サイボウズ株式会社

【葛藤】知恵をシェアしてしまう若手たち。トップクリエイターが悩む広告業界の変化

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 広告業界のプロフェッショナル
  • 若手クリエイター
  • 働くママやパパ
  • 企業の人事担当者
  • 育児制度に関心のある方
Point この記事を読んで得られる知識

この記事から、広告業界における働き方の変化や育児と仕事の両立についての洞察が得られます。伝統的な広告業界では、リーダーの背を見て学ぶ風潮と長い下積み期間がありましたが、新しい考え方や働き方を導入する企業も増えてきています。具体的には、サイボウズの長期育休制度などが若手に支持され、社員の成長をサポートする姿勢が注目されています。若手クリエイターは情報を共有する新しいスタイルを採用し、SNSやインターネットの普及が大きな影響を与えています。また、育児と働き方についても言及され、女性が出産後もキャリアを続けられるよう、イクメンの育成や制度改革が進められています。このように、業界全体が個人とグループの働き方のバランスを探りつつ、価値観が変化している様子が伺えます。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

【葛藤】知恵をシェアしてしまう若手たち。トップクリエイターが悩む広告業界の変化


株式会社東北新社取締役の中島信也さん(左)、有限会社谷山広告の谷山雅計さん(右)

サイボウズが2014年12月1日に公開した、働くママをテーマにしたショートムービー『大丈夫』。そしてそのスピンオフムービー『パパにしかできないこと』を2015年1月5日に公開しました。SNSを中心にさまざまな立場の方から多くの意見が寄せられ、賛否両論あることからも話題を集めています。

前回の記事ではムービー制作にメインで携わった3人の働くママとともに、クリエイティブに携わった2人のベテランクリエイターに、ムービー制作の舞台裏を語っていただきました。

今回は若手クリエイターの働き方や子育てについて、ムービー制作プロジェクトを担当したコーポレートブランディング 部長大槻幸夫が、有限会社谷山広告の谷山雅計さん、株式会社東北新社取締役の中島信也さんにお話を伺いました。


「俺の背中を見て学べ」では若手はついてこない


おふたりは若手クリエイターの働き方を見て、どのように感じていらっしゃいますか。


広告業界には、トップを走るリーダーがいて、それ以下の人間は彼の背中を見てついていくといった、業界特有の構造がこれまでありました。トップの「指導なんかしない。ただ俺の背中を見ろ」といった姿勢は代々続いていますし、とくに映像制作の業界は下積みも長いので、一人前になるまでに10年くらいかかるのです。


10年の下積みですか、長い修行期間ですね。


そのときに生き残った者が勝ちで、脱落した者は置いていくといったカルチャーは根強くありました。でも近年は若手がついてこなくなっているという現状があります。そんな状況のなかで、社員の成長をサポートする発想を持った、サイボウズさんみたいな会社が登場し始めたのだと思います。

その結果、「こんなにいい会社があるなんて」と若者に情報が入っていきますからね。インターネットが普及したいま、社員ひとりひとりがあらゆる情報に触れていますし、逆に彼らからもさまざまな情報が発信される時代です。本当につい最近ですが、企業側も変わらざるを得ないということは、大きな問題になってきました。


僕は18年前に博報堂を辞めてから17年間、僕ともう1名だけの会社で働いています。それもあって、とくに妊娠・出産を考えている若い女性社員の問題について、これまであまり考える機会がなかったというのが正直なところです。でも、サイボウズさんからお話をいただいたときに、会社のホームページを見て「育休最長6年」は相当なインパクトだなと感じましたね。

クリエイティブディレクションとコピーライティングを担当した谷山雅計氏。これまでの実績に「Yonda?」(新潮社)、「日テレ営業中」(日本テレビ)、「ガス・パッ・チョ!」(東京ガス)、「TSUBAKI」(資生堂)、「マルちゃん正麺」(東洋水産)がある


2005年頃の離職率は28%で毎週のように誰かが退職する状況でした。妊娠中に辞める人もいました。まず出産を機に退職する社員を減らそうと、女性社員の声を聞きながら産休・育休の制度も見直しました。また、大手と比べて採用力の乏しい中小企業なので、妊娠・出産のタイミングで大企業を辞めた女性に入ってきてもらえればという望みもありました。

「女性の活躍の場を広げよう」というようなきれいなお題目で始まった訳ではありませんでしたが、社員から反発もなくスルーされる事も無く、制度として定着し成果を生んでいる結果を考えると、サイボウズにとっては適切な入り方だったのかもしれません。


広告の世界では自らの意思で「辞める選択」をする、能力の高い女性もまだ少なくありません。そんな先輩を何人も見てきた女性たちは「出産しても大丈夫かな」という不安な思いを抱えていると思います。

業界的に厳しい競争のなかで仕事をしているので、一歩退かなければならないと考えると「私はここで終わりかも」と感じてしまう方もいるのかもしれませんね。たとえば僕も大病を患って6ヶ月仕事を休むとなると「第一線に戻れるかな?」と不安を抱くと思います。
妊娠・出産を選択する女性の場合、それに似た状態が若いときに必ず訪れるわけですから本当に大変ですよね。

子育てから得られる経験は何物にも代えがたい


では男性クリエイターに「イクメンになろう」とおすすめされますか。夫がイクメンになれば、出産後も第一線で活躍し続ける女性が増えるかもしれません。


夫が自分のことをイクメンと言っている限り、奥さんからすると「勘違いしてるな」と感じる部分がありそうです。とはいえ子育てはとても大事なことなので、昔みたいに奥さんに任せっきりにするのはよくない。子どもにとって大事な時期を一緒に過ごすことは必要ですし、それが推奨される世の中になっていった方がいいでしょうね。親子双方にとって幸せな時間になりますから。

高度経済成長期は、とにかく働けば働くだけ家が広くなり、家具が増えていくような時代でした。だからこそ「頑張ること=自分たちのため」だったはずですが、状況が変わったいまは、人間として何が幸せかといった見解も変わってくるのでしょう。その対象が“モノ”でないことだけははっきりしているので。

クリエイティブ監修の株式会社東北新社 取締役 中島信也氏。日清食品カップヌードル「hungry ? シリーズ」のCMで、日本人として初のカンヌ国際広告祭グランプリを受賞。サントリー燃焼系アミノ式の「グッバイ、運動。シリーズ」。ホンダ ステップワゴン 「こどもといっしょにどこいこう。」(1997- 2004年)。NOVA 「異文化コミュニケーション」 :宇宙人役で声の出演もしている


僕は「ふつうの『コピーライターになりたい』と言う人を教えたくない」と常々話しています。それは野球選手でいうと「『野球選手になれるなら二軍でもいい』と言う人」と同じ。本当にその道で活躍したいなら「オールスターに出られるレベルの選手」を目指すべきだと思います。


やるんだったら本物のプロになれ、ということですね。


過去の経験則から言うと、本当に素晴らしい仕事をする人のほとんどは、3〜5年は仕事しかしない時期を過ごしています。イクメンがどうこうというレベルの話ではなく、あらゆることを犠牲にして、目の前の仕事だけに没頭する期間を過ごさないと、いちばんの高みには到達できない。それを考えると、イクメンを勧める・勧めない以前の問題になってしまうのです。

とはいえ、子どもを育てることで得るものは大きいですから、仕事以外に取り組むこととしての価値は非常に高いと思います。自分にとって新しい経験はどんなことであれ、貴重な学びになるものです。僕自身、子育てを積極的に経験したことで、何度も素晴らしい発見をしましたし、新しいアイデアが生まれたこともあります。

チーム内ポジション争いから、皆で協力し合うチームへ


アイデアで思い出しましたが、昔からグループで仕事をしていても、基本的には個人のアイデア勝負で、どれが採用されるかは本当に“戦い”でした。これはクリエイティブ業界特有のあり方で、サイボウズさんの取り組みとは対極的ともいえます。「チームメンバー同士で戦う」わけですから。


個人とグループウェアですから、全くの正反対ですね。


野球選手がチーム内でポジション争いをしているようなものですから、「絶対に負けるか」という感じでやっているわけです。ただ、いまの若い人と昔の自分を比べて驚いたことがあります。コピーライティングの講座で、大手代理店やプロダクションに勤める若いクリエイターに教えているのですが、彼らの多くはお互いの知恵をシェアし合おうとするのです。

昔であれば課題を出されるとひとりで考えるのが普通でしたが、いまは複数人で集まってアイデア会議を始めるのです。おそらくそれは、サイボウズさんみたいな会社の方針があたりまえのものとなった環境で生きてきた人の考え方なのだろうと思い、びっくりする部分はありました。


なるほど。お二人には、このアイデアをシェアする若者たちがどう映るのでしょうか。


そのやり方には、いい面と悪い面が両方あると思っています。自力で課題に取り組むという意味ではどうなのかなと思う反面、彼らが集まって議論することで新たに生み出されるものもありますから、おもしろいなとは感じますね。


僕はいまでも自分の課題はひとりで粛々と進めると思います(笑)。発表の瞬間が一番大事ですから、それまでは絶対に他人に見せません。ただ、相手から「プレゼンする内容を事前に送ってください」と言われることもあります。その場でやるからこそ「芸」になるわけで、こちらは30年以上「芸」を磨いてきたわけですが、そこはもうやり方が変わってきているのでしょう。

僕たちは高度経済成長期に乗っかってきた世代なので、やればやるだけ自分に返ってくるというカルチャーがありました。でも若い世代は「競争してもこの先はない」とわかっているのではないでしょうか。その上の「皆でやっていくしかない」と本能的に察知しているのだと思います。いずれ「勝ち組」「負け組」では済まないという世界が来ることを感じ取っているのでは。


働き方然り、仕事の進め方然り、おふたりから見て彼らの価値観も変わり続けているのでしょうか。


変わっていますね。たとえば恋人をゲットするのもそう。ある女性を好きになっても「他の男は全員敵だ」という感覚がなく、どこかサラッとしている(笑)。恋をするのは苦しいことですが、その苦しみを味わうのが嫌なのだと思います。若い人が人間関係のギクシャクしたものを極端に嫌がる傾向は強いです。極端な話、苦しい思いをするくらいなら恋人もいらないという印象がありますね。


我々の言っていることが「古い」という可能性もありますけれど(笑)。ただ、上手くいかなかった恋愛こそが、人間のコミュニケーション能力を一番高めるという話は僕も若い人にしていますね。先ほどお話した子育ての話も含め、積極的に取り組んでもらいたいなと思います。

(取材:池田園子、撮影:谷川真紀子、編集:小沼悟)


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