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この記事から得られる知識は、ライナー・チムニクが書いた『クレーン男』について深く知識を得ることができるという点があります。この作品は、挿し絵画家であるチムニクが自身の物語を書いて多くの挿し絵を描くことを望んだ結果作られたもので、挿し絵と文章が交互に現れる独特の形式であることが説明されています。さらに、作品の翻訳者である矢川澄子の優れた翻訳が原文に忠実であるかのように感じさせると評価され、作品における装丁や紙の質がどれほど挿し絵の雰囲気に影響を与えるかについても考察しています。加えて、他の著名な作家や挿し絵画家との比較が行われ、カルヴィーノの作品やロアルド・ダールの挿し絵担当のクェンティン・ブレイクとの関連にも触れられています。最後に、物語の結末や詳細は明かさず、物語の独特の魅力を味わうことを推奨しています。
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tech
「クレーン男」──techな人にお勧めする「意外」な一冊(19)
tech@サイボウズ式のアドベントカレンダー企画、techな人にお勧めする「意外」な一冊の19日目(最終回)。サイボウズ・ラボの中谷 秀洋さんのお勧めは「クレーン男」(ライナー・チムニク、パロル舎)。(編集部)
文:中谷 秀洋
※写真は「童話屋版」(左)と「福武文庫版」(右)から。
クレーン男
著者:ライナー・チムニク
翻訳:矢川 澄子
出版社:童話屋、パロル舎(いずれも絶版)
ISBN:978-4894192492
発売日:2002年2月
判型:18.6cm × 12.8cm
ページ数:172ページ好きな本はいっぱいあるのですが、「お勧めの一冊」なので泣く泣く一冊だけ選んで、「クレーン男」というお話を紹介することにしました。作者はライナー・チムニクというドイツ人の挿し絵画家さんです。
挿し絵ってお話のところどころに入っているだけなので、枚数少ないですよね。普通。最近はライトノベルとかいう挿し絵多めなやつも増えてますが、それでも 挿し絵が100枚もあったりはしないでしょう。すごく絵を描くのが大好きなチムニクは、もっといっぱい挿し絵を描きたくなって、それなら自分でお話を作って思う存分挿し絵を描いてしまおう、といって本を書き始めたんだそうです。というわけで「クレーン男」を始め、チムニクのお話はだいたいみんな挿し絵と文章が1ページごとにあったりします。つまり挿し絵と文章の両方がメイン、そうですね、ここは長編絵本とか呼んでみたい感じです。
主に挿し絵を描く人でお話も書いている人といって思い浮かぶのはクェンティン・ブレイクでしょうか。「チャーリーのチョコレート工場」や「マチルダ」で有名なロアルド・ダールのほとんどの本の挿し絵を手がけている人です。名前を知らなくても絵は知っているという人は結構いるんじゃあないかな。でもチムニクのように100ページを越えるほどの長いお話は書いてなかった気がします。
そうそう、クェンティン・ブレイクと言えば「ザガズー」という変な名前の、子供に読ませるのがもったいないくらい楽しい絵本があります。なんだろう、お子さまにはまだこのおもしろさはわかるまいなんて、うそぶいてみたいところですけど、今は「クレーン男」でしたね。ちなみにロアルド・ダールで一番好きなお話は「B.F.G.」です。読むたびに「イギリスのキュウリはいったいどれだけまずいんだろう」と顔をしかめてしまいます。
原題は「Der Kran」だから、そのまま訳すと本当は「クレーン」というタイトルになるのでしょう。たしかに文庫版などはそちらの「クレーン」のタイトルで出ています。でもこのお話はクレーンが好きで好きで好きすぎて、クレーンに登ったっきり降りてこなくなったクレーンオトコが主人公なのですから、やっぱり「クレーン男」のほうがぴったりかなあ。
「登ったっきり降りてこなくなった」と耳にしたら反射的に思い浮かべてしまうのがイタロ・カルヴィーノの「木登り男爵」でしょう。あちらはカタツムリ料理が嫌で木の上に逃げたまま一生降りてこないお話ですけど。この「木登り男爵」と「まっぷたつの子爵」「不在の騎士」をあわせたカルヴィーノの「我々の祖先3部作」は「読んでないの? 人生損してるねえ」とうっかりしみじみ暴言を吐いてしまいそうになりますが、こちらはみなさんもちろん読んでいるでしょうから特に紹介の必要ないですよね。
「クレーン男」をはじめ、初期のチムニクの挿し絵は細い黒い線画で描かれています。細い黒い線ですから、白い隙間がいっぱいあります。この白い空間には何もないのではなくて、クレーンオトコや銀色のライオンが吸って吐いた空気がただよっているのです。読む人はそこに息づかいを感じるわけです。でもそうするとちょっと困ったこともあります。白いところが大事ってことは、紙が大事ってことです。紙が大事ってことは、装丁が大事ってことです。文庫本だとただでさえ白い空間が狭くて息苦しいのに、つるっとした均質な紙で絵の息づかいもなんか作りものめいてきます。
装丁の大切さをひしひし感じさせてくれるのは、シャロン・クリーチの「あの犬が好き」も同じです。これは詩の大嫌いな男の子が詩を書き始めて詩を好きになる物語が詩でつづられているお話なんですけど、ほんのり黄色味がかった紙に青いインクで印刷されていて、その色の組み合わせ、実はお話の中身とも関係あるんですよね。なにしろ詩なだけあって、とてもやさしい英語で書かれている原著「LOVE THAT DOG」の方を楽しむのもありです。ですが、黒インクなペーパーバック版もあったりするので、油断は禁物。
Love That Dog(Paperback)
著者:Sharon Creech
出版社:HarperCollins
ISBN:978-0064409599
定価:5.99ドル(US)
発売日:2001年3月1日
判型:5.2インチ × 7.5インチ
ページ数:128ページ「クレーン男」の空気の成分には文章も含まれます。となれば原文の空気もぜひ呼吸してみたいところですが、残念ながらドイツ語は、見てこれはドイツ語だとやっとわかるくらいにしかわからないので、かないません。でも大丈夫。矢川澄子のやさしくうたうような日本語訳は、原文もかくやと確信させてくれるしっとり具合です。あるいはもしかしたら原文よりよくなってたりするのかも。
翻訳の方がよくなってるなんてあるわけないって? いやいやいや、それはちょっと聞き捨てなりませんね。ジェズ・オールバラの「ぎゅっ」という絵本、読んだことありますか? この本、なんと呼び名以外のセリフは「ぎゅっ」しかありません。早とちり屋さんは、これ翻訳いらないよね、とか言っちゃうところです。でも、それはおいといて、とりあえず一度読みます(子供に読み聞かせるという口実で読むのが最高です)。そのあと、「ぎゅっ」って書いてあったところは原文だと実は "Hug" になってるのですが、それを思い出します。ほら、日本語版、いいでしょう?
ええとなんでしたっけ? そうそう、「クレーン男」。原則、ネタバレはしない人なので、あらすじは語りません。市長さんがクレーンオトコに言う最後の言葉、あれを言われるように自分もなりたい、とだけ言って「クレーン男」の紹介は終わることにしましょう。「クレーン男」もいいお話ですけど、もう一冊許してもらえるなら、7日目に「園芸家12カ月」を紹介されていたカレル・チャペックの「ひとつのポケットから出た話」もすごくいいお話なんです。でももともと「お勧めの一冊」ということだったので、「クレーン男」だけでがまんしておくことにします……。(了)
中谷 秀洋さんのプロフィール:
iVocaの中の人 / サイボウズ・ラボの文芸部員 / 自然言語処理 修行の身 / gihyo.jpで機械学習連載中
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