづくりの場であるFabの運営を担当されている岩岡さん
話は戻りますが、冒頭でおっしゃっていたFabCafe の事業目標とはなんですか?
大槻
大きく2つあります。1つは「より多くのひとにモノづくりを体験してもらうこと」。もう1つは「モノづくりを通じて、ひととひとのネットワークを広げるコミュニティの場になること」です。そのためにカフェ、イベント、Fabという3本柱でやっています。
FabCafe事業の責任者である川井さん。FMラジオのパーソナリティをされてそうなお顔立ちですが、念のため名刺を確認したところFabCafeのCOOと明記されていたので違うようです。
対象は個人のみですか?
大槻
企業とのコラボレーションにも力を入れています。EMI Music JapanさんはFabCafeでファンイベントを開催されました。前回までは会社の会議室でやっていたそうですが、それではカジュアルにならないという課題感をお持ちでした。
うーん、カジュアルになりにくそうですね・・
大槻
ですよね(笑)ということで、FabCafeでファンとモノづくりを体験できるイベントを実施し盛り上げました。また先日は、世界最大のハンドメイドの品物を売り買いできるマーケットプレイスEtsyとのコラボレーションイベント、またLinkedInの社内向けイベントもこのカフェで行われました。ウィンドウの飾り付けといった空間のデザイン、配布されたノートなどアイテムの企画、カフェで出すデザートやカクテルなどメニューの開発を通じて、企業とFabCafeの魅力を組み合わせる演出を提案しています。
なんだかグローバルですね。
大槻
もちろん東京というローカルに根付いた企画もやっています。DIWO Lab.というイベントでは、一流のクリエイターがいま取り組んでいるモノづくりとFabCafeを使った実験的モノづくりに関するトークセッションを連続して開催しています。これは東京都とのコラボレーションイベントです。
abCafeのWebサイトより。様々なパーティーが行われているそうです。
サイボウズでも何かイベントをやってみたくなってきました(笑)
大槻
カフェ全体の経営にイベントの企画運営にと業務が多岐に渡りますが、関わるひとも増えてくる中で、どのようなツールを利用してコミュニケーションされていますか?
大槻
経営に関わるチームでは、ドキュメントはGoogle ドキュメント、それ以外のやりとりはdoで行っています。カフェのアルバイトスタッフとはFacebookグループでコミュニケーションを取っています。
タスク管理に特化したサービスを使われているんですね。
大槻
これまで私が携わっていた広告やロフトワークでの仕事はスパンが長い仕事が多かったのですが、FabCafeは数週間、数日単位で区切れる細切れな仕事が多いんです。それに一人で完結する仕事も多い。だからタスクの一覧性が高いdoは使いやすいですね。
「もっと使い勝手の良いツールを探してるんです」と語る川井さん。
※ちなみにロフトワークさんではWeb制作プロジェクトでサイボウズの「デヂエ」をかなりヘビーにご活用頂いているのですが、FabCafeでは「メニューの英語表記対応」が必要とのことで残念ながらご活用頂けていないそうです。
カフェのアルバイトスタッフとはFacebookグループでのやり取りなんですね。ちなみに、アルバイトスタッフの方々も岩岡さんのようにものづくりに携わられていたんですか?
大槻
はい、そういう方が多いですね。私と同じように建築を学んでいるひともいれば、ファッションデザインを学んでいるひともいます。人数としてはいま13名います。
Facebookグループでのコミュニケーションはいかがですか?
大槻
カジュアルなコミュニケーションには良いです。また、チームではFacebookへの投稿に対して「いいね!」をすることで「確認済みです」という意思表示をしたことにしているので、管理の手間も省けています。
でもドキュメンテーションの管理には弱いですね。
FabCafeのfacebookグループの様子。活発に投稿されています。
あと、基本的にアルバイトスタッフはパソコンを使う機会がないので、スマートフォンをはじめいろんなデバイスでアクセスできるということが重要でした。また、スマートフォンにプッシュでアラートが届くのはありがたいですね。
カフェのスタッフも同じです。連絡事項が非常に多くなるので、タスクを忘れないようにプッシュ機能のあるFacebookグループでコミュニケーションを図っています。ただ、Facebookだと情報が流れていってしまうので、ノートに書いてメモしておくようなアナログな手段と使い分けています。
シフトはどのように管理しているんですか?
大槻
Google ドキュメントのスプレッドシートでそれぞれ入力してもらって共有するようにしています。
Fabと同じぐらい重要な、カフェの運営を担当されている松田さん
ほかの飲食店でアルバイトしていた方からは「Google ドキュメントなんて使ったことないですよ。さすがロフトワークですね」と言われることもあります(笑)
退勤管理もclock spotというツールを使っています。お店のネットワークに入った端末でログインして、チェックイン・チェックアウトで管理するようにしています。日本語対応していないとか、祝日対応していない、あと集計が大変とか難点はありますが(笑)
たまにチェックインし忘れるとかもありますが(笑)
ツールの利用についていうと、Fabでは「一日何人が、どんなものをFabで作ったのか」「どんな素材を使うと、どれぐらい時間がかかるのか」など現場からの細かいフィードバックは、すべてGoogle ドキュメントに入力し、紙に出力して共有するようにしています。またそこから得られたノウハウはGoogle Siteにまとめて共有しています。
Facebookグループでアルバイトスタッフから上がってきたフィードバックがそこに反映されるんですか?
大槻
はい。おかげでノウハウが14章立てぐらいの、ちょっとした論文程度の分量になってきました(笑)
FabCafeのGoogle Siteの画面。コラボレーションがうまいチームは、このような「フロー」コミュニケーションからノウハウを抽出してストック化する作業をしっかり行っていることが多いですね。
へえ!それは投稿し甲斐がありますね。アルバイトスタッフの参加度は高いですか?
大槻
最初はお尻を叩いている感がありましたけど、いまは自主的に「今日はこんなことあったよ」とかを共有してくれて、ほかのひとも反応してくれるようになりました。
最初はお尻を叩きすぎて、岩岡の投稿が一日10件ぐらいありましたね(笑)
やっぱりみんな一人一人作りたいものがあるので、バイトがない日にお店に来たり、営業時間後に時間を取ってモノづくりしていますね。それをブログで発信したり、スタッフとして後日お客さんにストーリーとして語ったりしています。
カフェのスタッフとFabのスタッフが一緒に作ったりすることもありますよ。カフェの女の子が「なにか作りたい」というときは、Fabの男性スタッフが手伝ったりもしています。カフェもFabもできるだけボーダーレスでやるのが理想ですね。
事業としてはどれぐらい先まで見据えていますか?
大槻
実はいま海外進出を考えていて、それは半年から一年先までを見据えています。最初の候補地は台湾の台北です。
海外でモノづくりに取り組んでいるFabコミュニティともつながっていきたいです。「台北ではこんなもの作れたよ」「渋谷ではこんなもの作れたぜ」「そっちのデザインいいね!こっちでも作ってみるよ」なんて、情報だけではなくスペースやツールがあるからこその交流を図っていきたいですね。そうやって、お互い刺激しあっていけたらと思います。
特にここと一緒にやりたい!という国はあるんですか?
大槻
個人的にはドイツですかね。まだ訪れたことのない国ですが、モノを洗練させていくクラフトマンシップに長けている国だと思っているので。職人的なFabで競い合ってみたいですね。
松田さんはいかがですか?
大槻
カフェとしての存在も確立して、ふらっと入ってモノづくりに触れるきっかけを作れたらと思います。そのためにもおいしいコーヒーなど、味やサービスの質を上げていきたいです。
オープンしてからこれまでの半年で15,000人の方がカフェに来店され、1,000人がFabを体験されました。これからもイベントの頻度を上げ、より多くのひとに来てもらえるようにしたいですね。
社内イベントでのハプニングを愉快にお話頂くお三方。楽しく活動するチームの雰囲気が強く伝わってくる取材でした。ありがとうございました!
(写真:橋本 直己)
■取材時に、あーみんがfabのレーザーカッターを使ってボウズマンのイラストを入れたiPadを制作!なんとこの「ボウズPad」をプレゼントします。*プレゼントの応募は終了しました。
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フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。
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