日野 瑛太郎
ブロガー/「脱社畜ブログ」管理人。著書に『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)などがある
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このコラムでは、チームワークと「身内びいき」との違いについて探求しています。人間には、自分が所属する集団を他と比較して高く評価する「内集団バイアス」があることを説明しています。これにより、チームが内側で良い関係を築く一方で、外部のチームと対立する原因となり得ることを指摘しています。\n\nさらに、組織が目指すべきは個々のチームの利益ではなく、組織全体の利益であるという視点を提供しており、真のチームワークとは、外部との関係もしっかり築くことが重要だと述べています。「身内びいき」に陥らないためには、自分たちの認知ゆがみを理解し、他のチームと積極的にコミュニケーションをとることが必要だと提案しています。\n\n最終的には、内側からだけでなく、外側から見ても良いチームとして見られることを目指すべきだとしており、居心地の良さだけを追求することが偽のチームワークに繋がると警告しています。
ブロガーズ・コラム
「今のチームは最悪だ」と自分の所属するチームに不満を抱く人たちがいる一方で、「今のチームは最高のチームだ」と自信満々で断言できる人たちもいます。前者に解決しなければならない問題があることは明らかですが、後者の場合であっても、必ずしもまったく問題がないとは言い切れません。
もちろん、自分の所属するチームに不満がないことはとてもよいことです。ただ、それが単なる「身内びいき」にすぎない場合、実は組織全体にとってはマイナスになります。
自分たちのチームの利益を守るために、同じ組織内のほかのチームと必要以上に衝突してしまったり、何ら生産的でない派閥争いにエネルギーを費やしてしまったりするのはいいチームではありません。「身内びいき」はチームワークではないのです。
今日は、そんなチームワークと身内びいきの違いについて、少し考えてみたいと思います。
実は人間には、「身内びいき」に陥りやすいという性質があります。これは認知心理学や社会心理学の用語で「内集団バイアス」と呼ばれるものです。人間は、自分が所属している集団の構成員を、外集団の構成員に比べて人格・能力の点で優れていると思い込んでしまう傾向にあります。
内集団バイアスの下で、人は物事を「自分の所属する集団にとって都合がいいように」解釈するようになります。たとえば、自分のチームが売り上げ目標の達成などといった「よい結果」を残した場合、それは「自分たちのチームが優秀だからだ」と考えます(内集団成員の望ましい行動は内的原因に帰属されやすい)。
一方で、自分のチームが売り上げ目標を達成できなかった場合など「よくない結果」を残した場合には、「そもそも目標が非現実的だった」「いっしょに仕事をしたほかのチームの行動がよくなかった」といったように「自分たちのせいではない」と考えます(内集団成員の望ましくない行動は外的原因に帰属されやすい)。
内集団バイアスは、チーム内部の結合を強める一方で、チーム外部に対しての差別や攻撃につながります。チーム間の軋轢や、非生産的な縄張り争い・派閥争いの一部は、これによって説明ができます。
「うちのチームにはまったく不満がないんだけど、他がねぇ……」と言っている人に出会ったことがないでしょうか。これはおそらく、内集団バイアスにより認知のゆがみが生じています。本来であれば、問題は外部にだけあるのではなく、内側に閉じこもろうとしているチームの側にも存在しているはずです。内集団バイアスは、そういった「内側に対する冷静な批判の視点」を隠してしまうのです。
会社組織のように、組織内にいくつか小集団が存在し、それらが連携して仕事をしなければならないような場合には、「身内びいき」は組織全体にとって好ましくありません。組織が目指すべきなのは「組織全体の利益の最大化」です。
しかし「身内びいき」によって引き起こされるのは、「組織内一小集団の利益の最大化」です。小集団同士は必ずしも利害が一致しませんから、結果的に足の引っ張り合いに陥り組織全体としてはマイナスになります。
つまり、自分のチームの内側の関係がうまくいっていたとしても、それだけでは必ずしもいいチームだとは言えないわけです。部署間の連携のような、チーム対チームのよい関係も築くことができてはじめていいチームだと言うことができます。真のチームワークは、チームの中だけに閉じるのではなく、チームの外にも開かれているのです。
このような悪しき身内びいきに陥らないためには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
まず最初にすべきは、認知のゆがみである「内集団バイアス」の存在そのものを認知することです(このような認知に対する認知を「メタ認知」と呼びます)。
もし自分が所属するチームを「最高のチーム」だと思い、一方で周りのほかのチームを「自分たちの足を引っ張ってばかりで迷惑だ」などと思っているのだとしたら、「内集団バイアスによる思い込み」を1度疑ってみましょう。そういった勘違いが自分の側にもある可能性を認めた上で、自分たちの側から周囲のほかのチームに対して、何か歩み寄るべきことはないのか客観的に考えてみるべきです。
基本的なことですが、普段からひとつのチームで固まりすぎないことも大切です。たまにはチーム横断でランチに行くなど、複数チーム合同でコミュニケーションを取る機会を作ってみるのもよいでしょう。
人間は知らない人に対しては、どうしても警戒をしてしまいます。たとえ同じ会社のメンバーであっても、よく知らないというだけでついつい悪い方向にばかり考えてしまいがちです。そうならないためにも、ほかのチームのメンバーと「知り合いになる」機会は積極的につくるべきです。
真にいいチームは、チームの内側からだけでなく、外側から見てもいいチームです。自分で自分のチームを「うちのチームはいいチームだ」と言えるだけでなく、いっしょに仕事をしているほかのチームのメンバーからも、「あなたのチームはいいチームですね」と言われるようなチームを目指さなければなりません。
チームに内こもりの傾向があるのであれば、時にはそれを外部の視点で批判的にとらえることも必要でしょう。自分の「居心地の良さ」ばかり求めてしまうと、ついつい身内びいきに陥りがちですが、それは見せかけのチームワークでしかないのです。
イラスト:マツナガエイコ
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イラストレーター、Webデザイナー。サイボウズ式ブロガーズコラム/長くはたらく、地方で(一部)挿絵担当。登山大好き。記事やコンテンツに合うイラストを提案していくスタイルが得意。
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