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「創造性とは何か」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(15)

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 技術者
  • クリエイティブな仕事に興味のある人
  • 問題解決に関心のあるビジネスパーソン
  • KJ法に興味のある読者
  • 読書を通じて新しい視点を得たい人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、読者は創造性に関する深い考察を提供する川喜田二郎氏の著書『創造性とは何か』についての理解を深めることができます。本書は、創造性を「問題解決の能力」として捉える著者の視点や、そのための姿勢についての洞察を示しています。特に、KJ法を開発した川喜田氏の考え方に触れ、その根底にある姿勢が創造性を発揮する上で重要であるとされることが強調されています。

また、創造的行為の本質として「自発性」「モデルのなさ」「切実性」が挙げられ、これらの性質が如何にして矛盾を解消し、問題解決に繋がるかについて解説されています。さらに、創造的行為の進行過程についても触れ、創造性に必要な条件とその実践についての著者の見解が述べられています。最終的に、創造行為がもたらす心理的陶酔感に注意を促し、本質はあくまで問題解決であることが強調されます。

この書籍を通じて、KJ法の具体的な方法というよりも、それを支える理念や哲学的背景を理解することができ、創造的思考や行動のあり方について考えるきっかけを与えてくれるとされています。読者は、この本を通じて自身の創造性を見つめ直し、それを向上させるためのヒントを得ることができるでしょう。

Text AI要約の元文章

tech

「創造性とは何か」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(15)

tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の15日目。サイボウズ・ラボ星野 喬さんのお勧めは「創造性とは何か」(川喜田 二郎、祥伝社)です。(編集部)

文:星野 喬

創造性とは何か
著者:川喜田 二郎
出版社:祥伝社
ISBN:9784396112134
定価:798円(税込)
発売日:2010年8月31日
判型:新書判
ページ数:184ページ

創造性とは、ひと仕事やってのける、すなわち問題解決の能力のことだと著者の川喜田二郎さんは主張します。

川喜田さんはKJ法を生み出した方です。KJ法は大量の情報を整理し仮説を導き出すための方法論のひとつで、それと仮説検証を組み合わせて問題解決を図るためのものです。

本書に出会ったきっかけは、同僚の西尾さんが「 チームワークのデザイン」という講義の準備をしていたときにKJ法について言及していたのでおもしろそうだと思い、著作の中で一番新しくて薄そうな本を買って読んでみたのでした。

その後KJ法について書かれた著作も読みましたが、私はKJ法そのものよりもその根底にある考え方にとても共感しているので、本書を紹介しようと思いました。本書ではKJ法の中身についてはほとんど書かれていません。では何が書かれているのでしょうか。

それは、私なりに表現すれば、「創造性を発揮するためにあるべき姿勢」と言えます。著者自らの戦争、移動大学、登山などにおける経験を経て長年かけて集大成した思想書という側面もあります。本書は「 創造と伝統」という単行本の第一章を抜粋した新書なのです。

以下、本書の内容について簡単に紹介しましょう。

出だしは唐突です。ソ連のゴルバチョフ大統領のとあるエピソードに感動した、という話から始まるのです。それはゴルバチョフの「世界を悩む」態度であり、著者の主張する人類が目指すべき道について、他のエピソードも交えて語られます。

次に、創造的行為の本質についての主張が繰り広げられます。著者の経験を元に得られた、「ひと仕事」が創造的たりえるための条件として、「自発性」「モデルのなさ」「切実性」が挙げられています。興味深いのは、これらの性質が矛盾を孕んでいるにも関わらず、実践することによって矛盾が解消する、すなわち問題が解決する、という点です。勢いで押し切られている気がしますが、著者の熱意はよく伝わってきます。

その後、著者は主にデカルトの思想と対比しながら、仏教との類似性について指摘しながら、創造的行為の進行過程について語ります。混沌から始まり、出会い、関心の発生、矛盾葛藤、そして本然に至る、と。本然とは紆余曲折あったが結果から振り返ってみると非常に自然だという意味だそうです……。そして、その後に出てくるキーワードが、馥郁と香る、雲と水と、愛と畏敬……。なんとも宗教的でともすれば胡散臭いと感じてしまうかも知れませんが、本書を読んでいると、なんだか納得してしまうのです。

さらに、創造的行為を行う動機について語られます。全体状況を把握したならば、そうしなければならないという「絶対感」、それをするのは自分だという「天命」を感じるがゆえにそうすべきなのだと著者は主張します。全体状況が自分にやれと迫るからやるのだけれど、それこそが真に「主体的」であるというのです。このあたりはもはや思想なのでしょう。万人の共感を得られるかどうか私には分かりません。私なりの言葉で翻訳すれば、「私益に拘らず全体のために行動しているけれど、それが実は一番自分のためになることなのだ」という考え方です。私はその価値観に共感しています。

そして、創造的行為によって得られる結果として心理的陶酔感が得られることは、一種の宗教的エクスタシーであり、それはやる気にも好影響なのですが、目的はあくまで問題を解決することであって、結果である陶酔感を目的にしてしまっては駄目だと著者はたしなめています。「人間は快楽のために生きているのではない」という考えに共感できる方ならこの主張にも同意できるのではないでしょうか。

最後に本書は「創造愛」という言葉で占めくくられます。「創造愛」というのは川喜田さんの造語で、創造主と創造物および創造が行われた場所に「愛と連帯感」が生まれ、創造主は創造物に支配ではなく畏敬を感じ、場所には「ふるさと」を感じるということなのだそうです。このあたりはもう「おまえがいうんならそうなんだろう」感が満載ですが、あたたかい目で著者の主張を見つめる自分がいることに気がつきます。ああ、これが愛というものなのでしょうか。

冗談だと思われると心外なのですが、私は本書を読んで本当に良い本だと思いましたので、本気でみなさんにお薦めする次第です。ただし、宗教的キーワードがたくさん出てきて、それはそれで楽しめるのですが、本書の価値はそれとはあまり関係ないと感じましたので、惑わされないようご注意ください。

ちなみにKJ法自体はものすごく具体的で合理的な情報整理の道具です。私はどんな道具も、それを使おうとする「意思」が正しい方向を向いていないと意味がない、と常々感じています。良い道具を探す前に、向かうべき場所、歩くべき道について考えてみるのはいかがでしょうか。本書はあなたにとってのそれらを 照らしてくれると私は思います。(了)

星野 喬さんのプロフィール:
サイボウズ・ラボに所属するソフトウェアエンジニア。バックアップ/レプリケーションのためのLinuxカーネルモジュール「WalB」を開発している。以前は並列分散、データベース、ストレージの研究をしていた。最近は趣味でlock-freeにハマっている。


この記事(書籍の表紙画像を除く)を、以下のライセンスで提供します:CC-BY-SA
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