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「無一文の億万長者」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(6)

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 技術者
  • プログラマー
  • ハッカー文化に興味がある人
  • ビジネスに関心がある人
  • チャック・フィーニーに興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事では、山中淳彦さんが「無一文の億万長者」という本を技術者やハッカー文化に関心がある人々にお勧めしている。これには、チャック・フィーニーという人物が、DFS(Duty Free Shoppers)を創業し、大きな財産を築いたものの、その全てを匿名で寄付した彼の活動が記されている点にある。フィーニーのビジネス上の成功や寄付の方法が、ハッカー的な発想であることが強調されている。技術的な観点から見ると、既存のルールを再構築し、工夫によって価値を最大化する手法としてフィーニーのアプローチが参考になると述べられている。さらに、記事では彼の寄付活動がどのように実施されて価値を生み出し続けているか、という点も興味深いとされている。また、60〜70年代の日本人の消費行動が背景に描かれており、過去の日本の高度経済成長期の文化も垣間見ることができる。フィーニーの人生とアプローチは、ビジネス書としての側面を持ちつつ、技術者が自身のプロジェクトや開発に応用できる考え方を提示している。

Text AI要約の元文章

tech

「無一文の億万長者」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(6)

tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の第6回は、山中 淳彦さんです。山中さんは、XサーバやSSH2、ZlibなどをPure Javaで開発し、Java界隈では、知る人ぞ知る存在。初めてお会いしたのは、私が審査委員をしていた、ターボリナックス社(当時)主催のプログラミングコンテストでした。(編集部・風穴)

文:山中 淳彦

いきなりですが、本やギリシャ彫刻をかたどったブランデーのビンが、実家の倉庫で埃をかぶっていたりしませんか?

子供のころ、商社マンだった父が海外出張のたびに変な形のビンを買ってきて、子供心に何なんだろうって、ずっと疑問だったんですが、本書を読んで「そうだったんだ!」って、胸のつかえが取れました。

無一文の億万長者
コナー・オクレリー

翻訳:山形浩生/守岡桜
出版社:ダイヤモンド社
ISBN:978-4478005613
定価:2100円(税込)
発売日:2009年2月
判型:四六判
ページ数:432ページ
(表紙画像は、ダイヤモンド社の許諾を得て掲載しています。許諾のない利用はできません)

「無一文の億万長者」

「意外な一冊を」というオファーで、最初に思い浮かんだのが本書でした。億万長者なのに無一文って意外ですよね? よくわかりませんよね? 原題は「The Billionaire Who Wasn't: How Chuck Feeney Secretly Made and Gave Away a Fortune」となっていて、もう少しわかりやすいですね。

本書は、DFS(Duty Free Shoppers)という免税店を創業し、密かに巨万の富を築いて、最終的にそのすべてを寄付してしまった、チャック・フィーニー(Charles F. "Chuck" Feeney)の半生記です。

で、techな人にどんなところがお勧めかというと、チャック・フィーニーの活動すべてがhackなんです。たぶん、hacker(もちろん、正しい意味での)ですこの人。免税を扱うビジネス自体は、それ以前からあったもので、実際フィーニーも地中海方面でバイトして仕事を覚えるのですが、縁があって、活動の拠点をアジアに移してから、凄まじい勢いで事業を拡大していきます。

折しも、日本の高度経済成長期で鴨ネギ状態。群れをなしてやって来る日本の海外旅行客を一網打尽。いろいろ工夫して、競合他社を出し抜いて、利益を総取り。さらに、利益を最大化するために、リゾート開発もやってしまいます。あの時代、あの瞬間、鴨ネギ状態の日本人旅行客に遭遇したら、同じように誰でも成功できたかというと、そんなことはなくて、フィーニーのhacker気質、決められたルールの中で徹底的に工夫して、ブレーキが壊れた感じで徹底的にやってしまう、ルールが窮屈になってきたら自分でルールを拡張していく、そういう気質があって成功したのではないでしょうか?

さらに、本書の後半、膨大な資産を匿名で寄付していくのですが、そこにも遺憾なく氏のhacker気質が発揮されます。

一銭も無駄に寄付したくないとの考えから、寄付の価値が最大化するように、いろいろ工夫するのですが、やりすぎて、寄付が価値をどんどん生んでしまって、さらに資産が増えてしまいます。匿名による寄付を選んだのも、氏が本当に名声に頓着しない人だったということもありますが、投資的寄付の効果を最大化するための当然の帰結だったのでしょう。氏にとっては。

冒頭の話に戻りますが、60年代、70年代の空気を吸ったことがある日本人にもお勧めできると思います。本書に登場する日本人は、まさに「鴨ネギ」であまり良くは描写されていません。ビンの形をちょっと変えて、ナポレオンのラベルを貼っただけで、当時無名の「カミュ・コニヤック」をダース買いしていく様は、まさにそうなのですが、当時の日本の、日本人の、坂道をグングン駆け上がっていくギラギラした感じが、いいなぁ、懐かしいなぁと感じました。

それとの対比で、90年代、氏がDFSの事業の売却を決断するに至った、裕福になったけど元気がなくなった日本人に、一抹の寂しさを感じさせます。それでも、我々の親の世代の、物欲にまかせた散財が、その後、氏の手によって正しく使われたと思うと、まぁ良かったかなとも思わせます。そんな読み方もできる本だと思います。

おまけ

最後に、氏の近況ですが、寄付は「The Atlantic Philanthropies」を通して行われていて、活動が詳細に公表されています。現在の計画では、2016年までにすべてを寄付して(1982年以来の寄付総額は63億ドル!)、2020年に財団を閉じるとされています。

また、「Secret Billionaire: The Chuck Feeney Story」では、アイルランドのテレビ局製作の氏のインタビューを見ることができます。本書と合わせてこちらも楽しめます。

以上、金持ち繁盛記、ビジネス書、hackを堪能して、懐かしい日本人に会える、いろんな読み方ができる本のご紹介でした。(了)

山中 淳彦さんのプロフィール:
株式会社ジェイクラフトの代表取締役社長。幾つかのOSSを開発、公開しており、pure Java sshクライアント「JSch」は、Eclipse、NetBeans、IntelliJ IDEAやApache Ant、JGitその他、様々なソフトウェアで使われている。普段はJavaでコードを書くが、最近は Scalaも。趣味は運動、特に水泳。二児の父。Eclipse Platform の committer。東北大学大学院情報科学博士。仙台在住。
GitHub:http://github.com/ymnk
Twitter:https://twitter.com/ymnk


変更履歴:
2013年12月9日:プロフィールに「仙台在住。」が抜けておりました。申し訳ありませんでした。


この記事(書籍の表紙画像を除く)を、以下のライセンスで提供します:CC-BY-SA
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