サイボウズ株式会社

「ベンチャーなんだからモチベーションは高くて当たり前だろ?」は間違い──「働きがいのある会社」1位の社員を盛り上げる方法

この記事のAI要約
Target この記事の主なターゲット
  • 経営者
  • 人事担当者
  • 企業の管理職
  • 働きがいの向上に興味があるビジネスパーソン
  • ベンチャー企業の関係者
  • 企業文化の改善に取り組む人々
Point この記事を読んで得られる知識

この記事を読んで得られる知識は、多様な業界における働き方改革の具体的な取り組みとその成果についてです。記事では、サイボウズとVOYAGE GROUPという二社の経営者が対話を通じ、社員のモチベーションと働きがいをどのようにして高めるかを探求しています。特に、VOYAGE GROUPが1位を受賞した背景にある社内文化改革の事例として、運動会の開催や一度退職した社員を再度採用する制度の導入など、柔軟な人事施策が紹介されています。これにより、社員の再雇用に対するオープンな姿勢と社員が楽しく働ける環境づくりについて理解できます。

また、VOYAGE GROUPでは、経営理念である「ソウル」と行動規範「クリード」を設定し、社内のすべての制度や仕組みをこれに基づいて再構築したことが語られています。例えば、半年毎に実施される360°評価制度は、社員の成長に気づきを与えるためのものであり、実名でなくフィードバックをすることで社員自らが選んだ同僚からの意見を基にした成長の機会を提供しています。さらに、経営理念を組織に浸透させるため、社員が面接官を務めるなどの場面で自社の価値観を語る機会を設けており、これによる理念の実践と浸透の重要性についても触れられています。

そのほか、社内のクルー満足度調査によるフィードバックや年2回の優秀者表彰制度など、具体的な社員の満足度向上策が紹介され、それがどのように社員のモチベーション向上に寄与するかが示されています。これらの取り組みは、企業が個々の社員の声を重視し、社員の成長を支えることを通じて組織全体の発展につなげるための貴重な知見を提供しています。

Text AI要約の元文章
サイボウズ

「ベンチャーなんだからモチベーションは高くて当たり前だろ?」は間違い──「働きがいのある会社」1位の社員を盛り上げる方法

左よりサイボウズ代表取締役社長 青野慶久、株式会社VOYAGE GROUP 代表取締役社長兼CEO 宇佐美進典氏

Great Place to Work Institute Japanが毎年発表している「働きがいのある会社」ランキング。従業員と会社を対象に「働きがいのある会社」のアンケート調査を行い、評価・分析した結果をランク付けするものです。この「働きがいのある会社」ランキングの従業員100〜999人の部で、2015年、1位に輝いたのが、「ECナビ」をはじめとするメディア関連事業やアドテクノロジー関連事業などを幅広く手掛けるVOYAGE GROUP。サイボウズも3位に入りました。

実はVOYAGE GROUPの宇佐美進典社長と、サイボウズの青野慶久社長は、以前、一緒に合弁会社を設立したこともある旧知の仲。青野社長は宇佐美社長から人事に関する面で強く影響を受けたそうです。社員が働きがいをもってハッピーに働ける会社を築き上げるには何が必要なのか? 2人がじっくり語り合います。

楽しく働く様子に価値観が大きく変えられた

「働きがいのある会社」ランキング1位、おめでとうございます。この調査には毎年参加されているんですか?

ありがとうございます。ええ、参加は今年で3回目になります。初年度が4位、昨年が5位、そして今年が1位でした。

すごいですねえ。サイボウズは2回目で、初年度が12位、今年が3位でした。 僕はVOYAGE GROUPさんが1位をとられて、すごくうれしかったんです。なぜかというと、サイボウズが働き方に関するさまざまな制度を導入する上で、宇佐美さんの影響を受けた面が大きかったからです。

そうなんですか?

宇佐美さんと初めてお目にかかったのは2005年ですよね。ちょうど僕がサイボウズの社長に就任した年で。それまで僕は、会社全体のマネジメントなんて全然やっていなかったんです。 cybozu.netという会社を一緒にやらせてもらうことになり、宇佐美さんと毎週のようにお会いする機会があって。その時、僕は、経営者としての宇佐美さんが、何を考え、どんな意思決定をするのかを、じっと見ていたんです。そんな中で、こういうふうに考えなくちゃいけないんだな、と感銘を受けることがたくさんありました。

どんなことですか?

例えばモチベーションについてです。それまでの僕は、「ITベンチャーに入ったんだからモチベーションなんて高くて当たり前だろ? なんでそれを大げさに言うんだ?」と思っていました。その点、宇佐美さんは会社を盛り上げるために運動会を開いたりしていて。

ははは。今もやっていますよ。

あと驚いたのは、一度辞めた人を再度採用する、という施策です。辞めた人が戻れる会社ってすごくエキサイティングだなと思って。今、サイボウズでも同様の制度※を導入しています。 とにかく社内がオープンなんですよね。みんなすごく楽しそうに働いていて。そういうのを見て、僕の中で大きな価値観の変化がありました。

育自分休暇制度 35歳以下で、転職や留学等、環境を変えて自分を成長させるために退職する人が対象。最長6年間は復帰が可能。

経営理念は魂をこめた言葉であるべきだ

光栄ですね。ただ、cybozu.netを一緒にやらせていただいていたころから、ウチの会社もずいぶん変わっていますよ。2009年から2010年にかけて、いろいろな変革を行ったので。

どんな変革をしたんですか?

今、ウチの経営理念には、創業時からの想いである「ソウル」と行動規範の「クリード」の2つがあるんですが、このセットができたのが2010年なんです。 以降は、人事制度、採用、その他あらゆる社内の仕組みを、このソウルとクリードに基いて作り直しました。クリードは従来からあったんですが、それ自体全部作り変えましたね。

どんな狙いがあったんですか?

それまでのクリードには、どこかで聞いたような言葉が入っていたんです。例えばリクルートの江副浩正さんが言った「自ら機会を作り出し、自らを変える」のようなものとか。確かにいい言葉なんだけど、ウチのオリジナルな言葉じゃないよな、と。日々の会話にも出てきやすいものなので、自分たちの言葉に変えていかなくてはいけないと考えたんです。「社員の誰かがあの時こう言っていたな」みたいな、リアルな体験に基づいていて、かつシンプルなものにしようと。

どのように作っていったんですか?

全社アンケートを行ったりして、参加したい人は全員できるようにしました。そこからキーワードを再度洗い出して。3ヶ月くらいかけて作りましたね。

「ソウル」の「360°スゴイ」も、インパクトがありますよね。

クリードを作った後、「ビジョンが欲しい」という声が社内から沸き上がってきたんです。ただし、われわれの場合、いろいろな事業をやっていることもあって、ある事業に近いビジョンを作るとほかの事業が入らない、といった感じになりがちで、すごく難しい。

なるほど。

でも、やはり欲しいということで。じゃあ作ろう、となったんですが、どうもボヤッとした言葉にしかならないんですよ。それだと言葉にパワーがない。 そこで結果として出てきたのが創業時の想いだったんです。もともと僕らは会社を「どの会社よりもスゴイことをやろう」という想いで始めていて、それはどういう事業をやっても変わることがない。なので、「360°スゴイ」という言葉にしました。

わかりやすいですよね。何をするにしても「それってスゴイの?」という会話ができる。

「ちっちゃくねえか?」みたいな(笑)

「360°じゃなくて23°くらいしかないんじゃない?」とか(笑)。ビジブルですね。

語りやすいですね。僕自身も、クルー(社員)も。

言葉をぼんやりさせなかったというのは発明ですね。

魂をこめた言葉であるべきだと思ったんです。魂をこめないと浸透しない。だからビジョンではなくソウルという自分たちのオリジナルの言葉にしました。経営本にあるように、ビジョンとミッションとバリューを全部つくるといった形から入らなくても、必要なものを必要な順番でやればいいと思うんです。

評価してほしい5人からフィードバックをもらう

「ソウル」や「クリード」を制度に落とし込んでいった、とのことですが、具体的にどのようにやったんですか?

制度に落とし込んだのは主にクリードですね。例えば、半年に一度、360°評価を行うのですが、その際の評価の項目が「挑戦し続ける」「自ら考え、自ら動く」「本質を追い求める」「圧倒的スピード」「仲間と事を成す」「すべてに楽しさを」「真っ直ぐに、誠実に」「夢と志、そして情熱」というクリードになっています。360°評価は、自分を評価してほしい人を5人、自分で選んで、その人たちに評価してもらいます。役員も含めて行っています。

自分で選ぶんですか! 選ぶほうも選ばれるほうもプレッシャーですね。

評価する人は、点数だけでなく、「この人はこういう点については挑戦していたと思う」「この点についてはしていなかったと思う」といったコメントもセットで書きます。10人から選ばれると、10人分のコメントを書かなくてはいけませんからね。大変ですよ。 ただ、これ自体は給与や昇進などの評価に結びつくものではなく、あくまで本人に気づきを与えるためのものです。

フィードバックは実名ですか?

実名ではなく、5人の中の誰かからのフィードバックということしかわかりません。

ただ、自分で選んだ人からのフィードバックだと、納得感が全然違いますよね。いいですねえ。サイボウズでは360°評価はできていません。

制度に落とし込む一方で、ソウルやクリードを組織に浸透させることも大事です。それにはとにかく、ソウルやクリードについて社員が語る機会を多く設けるのがいい。そこで、採用面接やOB訪問などに、できるだけ多くの社員に対応してもらうようにしました。面接官をすると、逆に学生さんから「なぜ御社に入社したんですか?」などと聞かれたりするんです。その時にソウルやクリードについて自分の言葉で説明すると、自分の中でもしっかりと腹に落ちますから。

それは大事ですね。経営理念って、ともすれば掲げて終わりになりやすいですもんね。

経営理念が本当に大事なんだということを、トップだけでなくいろいろなレイヤーの人が感じて、自分の言葉にして行動に移すことが大事だと思います。

大企業なんてよく「顧客第一」とか言いますけど、おそらくそれは評価の項目に入っていないと思うんです。だから顧客より社内の派閥を見て仕事をしたりする。組織に浸透させようと思ったら、経営理念を評価項目に入れなくてはなりませんね。

熱いどころかむさ苦しい会社(笑)

「働きがい」を高めるために、ほかにどんなことをやっていますか?

「働きがいのある会社」調査のほかにもう1つ、「クルー満足度調査」という社員の満足度調査を行っています。社内の全スタッフを対象にアンケートを取って、「異動の希望があるか?」「評価に納得しているか?」「上司からきちんとフィードバックを受けられているか?」「将来のキャリアについてどう考えているか?」といったことを聞いて、もし満足していないという人がいたら人事にフィードバックします。

それもサイボウズではできていないなあ。

「働きがいのある会社」調査では、個人名がわからないので具体的なアクションが取れないんですよね。だから、社内向けのミクロの対応はクルー満足度調査でしています。

なるほど。

それと、年に2回、4月と10月に、ホテルで総会も行っていますね。「スタートダッシュ賞」「新人賞 」「ベストプロフェッショナル賞」「ベストセールス賞」「ベストエンジニア賞」「ベストリーダー賞」といった賞を設けていて、優秀者を表彰します。誰もが何らかの賞に選ばれるチャンスがあり、自薦も他薦もOKです。

自薦もOKですか!

候補者の中から役員が選出します。賞金も出ますよ。ベストプロジェクト賞は50万円、個人のMVPは30万円とか。

うわ〜! サイボウズも1年に1回、社員投票で優秀者の表彰を行っていますが、賞金のケタが違いますね(笑)

賞をとるまでのプロセスも大事だと思っています。総会が終わった時が次回の賞の選考のスタート。賞をとれなくて泣いている人もいたりして、それに対して周りの先輩が「次は絶対にとらせてやる!」と励まし、後日、「そのためにはこれをやらないと」とテーマや課題を与える。そんなサイクルを半年ごとに繰り返しているんです。

熱いですねえ!

ウチは熱いどころかむさ苦しい会社ですよ。女性の比率が4割近くなんですが(笑)

後編に続く

撮影:内田明人 文:荒濱一 編集:渡辺清美

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執筆

ライター

荒濱 一

ライター・コピーライター。ビジネス、IT/デジタル機器、著名人インタビューなど幅広い分野で記事を執筆。著書に『結局「仕組み」を作った人が勝っている』『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている』(光文社)。

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