サイボウズ株式会社

有休とれない&深夜残業のブラック企業が変わるには?──「脱マタハラ×イクボス」から

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 企業経営者
  • 人事部門の管理職
  • 労働改革に関心のあるビジネスマン
  • 女性の社会進出を推進したい活動家
  • 働き方改革を志向する政策立案者
Point この記事を読んで得られる知識

この文章は、日本企業の働き方がどのように変わるべきかについて議論したものです。特に職場で妊娠・出産した女性に対する嫌がらせ「マタハラ(マタニティハラスメント)」問題と、家族や子育てに協力的な上司「イクボス」の重要性が取り上げられています。

マタハラに関しては、日本の経済状況や社会の性別役割分担意識、長時間労働文化が問題の背景にあると指摘されています。この問題の解決には企業文化の変革が必要であり、適切なペナルティや法制度の導入が求められています。対話ではマタハラNetの小酒部さやかさんが、問題を指摘することで自身も非常に勇気のある行動を取ったことが強調されます。

一方、イクボス・プロジェクトは、部下の育児参加に協力的な上司を増やすことを目指しており、その推進が企業の労働力確保に有利であるとされています。成功例としてサイボウズなどの企業があり、これらの企業では柔軟な勤務制度を導入して、離職率を劇的に下げ、人材採用に成功しています。また、イクボス・プロジェクトの啓発として、活動のロールモデルを広めていくことが重要とされています。

さらに、こういった改革は働く側にも企業側にも利益をもたらす「Win-Win」の関係であり、労働者側のメンタルヘルス問題にも好影響を与えると考えられています。日本が持続可能な経済を保つためには、これらの改革が避けて通れないという認識が示されています。

Text AI要約の元文章

有休とれない&深夜残業のブラック企業が変わるには?──「脱マタハラ×イクボス」から

職場で妊娠・出産した女性に対して行われる嫌がらせ「マタハラ(マタニティハラスメント)問題」と、部下の育児参加に理解・協力する上司を増やす「イクボス・プロジェクト」。どちらも「日本の企業の働き方を変える」という同じゴールを目指しています。

そこで今回、「マタハラ問題」と「イクボス・プロジェクト」に取り組むメンバーが一同に会して、これから企業はどのように変わっていくべきか意見を出し合いました。

登壇者は「マタハラ問題」を世に提起して「世界の勇気ある女性賞」を受賞したマタハラNet代表の小酒部さやかさん、小酒部さんとともにマタハラ問題に取り組む弁護士の圷(あくつ)由美子さん、ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜さん、NPO法人ファザーリング・ジャパン代表&発起人の安藤哲也さん、元祖イクボス・川島高之さん、サイボウズのイクボス社長こと青野慶久さんの6人。トークセッションに先立って小酒部さんが行った受賞記念の講演やこの日に発表となった「マタハラ白書」の解説も織り交ぜてご紹介します。

なぜ経済先進国の日本で「マタハラ問題」が起きるのか?

マタハラNetを立ち上げ米国国務省より「世界の勇気ある女性賞」を受賞した小酒部さやかさん。経済先進国の受賞は極めて稀。主要7カ国(G7)出身者が受けるのは初めてであった。

「マタハラNet(マタニティハラスメント対策ネットワーク)」代表の小酒部さやかです。先月アメリカ国務省から「世界の勇気ある女性賞」をいただき、2週間のプログラムを受けつつ、全米各地を回ってきました。

この賞は日本ではほとんど知られていません。なぜかというと、いわゆる「先進国」に贈られることは極めて珍しい賞だからです。つまり今回の受賞は、日本が「女性問題における後進国」とみなされていることをも意味するのです。

私はアメリカで会う人ごとに「なぜ、経済先進国の日本でマタハラ問題など起こるのか?」と聞かれました。私はそのたびに「理由は主に2つある。1つは性別役割分業意識が強いこと、もう1つは長時間労働が根付いていること だ」と答えました。

アメリカでマタハラ問題が起きたのは40年以上前のことです。訴訟文化の国ですから、マタハラなどがあればすぐ裁判が起きます。企業は何億ドルもの解決金を支払わなければならない場合もあり用心するようになり、働く女性の権利が確立していったのです。

これに対して日本では、マタハラを起こした企業に対するペナルティがほぼゼロです。裁判をしても解決金がものすごく低いので、訴訟を起こす人もなかなか現れません。

でも、このままではいけません。皆さんは「Be the first penguin」という言葉をご存知でしょうか? 氷上でペンギンが押し合いへし合いしている姿はかわいく見えますが、実際は誰かひとり(一匹)が最初に海に飛び込んで、オットセイやシャチに食べられるリスクを冒さなければいけません。そうしないとみんな餌にありつけず、群れ全体が死んでしまうからです。「Be the first penguin」は勇気を称える言葉なのです。

いま会場にいる皆さんも、一人ひとりが「first penguin」のつもりで、それぞれの職場の改善につとめてくだったらと思っています。

ベースにあるのは「長時間労働」の問題

ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由紀さん。

ダイバーシティ・コンサルタントの渥美です。僕からは、小酒部さんらの調査をまとめたマタハラ白書」より、現状について補足説明をさせてもらいます。

「マタハラ白書」はマタハラ被害に遭った当事者約200名の実態をまとめたものです。これを見ると、マタハラは非正規雇用や小さい企業にお勤めの人にだけ起こる問題ではないことがわかります。上場企業に勤める正社員もたくさん被害に遭っているのです。また、加害者は男性だけでなく、女性も少なくありません。

マタハラ被害は、相談相手を見つけづらいことも大きな問題です。会社や上司に相談しても何も対応をしてもらえなかったり、余計に傷つく言葉を投げかけられたりして、2次被害に遭うケースも多いのです。

先ほど小酒部さんもおっしゃっていたとおり、マタハラ問題のベースには「長時間労働」を美徳とする日本の企業文化があります。ここを、何とか変えていく必要があるでしょう。

多様な働き方が可能だから、優秀な人材がわんさか集まる

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久。

サイボウズの青野といいます。サイボウズはグループウェアというソフト、すなわち多様な働き方を可能にするための情報共有システムを提供している会社です。

サイボウズも以前は、土日出勤&深夜残業が当たり前の会社でした。離職率も非常に高く、採用・教育の効率がよくありませんでした。そこで「働き方を見直す取り組み」を始めました。社員と相談して「育児休暇が6年までとれる」「妊娠がわかったらすぐに産休に入れる」「在宅で勤務できる」「時間をずらして働ける」「週3日勤務OK」など、さまざまな働き方を可能にする制度をつくった結果、現在は離職率が5%を切っています。

親切でやったわけではなく「経済合理性として」やったことです。おかげさまでいまは就職先として大人気で、採用率が1%を切りました。優秀な人がバンバン入ってきます。

そうすると女性の比率も自然と高まって、今は社員の4割が女性、役員10人のうち2名が女性です。執行役員の女性は2人の子育て中で、毎日17時半には帰宅します。

わたし自身も3人の子どもがいて、いまは短時間勤務中です。保育園のお迎えにいかないといけないので、すいませんけれど、あと1時間で失礼します。(会場笑)

川島です。私も会社を経営していて思いますが、女性活躍はもはや選択の余地がない話で、経営戦略上、当たり前という感覚ですよね。

大手商社系の会社を経営するイクボス・川島高之さん。

そうですね。たぶん今までのような日本企業の経営をやっているところは、生き残れないのではと思います。労働力はいま減っていますから、優秀な労働力を確保することは経営戦略上の根幹にある課題です。それができない会社は滅んでいかざるを得ないだろうと。

我々のいるIT業界はブラック企業みたいなところが多いですが、正直そういう会社に負ける気はしないです。採用も大変でしょうし、みんな青い顔をして働いていますから。

上司や管理職を「イクボス」に変える

NPO法人ファザーリング・ジャパン発起人&代表の安藤哲也さん。新刊『できるリーダーはなぜメールが短いのか ~残業ゼロで「圧倒的な成果」を上げる仕事術』(青春新書インテリジェンス)好評発売中!

NPO法人ファザーリング・ジャパン(以下略してFJ)代表の安藤です。FJのコンセプトは「父親であることを楽しむ」ということ。現在会員は400人を超えます。さまざまなテーマに取り組んでいますが、いま一番力を入れているのが「イクボス・プロジェクト」、すなわち部下の育児に協力的な上司の育成です。

FJを立ち上げた9年前は、僕もまだ小さな子どもが2人いて、共働きの妻と共に子育てをしつつ、楽天という会社で管理職をしていました。長時間労働が当たり前で、毎週朝早い会議があったんですが、僕は出たことがありません。「保育園の送り迎えを優先したい」としっかり伝え、特例として認めてもらっていたからです。

周囲を見ると、長時間労働を美徳とする企業風土によって家庭での育児協力参加を阻害され、夫婦関係に問題を抱える男性がたくさんいました。そこで、FJを立ち上げようと決めたんです。

9年間活動をやってきましたが、マタハラやパタハラ(パタニティハラスメント=上司が男性部下の育休取得を妨げること)、メンタルヘルスの悪化など、課題はまだまだ山積しています。働くこと、育児をすることは人間の基本的な営みなのに、それがかなわない状況です。

こういったことを考えたとき、やはり「組織の上司や管理職を変えなければ、状況は変わらない」と思い、昨年この「イクボス・プロジェクト」を立ち上げました。ここにいる2人(川島さん、青野さん)のような「イクボス」のロールモデルを可視化して、情報を流していく必要があります。

「イクボス・プロジェクト」に対する企業の感触はどうですか?

さっき青野さんも言ったように、これから人材不足になってくるので、「先んじて手を打ちたい」と思っている企業や業種は反応がいいです。積極的にセミナーや研修等を開催しています。ただ一方で、まだまだ古い体質の業界もあり、温度差も感じています。「イクメン」のときと同じように、しばらくは正しい情報やロールモデルを伝えていくことが必要だなと思いますね。

じつは働く側にも企業側にも「プラス」なこと

マタハラNet設立からNet及び小酒部さんをサポートしている、弁護士の圷由美子さん。

マタハラ問題を考えることは、労働者側にとっても企業側にとっても「Win-Win」なことです。目先しか見られない企業は「雇用者の産休&育児休暇=休まれて穴が開く=マイナスなこと」と捉えがちですが、長い目で見れば採用・教育のコストも省けますし、子育てをする雇用者はその経験を経て仕事の効率も上がるので、企業にとっても「プラスなこと」です。

いま若年の労働者が、どんどんうつ病になっています。このままだと日本は、おそらくつぶれます。今年は雇用機会均等法施行から30年です。均等法制定時は、男性と女性、どちらの働き方に合わせるか、というところで、結局男性側に合わせてきてしまいました。政府が女性の活躍推進を掲げる今回は、男性の働き方を女性のほうに合わせる、おそらく最後のチャンス です。

いま、解雇を金銭で解決できるような法案や、労働者を「定額働かせ放題」にできるような法案が上がっています。もしこれらが可決されれば、せっかくホワイト企業として頑張っているところも、ブラック企業との競争で苦しい立場に追い込まれかねません。ぜひ、ホワイト企業が損をせず、報われる、法政度も含め、そうした「働き方改革」の実現に向けて、みなさんといっしょに活動していきたいと思います。

次回に続く

文:大塚玲子 撮影:内田明人 編集:渡辺清美

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執筆

ライター

大塚 玲子

いろんな形の家族や、PTAなど学校周りを主なテーマとして活動。 著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。ほか。

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