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なぜプログラミング言語のように英語を習得できないのか?──カーネルハッカー・小崎資広(8)

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • エンジニア
  • 言語学習に興味のある人
  • プログラミングと英語学習の比較に興味がある人
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を通じて得られる知識は、英語学習とプログラミングスキルの習得の違いについて、小崎資広さんの経験を基にした考察である。小崎さんは、英語を学ぶ際につきまとう心理的障壁について触れ、特に最初の一歩を踏み出すことの難しさを語っている。英語学習においては、教材による学習が理解度を二択でしか評価できず、自己成長を感じにくいが、生の対話を通じて様々な表現の試行錯誤によって成功体験を得ることができると述べている。また、プログラミングと異なり英語の習得はすぐに成果を体験しにくいため、挫折しやすい。

小崎さんは、実際のコミュニケーションを通じて得られるインタラクティブな学びが重要だと強調し、英語のスキル向上には現地での日常生活や、強制的に英語を使わざるを得ない環境に身を置くことの重要性を示唆している。彼は、インプットよりもアウトプットや相手からのフィードバックが学びを深める方法として有効であると語っており、何かを学ぶ際に質の良いインプットを見つけるのは難しいため、アウトプットを通じて他者から反応を受けることが重要だと述べている。最終的には、興味を持てるトピックを英語で探し、それを通じて楽しく英語力を向上させることを提案している。

Text AI要約の元文章

tech

なぜプログラミング言語のように英語を習得できないのか?──カーネルハッカー・小崎資広(8)

サイボウズ・ラボの西尾 泰和さんが「エンジニアの学び方」について探求していく連載の第9回(毎週火曜日に掲載、火曜日がお休みの場合は翌日、これまでの連載一覧)。

富士通のエンジニアとしてLinuxカーネルの開発に参加されている小崎資広さんへの「インタビュー:その8」。Linuxカーネルという巨大なソースコードと日々戦っている小崎さんのお話は、きっと「エンジニアの学び方」の参考になるはずです。

本連載は、「WEB+DB PRESS Vol.80」(2014年4月24日発売)に執筆した「エンジニアの学び方──効率的に知識を得て,成果に結び付ける」の続編です。(編集部)

文:西尾 泰和
イラスト:歌工房

今回は、英語を使って活躍している小崎さんにぜひとも聞きたいこと、つまり「どうやって英語を学んだか」を聞いてみたいと思います。

小崎さん

英語、全然ダメです

英語はいかがですか?

全然ダメです。

全然ダメっていうのは主観ですから。世の中の人からすると、1日1000通の英語のメールを捌いてるのは英語ができるほうに入ると思います。

いや、リスニング能力がまだまだ全然足りてないので。僕が失敗したなと後悔しているのは、大学受験で英語を頑張らなかったことなんです。

そうなんですか。

まったく頑張ってないんで。

でもプログラミングは、大学入ってからでもすごいスキルが身についたわけです。プログラミングと英語の違いはどこで生じるんでしょう。C言語と同じようにギューといけそうじゃないですか。

仰る通りで、それはやっぱりあれなんですよ。悲しいことに最初の一歩が一番心理的障壁が高いのです。英語ってレベルが上がった実感を得るまでにちょっとハードルがあり、実感を得るチャンスがあまりなくて、僕は階段を上り始める時期が遅くなってしまったと自己分析してます。ええと、無理矢理アドバイスの方向に持っていくと、セブ島に1カ月留学とか最近あるらしいじゃないですか、ああいうのいいんじゃないですかね。

セブ島1カ月、なるほど。それしかすることがない状況に行っちゃうと。

そうそう、つまり僕は毎日頑張る系は挫折するからダメだと思っていて、毎日頑張るためにはどうしたらいいかっていうのを考える。

せざるを得ない状況にどうすればなるのか。

ええと、英語は教材でやると分かる、分からないの二択なんですけど、対話なら相手は人間なのでこっちが分かんなかったら向こうがだんだんやさしい単語を使って分かるようにしてくれる。そうすると成功体験ができる。特に英語って、英語知ってるだけじゃダメで、その地方の言い回しに合わせないと通じない。なので場数、失敗の数が非常に重要なんだ。けども、どうしても失敗すると心は折れるし、発音がダメでダメだったのか、選んだ単語が悪かったのかとか、識別が難しい。結局は場数を踏んでいろんな話題をちょっとずつ表現を変えて話すっていうのをやるしかない。そこは英語のテキストではダメで、生の人間とやるのが一番良い。

確かに英語のテキストだと分かる、分からないの二択だけど、実際の人間だとすんなり分かった、ちょっと頑張ったら分かった、いろいろやった挙句にようやく分かったみたいないくつもの階層があるから、階段が小さくなってるわけですよね。

そうそう、あと僕はテキストの例文などを見ると「これこっちの言い方じゃダメなの」って気になるタイプなので、ネイティブの人にすぐ聞けるのが重要。

「どっちでもいいよ」みたいなことを言われるわけですよね。

まあ、それもあるし「そんな言い方、聞いたことねえ」みたいなのも、余裕である。

「理由が分からないけど、そういう言い方はしないね」みたいなことを言われたり。

余裕である。

人間が使う言葉だからそうですよね。

二人に聞くと二人とも答えが違って大混乱とかね。余裕であるんですよ。

自信満々で違うこと答えられるケース。

日本語でもそうですから。

特に東沿岸のところは、ボストニアンとニューヨーカーが非常に仲が悪いので「発音に対してニューヨーカーの意見を聞くなんて馬鹿じゃないんですか」とか、普通に言われるわけですよ。

リスニングが苦手という話でしたけど、逆にスピーキングはどうですか? リスニングとスピーキングだと、リスニングのほうに苦手感覚がある感じですか? スピーキングのほうが難しいのかなと勝手に思ってしまいがちなんですけど。

求められてるレベルが違うやん、スピーキングはよっぽど下手でも向こうが頑張ってくれたら済む話なので。

伝える内容を持っていれば、相手が頑張って聞いてくれる?

そうそう。

リスニングは相手がすごいスピードでしゃべって「ああ、分からない」となると?

そうですね。

1対1での対話だったら「分かんないんだけど」って言ったら相手が遅くしてくれるけど、カンファレンスとかがめんどいんですよね。

カンファレンスって特に事前知識なしにまったく新しいの勉強したいときにすごく心が痛くなります。

何を言ってるのが分からない。分からないのが、内容が分からないのか、英語が分からないのか、どっちだろう、みたいな気持ちになってくる。

事前知識がないと、うまく単語分割ができないときがあるからね。

英語は対面で学ぶ

教科書とか教材ではなくて対面で、1対1で学ぶことがすごく重要?

僕はそう思った。

それは実際にやってみて、そのほうが上達速度が上がったということですか。ご自分の体験として。

速度以前に、教科書は自分の中でレベルアップ感が一切なくて、すぐ心が折れる。

教科書はクソゲーだと。

そう。

対面でのコミュニケーションはもっと面白いゲーム?

対面のほうがフィードバックがある分だけ、完全にダメだったら大きく心が折れる。でも、そういう場合は「ちょっともういっぺん調べよう」という気持ちになるので、そこで小さなゴールが設定できるんですよ。

「今回、話して伝わらなかった内容を、今度はきちんと説明できるようにしよう」ということ?

そうそう。

で、またチャレンジしてみて、「今度は成功した」って体験を積むことができると。

そうそう。でもひとつ大失敗があって、僕、ボストンにいたときに、分かんないから英語の修行しようとしたら、英語のティーチャーに「ミートアップに行けよ」とか言われたわけです。「日本文化のミートアップあるよ」と言うので、アニメのミートアップに行ってみたんですよ。そしたら参加者がみんな日本語ペラペラでさ。

そっちのオチ。

むしろ日本語で分からないところ、日本語で質問される。「この表現は何?」みたいなことを。

日本のアニメに対するモチベーションはすごいです。ラリー・ウォールも、それで日本語勉強してました。一生懸命日本語を勉強してるんですよ、アニメを見たいがために。

「楽しいこと」を英語で

自分が興味を持てることに対して、というのが効率がいいんでしょうね。

そうそう、脳の動く速度って嫌なことをやってるときと、楽しいことをやってるときで明らかに違う。

英語で学びたい楽しいことを見つけないといけない。

ボストンにいたときに聞いた話だと、そういう英語字幕がついた違法ダウンロードはインターネットに山ほどあるらしい。なので日本人もそういうのを落とせるんじゃないかな、知らないけど。でも、そういうの推奨しちゃ、いかんか。

ちょっと違法なものを会社のブログでお勧めはできない。最近ほら、MOOCという名前で、大学とかが講義をオンライン上で配布するケースが増えてきているから、自分の興味のある分野を英語で学んでみるのがいいんじゃないかな。合法ですから。
※著者注:MOOCの例としては Courseraなどがある。

合法ですね。あとあれがいいよ、TED

TEDね、いいって聞くんだけどね。

テキストにもなってるし、クローズドキャプションもついてる。

なんか、動画がいっぱいありすぎてね、どれを見ようか選ぶ段階で心折れちゃう。まじめすぎんのか。取りあえず聞けばいいのか。

分かる、分かる。

あとなんか日本語のブログとかでさ「TEDのこの講演が面白い」って紹介されて、日本語で説明書いてあるからつい日本語を読んじゃって、それで満足しちゃう。

よくある。すごいよくある。

アウトプットドリブン

習慣にしようとするからいけないのか。TEDを見る習慣を作ろうと思うからいけないのであって、TEDを見て日本語のそれを紹介するブログ記事をまず1本書くことを目標にする、というような発想の転換をすることで、いい方向に持っていこうということですよね。

僕の場合は、英語を勉強しようと頑張ったのはたいてい全部失敗して、カーネルハックをしようと思ってて、ただ単にコーディングするだけじゃなくて、アップストリームのコミュニティでやろうと思ったら、英語はどんなに苦手でも書かざるを得ない。これはアウトプットだ。「今日中にこれに対してちゃんと返事をする」とか目標ができる。

アウトプットの目標が明確になっていると。

そうそう。

インプットしようと思ってるとうまくいかない?

インプットはやっぱり質のいいインプットと質の悪いインプットを自分で判断するのが大変難しいんですよ。で、そこの判断に力をかけるのは、時間の使い道としてお勧めじゃない。アウトプットして誰か分かってる人にフィードバックもらったほうがいい。

すごく納得できます。

「これから何かを学ぼうとしている人が、インプットの質を判断することは難しい」。この話にはとても納得しました。確かにプログラミングに関しても、うっかりひどい内容の本を買ってしまう人は多いですね。

一方「アウトプットして、分かっている人にフィードバックをもらう」に関しても、やはりこれから学ぼうとしている人は「分かってる人」かどうかを判断することが難しいんですよね。だから「発音に対してニューヨーカーの意見を聞くなんて」と言われてしまうわけです。

英語の学習に関しては、教科書よりも対面のほうが心が折れにくいとのこと。ゲームでもやさしすぎると飽きるし難しすぎると心が折れるので、適度な難易度に調節することが重要です。対人のコミュニケーションの場合、相手が難易度調整をしてくれることがその他の手法との大きな違いなのですね。

次回は、読者さんからの「情報処理資格試験は初心者がコンピュータサイエンスを学ぶ素材として適切かどうか」という質問にお答えします。(了)


「これを知りたい!」や「これはどう思うか?」などのご質問、ご相談を受け付けています。筆者、または担当編集の風穴まで、お気軽にお寄せください。(編集部)


謝辞:
◎Web+DB Press編集部(技術評論社)のご厚意により、本連載のタイトルを「続・エンジニアの学び方」とさせていただきました。ありがとうございました。
◎インタビュー会場として、「イトーキ東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ)」にご協力いただきました。ありがとうございました。


変更履歴:
2014年9月30日:初公開時、イラスト画像(本文、アイキャッチ)として前回のものを掲載してしまいました。現在は修正済みです。申し訳ありませんでした。


この記事を、以下のライセンスで提供します:CC BY-SA
これ以外のライセンスをご希望の場合は、お問い合わせください。

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