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あいまいな人材の定義が新卒採用をダメにする――採用学で読み解く企業人事の根本問題

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業の人事担当者
  • 大学生や新卒就活生
  • キャリアカウンセラー
  • 経営者
  • 採用学に興味のある研究者
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読むことで、日本の新卒採用の問題点と、それを解決するための考え方について理解することができます。現代の日本の新卒採用制度は、企業がどのような人材を必要としているのかという定義が曖昧で、そのために採用活動が数を優先しがちなことが指摘されています。特に、企業は学生に自社の魅力を伝えることに集中し、多くの学生を集めることを目的としているが、その結果として人材のミスマッチが起こりやすくなっています。

採用学の研究からは、企業側と学生側の期待のマッチングが重要であることが示唆されています。企業が本当に必要な能力や条件を明確にし、それに合った人材を選ぶプロセスが求められています。また、採用と育成を一体化し、採用時に得た情報を基に研修を組み立てることが、社員の成長や適材適所の配置に役立つという意見もあります。

面接官の質や選び方の問題もあり、面接官はただ頼みやすい人ではなく、プロとして適切な判断ができる人が求められます。さらに、採用ガイドラインやプロセスのルーティン化が、長期的には人材の適切な選定を妨げる可能性があり、人事制度全体の見直しが必要であると言われています。これらのポイントから、日本の新卒採用の改善方向性について考えることができる内容です。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

インターン大学生の疑問

あいまいな人材の定義が新卒採用をダメにする――採用学で読み解く企業人事の根本問題

現代の日本社会の改善すべき点としてしばしばあげられる新卒採用。そんな新卒一括採用は学生を採用する側の企業、就職活動に臨む学生にとって、望ましい制度なのでしょうか。 企業は学生の何を見るべきなのか、どうすればよりよい採用ができるのか──。

日本企業が抱える採用の問題から大学生のキャリア意識に関する問題を「採用学」として研究する横浜国立大学の服部泰宏准教授に、サイボウズ執行役員・事業支援本部長の中根弓佳が迫ります。(後編:面接時の「何やりたいですか」に意味はあるのか? に続きます)

採用学とは何か

服部先生が研究されている採用学とはどのような学問なんでしょう。

採用を募集・選抜・定着というフェーズに分けて、人事データを分析したり、学生にアンケートをとったりしながら、「どのようにすれば企業と学生がよりよい出会いができるのか」ということを研究するために、「採用学」という学問を自分で立ち上げました。

いわゆるリクルートさんとかマイナビさんが研究されている内容に近い感じでしょうか。

そうですね。それらに加えて、理論的なフレームワークを与えたり、データを分析したりして、採用に関する企業の行動が本当に良い人材の獲得につながっているのかという因果関係を研究しています。

おもしろいですね。私も採用を担当しはじめて、入口ってすごく大事だと感じています。なぜなら日本の場合は、採用した人がマッチしなかった時に、企業側からすぐに辞めてもらうという選択肢を出すのが難しいですからね。

なるほど。

サイボウズはアメリカ、中国、ベトナムなどに拠点があります。海外ではある程度柔軟に試用期間で判断できるところがありますが、日本の採用ではそれがなかなか難しいので採用に対しての比重がすごく高い。

本当に重要ですよね。これまでの日本企業の採用は基本的に、そこそこの人材を採り、後は入ってからなんとかするっていうものでしたから。

この集団を採用しておけば何か間違いないだろうっていう。

だけど今は学生も多いし、企業の競争環境も激しくなってきているので、今までみたいに学歴とコミュニケーション能力だけで判断できなくなっている。だから採用学がこれから役に立っていただけるかなと思う次第です。

服部泰宏さん 横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院(経営学部) 准教授
1980年生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程を修了し、博士号(経営学)を取得。滋賀大学経済学部専任講師、同准教授を経て、2013年4月から現職。著書に『日本企業の心理的契約:組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房,2013年)など。

企業が「欲しい人材」を定義できていないのが問題

採用を研究していて、どのような問題意識をお持ちですか。

一番は企業側が「欲しい人材」を定義できていないことですね。

なるほど。

企業と学生の間のマッチングって、大きく分けて2つあるんですね。1つはお互いが何を求めるかという期待のマッチング。どんな条件、勤務地、企業水準を求めるかというところです。
ここの部分が日本企業はクリアになっていない。そのせいで企業はたくさんの学生をいったん集めることを重視してしまいがちになります。魅力的な情報を出して、多くの人を集めましょうって発想になる。

そういう企業は多いと思います。

もう1つは、能力のマッチングです。企業が求める能力に見合った学生が集まらなければ、ミスマッチが起きます。

そうですね。

例えば、良くあるのは「大体、御社は何を見ていますか?」っていう調査をすると、大体、コミュニケーション能力や論理性、創造性のようなものに収れんしてしまいます。

確かにそうなっていますね。笑

要するに、企業が「欲しい人材」の定義ができていなくて、各社同じようなものになっている。だから同じような学生をめぐって、各社が競い合っているという状況です。

採用は「数」よりも「質」

日本企業の場合、まず人を集めなきゃいけないってこともあるので、いかに自社が魅力かを伝えてとにかく人を集める。これが基本戦略なんですよね。

弊社は採用にかけられるリソースが多くないこともあり、母集団が多ければ多いほど良いとは考えていません。できれば弊社が必要とする人材、ご縁がある人材の濃度が濃い母集団を作りたいので、早い段階から自分達の理想とあわせて課題も伝えるようにしています。

中根弓佳 サイボウズ株式会社 執行役員・事業支援本部長

いやそうなんです。各企業で一人の人材を採用するために何倍の人を集めているのかをデータとして取得したのですが、どの企業もエントリー段階では最大限人を集めて面接までに絞るんですね。
ただ一個だけちょっと特殊な企業群があります。ファーストコンタクトでは多くの人を集めるのですが、エントリー段階や説明会で実際に合う段階の面接よりもっと前の段階で情報を積極的に出し、合わないと思った学生から辞退してもらう企業です。
面白いのは、こうやって事前に情報を出す企業って、割と良い人を採用できているという結果が出ているんですよね。やはり数よりも質をいかにコントロールしていくかが、いい採用のための1つの条件です。

おもしろいですね。どんなに学生さんが優秀であっても根本的に考え方が違う、理想像が違うことはもちろんあり得るし、そういう場合はご縁がないのかなと思います。もちろん、学生さん自身のことや弊社の良さなど、見えなかったことに気付いていただいて結果としてマッチする、ということもありますが。

無理に集めても辞めていく可能性も高いわけですからね。

企業の面接はルーティン化している?

御社では何を重視して採用に取り組んでいるのでしょうか。

サイボウズが大切にしたい価値観に合っているのかどうかを最も重視しています。

理解度ってどんな風にして計られていますか? 例えば「こんなこと大事にします」って言っても、学生は「良いと思います」って言うじゃないですか。

「良いと思います」って言いますね。でも本当に共感している場合は、それを自分の言葉で話せるんです。理解度が違うんですよね。

「この人は違う」っていうのを判断するのがなかなか難しいですよね。

そうなんですよ。簡単ではないケースもあります。

面接官によって受け取るニュアンスが変わってきますからね。
ある企業の話です。AさんBさんCさんって求職者リストが縦にあって、それを誰が面接したかのデータを取得し、それと入社2年後の定着やパフォーマンスにどのような相関があるかを分析したことがあります。その企業では、ある面接官が面接するとすごく良いとか、この人が面接すると辞めるよねみたいな結果があるんですよね。

おもしろいですね。そもそも人材マネジメントに興味があり、その人がどういう人生を歩んできたか、それを背景にどのような思考、能力、特性があるのか、今後私たちのチームにジョインした場合、どういうキャリアを築ける可能性があるか、どんな成長カーブを描くのか、それらは私たちのチームの価値観とマッチするのか、逆にどんな懸念点があるのかなどをイメージできたりする人じゃないと、面接には向いていません。

でもそういう面接官をそろえるって難しいんですよね。以前150社くらいの企業に「面接官をどのように選んでいますか」ってアンケートした時に、「頼みやすさ」というのが多いんですね。あの人だったら断らないかなとか。

なるほど。頼む側の問題もあると思いますが、面接の重要性をよく理解しているかどうかでしょうね。

あるいは面接官の人同士の組み合せなど、企業側の事情もありますね。やっぱり面接にそこまでリソースをさけてないのが実態です。

面接は履歴書、エントリーシート、目の前の情報だけから、学生がその企業に合うかを見なければいけないので、かなりプロフェッショナルなものだと思います。興味がなければこだわりも持てない。

まったくその通りだと思いますが、日本企業全般の話をすると、採用活動がルーティン化されていて、プロが育ちにくい分野になっているのは残念です。
どちらかというと「若い人がとりあえず通過するのが採用担当者」っていうのが伝統的なパターンになっているのが現状です。人事に優秀な人がいないわけではないのですが。

なるほど。採用を通じて学べということだとは思いますが。

せっかく人を見抜く力がついたころには採用から離れてしまって、また新しい人が入ってくることが多いんですよね。これではなかなか採用も良くならない。

「採用」と「育成」は一体化すべき

我々、人事の人数が少なくて。採用と研修のチームが一緒なんですよね。

なるほど。いやいやそれはほとんどそうですけど。

逆に良いことだと思うんですよね。どういう判断で採用されたメンバーかということを知っていることで、どういうコミュニケーション、研修、環境を与えるとよいのかを考えて、より効果的な研修を組み立てられます。
また、研修や配属異動を重ねるうちに、その人がより見えてきて、採用の際に認識したことが、よくも悪くも含めて想定通りだったのか違うのか、採用での見落としはなかったのか、なぜそういう結果になったのか、プロセスの問題か、面接官の問題か、他に要因があったのかなど、採用の振り返りにもつながります。
時間がたてばたつほど、配属先の環境、生活環境なども関係して、採用以外の要因も大きくなりますが、そういった可能性も含めて採用から育成を一気通貫してデザインできるとより効果的だと思うんです。

私もそう思います。採用と研修を切り離すと、確かにオペレーション上はすごく効率化します。
だけども例えば新入社員研修の時に、「この人はこんな素晴らしいところがあるけど、こんな問題がある」ってことも頭に入った上で研修や育成を組み立てていくのと、「とりあえず取ったので、ハイじゃあお願いしますね」ってバケツリレーのような形で採用と育成がパスされるのとでは、まったく意味が違います。日本の企業は1つの問題はまさにバケツリレーになっていることですよね。

規模が大きくなって人の顔も見えなくなったら、なかなか難しいかもしれませんね。

研修に関していうと能力の育成においても、私達の能力って容易に育成できるものと育成できないものってものがありますよね。

ええ、あります。

研修で言うと、創造性とかクリエイティビティっていうのはトレーニングするのは難しいですよね。

難しいですね。

こういうのは採用で見極めるのは難しいんですけど、でもやっぱり採用の時になんとか見極めておきたいっていうのがある。

それこそ見極めるところなんじゃないかなと……。

コミュニケーション能力って、ない子であっても、ある程度トレーニングしてあげればできるようになるし、洋服のような第一印象も改善できます。そうすると、それは本当に採用でそこに時間を掛けて見るべきものなのかって話も出てくるんですよね。
だからこそ、そもそもその能力ってものは企業にとって変えられるものなのか、変えにくいものなのかっていう区別がまず重要です。

後編に続きます。

2015年1月27日面接時の「何やりたいですか」に意味はあるのか? 採用学視点で考える学生のキャリア
文:安藤 陽介 撮影:橋本 直己


「人事制度」を考える

2014年9月10日人事評価は適当でいい?──ココナラ南CEO×サイボウズ山田副社長 人事制度対談
2014年9月17日覚えられない企業ビジョンは意味がない──ココナラ南CEO×サイボウズ山田副社長 人事制度対談

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橋本 直己

フリーランスのカメラマン・エディトリアルデザイナー。趣味は尺八。そして毎日スプラトゥーン2をやっています。

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